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日銀総裁はエアコンの操作係 (愚痴日記 第2日)

「初鳴きは、どうだった?」
オンエア後、プロデューサーSに声をかけられた。
正直に、「大規模な金融緩和策って何?って、ずっと思ってました。日銀総裁が、それを先導してきたことは分かりましたけど」と言った。

経済音痴を強調すれば、早めに他の番組に移してくれるかもしれない。

「まあ、元気だして。そんな顔をしていると、経済音痴が視聴者にばれてしまうよ。」 
 そんなこと言うなら、経済音痴の新人アナを、キャスティングするなよ。
 本当は情報番組のレポーターからスタートさせるはずだった私を、Sが強引にキャスティングしたって噂。
余計なことをしてくれたもんだ。徹底的に恨んでやる。

「君の部屋に、エアコンがあるだろ。」
 突然、Sが言った。
 「寒くなったら暖房、暑くなったら冷房を入れるよね。」
「ありますけど・・・」
「実は日銀は『経済のエアコン』で、そのリモコンを動かしているのが、日銀総裁なんだ」
何の話をするつもりなの? 大規模な金融緩和策の話じゃないの?
「日本経済を、大きな部屋と考えてみよう。室温に相当するのが物価だ。室温が下がりすぎるとデフレ、上がりすぎるとインフレとなる。これをコントロールして、過ごしやすい室温にするのが日銀というエアコンの役目なんだ」
「日本経済は、長い間デフレに苦しんできた。氷河期のように、冷え込んでいたんだな。そこで黒田前総裁は、なんとか物価を上げようと、エアコンのリモコンをあれこれ操作してきた。それが大規模な金融緩和だったんだ。」
「エアコンのリモコン操作?」
「そうだ。日銀が握っているリモコンには、『政策金利』というスイッチが付いている。エアコンの強さだな。また、経済の燃料に相当するマネーの供給も操作できる。人や企業がたくさんお金を使う、つまり燃料を燃やしてくれれば、部屋が暖かくなるというわけだ。」
「デフレをなんとか終わらせようと、黒田前総裁は必死だった。政策金利をゼロ、いわゆる『ゼロ金利政策』を導入し、さらには『マイナス金利政策』にも踏み込み、マネーという燃料をばらまいた。これが大規模な金融緩和策で、『異次元の金融緩和』とか『黒田バズーカ』も呼ばれてきたんだな。」
「でも今、すごい勢いで物価が上がっていますよね。部屋が暑くなってきているわけですよね。だったら、暖房じゃなくて、冷房を入れた方がいいんじゃないでしょうか?」
 私は思ったことを言ってみた。Mにはこんなこと聞けない。間違いなく、鼻で笑われる。ところが、Sは褒めてくれた。
「分かってるじゃないか!日本経済は、急速に暑くなってきたけど、黒田前総裁は、暖房を入れ続けたまま退任した。頑固な人だったなあ。でも、総裁が代わった。植田新総裁は暖房から冷房、つまり金融緩和から引き締めに動くのではないのか?これが注目されているというわけなんだ。」
 そういうことか。Sに褒められて、ちょっぴりうれしくなった。
 少しだけ、分かったような気がした。
 でも、私の経済音痴は、簡単に治るようなものじゃない。
 早く、バラエティ番組に行きたい・・・。
 
 
 

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