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「君たちはどう生きるか」を見に行くまで

今までは1週間の出来事を日記形式で計6日分書いていたが、それが意外と性にあっていなかったのか、かれこれ2週間分は溜め込んでいる。
だから、これからは1週間の中で一番心に残ったことについてガッツリとした量を書いていこうと思う。

今週のタイムちゃんでも触れられていたけど、僕はアニメーターだ。
といっても、まだ入社してから4ヶ月経っていない新人。
有難いことに仕事は貰っていて、少しずつではあるが担当したカットが流れたりもしている。

アニメーターにもなると、娯楽だったアニメが首を絞める凶器に変わる瞬間がある。今までは作画が凄いアニメを見て「すげぇなぁ、見応えある作品はやっぱりいいなぁ」と思えていたけど、最近は「頼むからクオリティ高いのを書かないでくれ。日本アニメのハードルを上げないでくれ」とウンザリする気持ちの方が多い。

そんな中で、宮崎駿監督の最新作「君たちはどう生きるか」が公開になった。

正直、後ろめたい気持ちが大きかった。
タイトルからして説教臭そうだし(影響を受けた本のタイトルがそのまま映画のタイトルになったいるだけなのだが)、近年の宮崎監督の拗らせっぷりを見ていて、昔のジブリのワクワクとした娯楽は味わえないのだろうと感じていたから。なにより、作画の凄さに圧倒され、高い壁に絶望したくなかったから。

しかし、自分が見ていない映画で職場の先輩や同期が盛り上がっていて、その輪の中に入れず、尚且つ彼らの話を聞いてしまったせいで新鮮な気持ちで映画に没入できなくなることが嫌だったので、見に行くことにした。これを同調圧力と名付けていいのだろうか。

とりあえず、予約はしておこう。
公開前日(木曜)だけど、次の月曜の予約ぐらいはできるだろう。
予約をして逃げ道を塞いでおかないと、きっと僕はめんどくさくなって見ない道を選ぶことになるから。早めに退勤してから日本橋のTOHOシネマズに向かった。

東西線の日本橋駅を降りて、コレド日本橋に入る。
しかし、コレド日本橋にはない。映画館があるのはコレド室町。コレド室町は日本橋駅から10分ぐらい歩いたところにある。
マップを使わないで拙い土地勘を頼りに突き進んだが、開発工事現場にぶち当たってしまい、観念してマップを見たら全くの逆方向に行っていたことが分かり、大人しくマップに従って進む。

早くしないと席が埋まってしまうと急いでいたが、日本橋や大手町に巣食う高給取りの足取りはとても遅く、横に拡がってタラタラと歩くから思うように進めなかった。
長時間勤務をせずとも安定した給料が保証され、余暇を持て余しているんだろう。タラタラと道を歩いても人生に損をしないんだろう。そんな生き方が染み付いていると勝手に決めつけているうちに、段々と彼らにムカついてきて、半ば強引に人の壁をこじ開けて早歩きで抜き去った。

段々と知っている道になってきて、マップを使わずともどうすれば着けるか理解出来る場所に出た。
コレド室町は複数の建物で構成されている。映画館があるのはいわゆる別館で、そこに辿り着くには本館と別のデパートの間の道に入る必要がある。僕はこのたった10mの道が大嫌いだ。

ただの布切れに何万も払ってそれを着て、ちょっとの洋酒とちょっとのツマミを食べるという「腹を満たす」という本来の目的を逸脱した食事にまた高い金を払い、テラス席にふんぞり返って歯が浮くような上っ面だけの話で抑えた笑い声を発する高給取りがなんと多いことか。

僕がそういう人を嫌うのは、僕がいくら好きな事を仕事にしているとはいえ、働いても低い賃金しか貰えていないからなのか?それとも、そういったお店で大人の嗜みに興じる友達がいないからなのか?その答えがいつ出るのかすら分からない。

日本橋という名前がついているのにコレド日本橋に映画館がないこと
日本橋という名前がついているのに最寄り駅が三越前であること
最寄り駅が三越前なのに入っている商業施設がコレドであること
タラタラ歩く高給取り
自分には理解できないおやつ程度の食事に大金払う高給取り

これらにイライラしながら映画館に入り、チケット購入端末で「明日以降の上映回を予約する」というボタンを押すと、2日後までしか予約できず、月曜日の予約はできなかった。無駄足だった。
肩を落としながら帰宅し、翌日また出直すことにした。

次の日。公開当日なのもあり、会社でも映画の話題で持ちきりだった。
僕の1番仲がいい同期は新宿の夕方の回で予約済み。特に見に行く予定が無かった他の同期は、先輩に半強制的にで池袋の映画館に連れられてまとめて見に行くみたいだ。
正直、予め見に行くことを伝えておいてよかった。頻繁に話す先輩はともかく、特に会話をした覚えもない同期と一緒に移動して映画を見るなんてハッキリ言って苦行だ。

そして、元々月曜に見に行く予定だった映画も、土曜日に繰り上げることにした。どうせ会社で映画について話すのは火曜日であることに変わりはなかったけど、会社帰りに見に行って、2連休はこの間いただいたガンプラを作るために捧げた方が効率的だと考えた。

早めに仕事を切り上げて、足早に日本橋へ向かった。本来、2日連続(翌日も切り上げるから3日連続だった)でこのような帰り方をするのはあまりよく思われないだろうが、先輩は僕の事情を理解してくれて、笑顔で見送ってくれた。本当にありがたい。
昨日行ったばかりなので道は覚えていたし、高給取りに対しても耐性がついていたのでそれほどイライラせずに映画館につき、公開日ではあったけど大体の人が前日までに予約していたせいか、ほぼ並ばずに予約ができた。

そして土曜日。
僕の周りの人はほとんど映画を見に行った状態だったが、僕の周りを感想が飛び交うことはほぼ無かった。仲のいい同期と先輩が少し話したかなぐらい。
アニメーターの現場は口数が多い時と少ない時が両極端だし、積極的に話しかけに行くのも、僕か仲のいい同期か、先輩かの3人に絞られ、その3人からコミュニティが拡大することもない。寂しいことではあるが、今回はそれがよく働いてくれた。

「お先に失礼します」と言いながら退勤すると、先輩が「おぉ、行ってらっしゃい」と笑顔で優しく見送ってくれた。本当にいい職場だなと噛み締めながら、普段とは違って明るい道を辿って駅に向かう。

西武線と東西線を使って1時間かけて映画館に着くと、人がエントランスにわんさかといた。
このうち何人が既にみていてネタバレを含む感想戦が繰り広げられているか分からない。イヤホンのノイズキャンセリングをMAX、流していたアルピーANNの音量も爆音にして、完全に外界の音を絶って劇場に入った。もちろん劇場内ではイヤホンもとって携帯もしまった。

そこから2時間近く、映画を見ていた。感想はまだ言わないでおく。
もし終映したあと、感想を書くだけの熱量がまだ胸の内にあればその時に纏めて書こうと思う。

ひとまず、色々な思いが駆け巡る中で、30分近く歩いて東京駅まで歩いて、珍しく1000円を払って食べた味噌ラーメンは美味しかったとだけ書いておこう。


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