追憶からの手紙

タバコを吸う裸の背中にいつも

「タバコはやめなよ。」

と少し笑いながら言われる。

絡み果てた後には
どうしてもタバコが欲しくなる。

愛とか恋とか憧れてた時代は自分にだってある。
ただ、男って存在が自分の想いとは違う生き物だった。
ただ、それだけ。

毎回そんな気持ちを味わい
何となく大人になった。 


今の仕事だって成り行きだ。
別に嫌いじゃない。
色んな男を見られるのは特権だと思う。

ただ男なんて皆んな変わらない。
サイズなんてどうでもいい。

その腕の力だったり
時折身体を撫でてくれるか。
そんな事の方がよっぽど大切だ。

男も女も行為の最中は
ずっと昔から好きだったみたいな幻を見たい。

愛だったり
恋だったりの幻。

でも、どーせ幻だから
終わってしまえば縋りついた自分に腹が立つ。

呆れたり
忘れたり
もう信じないと叫んだはずなのに、、、

それは、いつも痛む。
だからタバコを吸う。
この煙が感覚を麻痺させてくれる。
何もかもボヤけさせてくれる。
痛みを忘れさせてくれる。



「タバコはやめなよ。元気な赤ちゃん産めなくなる
 よ。」

そいつはいつも汗だくになった後
煙に虚う私に言う。

「子供なんて、私には無理。」

「そんな事無いさ。
 この仕事はいい仕事だよ。
 そうじゃなきゃ、一生女の身体を知らずに
 死んでく寂しいヤツが増える。

 でもさ、いつか自分の幸せを求める時だってくる。
 そしたら次の誰かにバトンを渡せばいいんだ。

 何も傷にする事なんて無いよ。」

毎度毎度、正気か?と思う。
月に2度程、私はこの男と会い抱かれる。
別に太客って訳でも無い。

ただ、コイツと会うのに喜びを感じる自分は
残念だけど知っている。

あんなに真っ直ぐ愛したり、恋したりした時は
誰も応えてくれなかったじゃない。

払った金の分、元を取りたいだけだ。
そう思ってもコイツの言葉だけは何故か染みてくる。

キザだし、馬鹿みたいだし、呆れるし
いつだってそう思う事にしてる。

でも
何だろな?

タバコを揉み消す時に違う痛みを感じた。


ホテルを出ると迎えの車に乗り込む。
お疲れ様ですなんてドライバーの言葉を
軽く聞き流している。

「タバコ吸いますよね。」

少し窓が開いた。
服や髪に匂いが付くのは良くない。
でも私はいつも痛みを忘れたかった。

「タバコ、やめたんだ。」

私は答えた。

私のタバコはホテルのテーブルの上に置いてある。
代わりに古めかしい感じだけどさ
1枚のメモを持って帰ってきた。

また傷付くんだよ。
そんな自分の声が聞こえた。

それでも

「出会いなんて何だっていいよ。
 間違いなんてないんだよ。」

そういう男の言葉に酔ってしまった。
酔いが醒めるまでは、これでいいんだ。
もし酔い続けられたなら、、
きっとこんな自分でも変われるかもしれない。

時間や言葉は関係ない。
重ねた鼓動の波が心地良くて
多分、1人にしか湧かない感情が分かったなら
きっとそれだけが真実だ。

タバコだけが私の痛みを止めてくれた。
それだって幻なんだろな。
今はあの男の、綺麗だよと言う吐息だけが
私の痛みをボヤかしてくれる。

だからずっと、、、

窓の外の夜景の明かりひとつひとつに
誰かの吐息が隠れてる。

私にだって、、、
そんな風に思えた事を
暖かいと思っていた。


to be everyday life


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