プロローグ

「む……朝か……」
クジキリコンゴウーーそれが彼の名だ
ドラゴンエンパイア諜報・実行部隊〈ぬばたま〉の忍
忍竜は夜に生まれ、影に生き、闇に滅するーーそんな忍竜の里にも、朝は来る

忍者は夜を駆けると相場が決まっているが、夜勤は遭遇するモンスターのレベルが高かったり視界が悪く、深酒した里の民も出歩いているため、クジキリコンゴウは日勤を多めに入れている

寝具を畳み、テキパキと朝食を終えると朝のニュースをチェックする

ここは惑星クレイ
スターゲートの業者に頼めば、家にテレビを置く事も、忍里にインターネット回線を引く事も容易なのだ

ユナイテッドサンクチュアリ内部の不祥事が報道され、ドラゴンエンパイアの軍事侵攻が取り沙汰され、ダークゾーンのスイーツ女子達が特集され、ズーのコマーシャルが流れる
いつも通りの世界情勢を軽く見渡して、朝の散歩に出る

彼は御曹司
本人の向上心が高く、恵まれた環境で努力したため〈ぬばたま〉の中でも忍術・体術共に最高位の実力を持つと言われているが
実はあまり働かなくてもいいのだ

もっとも彼ほどの収入があったとしても
シラヌイ達のように毎夜宴会に興じていては、すぐに素寒貧、下手をすれば借金まみれになるだろう

クジキリコンゴウの生活が安定しているのは
彼がとにかく物を欲しがらないのと、個人情報の管理を徹底している点に尽きる事を
シラヌイ一派で知る物は少ない

シラヌイ達は強いのだ
仕事は下請けばかりだが、むき出しの闘争心、ためらいのない攻撃、燻っていたゴロツキを纏め上げるカリスマ性
実力だけなら、彼が里を治めてもおかしくない

だからコンゴウの上役には「実力不足」と里長の推挙を断っているのだが、
どうにも「里は継ぐもの」だから、実力は重要な評価項目ではないらしい

スターゲートから取り寄せたテレビに影響されて、嫌な想像がクジキリコンゴウの頭をよぎる
パパラッチ……スキャンダル………失脚………世間の冷たい視線………村八分……………

やはり、里長を務めるには、「実力不足」だ…………

せめてシラヌイ達のように、誰も反対意見を述べられないほど強くなれたら……………
〈ぬばたま〉の行く末を、見守っていけるのだろうか……

クジキリコンゴウの休暇は、午前中を回ったところだ