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Pompidou Center、カシミール マレービッチ、“走る男” (1932-1934)

1932-34年に描かれたこの作品は晩年の作としてよく紹介されている。1913年以降、純粋な感覚の抽象的表現を企図し、単純な幾何学的形態を基礎とする抽象画を発表、構成主義を標榜したが、晩年に至りここに掲げる作品の様に“物の形”に立ち戻っている。
人物の表現は構成主義以前、キュビズムの影響下にあった時の陰影表現を用いているが、背後の十字架のモチーフ(形)は構成主義の作品でも繰り返し描かれている。
人物の形からかユーモラスな印象も受けるが、前方に差し出される黒い手、十字架、ささくれ立ったマチエールなどから、“不安”、“孤独”といった心象も嗅ぎ取ることができる。
絵画の万能性を立証する為、晩年に至り、否定していた造形性、形象性に立ち戻ったとされるが、果たしてそうなのだろうか。このような心象を表現しなければならない何かが彼を形象を借りた心象表現へと向かわせたのではないだろうか。

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