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かみさまからのおくりもの

 蝶子先生は、わたしより、たしか10歳弱年上の先輩の英語の先生です。

 蝶子先生と知り合ったのは、わたしがまだ若かりし頃、一旦仕事を辞める前の頃。蝶子先生は、その勤務校にわたしが赴任するもっと以前から、常勤として勤めていらっしゃいました。正規の先生ではないけれど、やさしくて学校のことをよく知っていて、とても安心できる先生。

 蝶子先生は、派手な蝶ではなく、キチョウとか、モンシロチョウとか、シジミチョウとか、小さくてかわいらしい感じの、可憐な、控えめで上品な人です。
 一昨年まで、古い方のワイルドな勤務校でご一緒していましたが、高校生たちがわたしの授業中に、
「次、何?」「蝶子ちゃん。」「うわ、やべっ。予習してない!蝶子ちゃんに叱られるぅ~」
と、会話していたので、高校生たちからはどうやら、「蝶子ちゃん」と呼ばれて親しまれているようでした。そのくらい、可憐な人です。蝶子先生を気安く「蝶子ちゃん」と呼べる辺りが、彼らのすごいところでもあります。

 わたしは蝶子先生と不思議に似ているところがあります。(可憐さではありません。)
 蝶子先生は、例えばわたしの名前がフルネームで言えば「雲尾雲子」だとしたら、「雲野蝶子」、みたいな感じで名字の「雲」と名前の「子」が同じ、だから印象が似ています。
 しかも、蝶子先生のルーツはわたしと同じく九州方面、しかも蝶子先生も三人姉妹の三女です。さらに、血液型は、A型に見えるのに、B型です。
(わたしもぱっと見、A型に間違えられます。嘘ではありません。)

 ただ、見た目は似てなくて、蝶子先生は小柄で、ふわっとした長めの髪を、後ろで低めのポニーテールっぽくされています。
 とにかく華奢で上品。
 (ストーカーのように蝶子先生にくわしいです😊。)

 ですが、共通点の多さからか、どこかしら似た雰囲気があるらしく、あるとき二人で廊下を歩いていると、女子生徒に、
「先生たちってきょうだいみたい、なんか似てる~」
と、言われたことがあります。その時、二人で顔を見合わせて、😊😊😊~と笑った蝶子先生は、どこかしら、いつまでもまるで高校生みたい……。

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 その後すぐに、わたしは交通事故に遭って入院。学校に多大なる迷惑をかけてそのまま退職するわけですが、長くて憂鬱な入院とひたすら安静の後、なんとか、とある赤ん坊が生まれたとき、学校と先生方から出産祝いをいただきました(あんなに迷惑をかけたのに。)。
 蝶子先生はわたしに、ふつうの出産祝いだけでなく、「かみさまからのおくりもの」という絵本までプレゼントしてくださいました。

 「かみさまからのおくりもの」、知ってます?
 子育てを安易に考えていたわたしは、最初に読んだときは、「蝶子先生らしいかわいい絵だな~、ふうん。」と、軽~く思っただけだったけど、のちのち、子どもと読んでいるうちに、子どもを育てて行くうちに、「ふうん。」が、「たしかに…!なんか分かる。」に変わっていきましたよ。


          🌞 🌜 🌞 🌜 🌞 🌜 ……

 それから長い月日が経って、三年前に学校に戻りました。
 古いほうのワイルドな勤務校にはじめて行った日、春休みのざわざわした職員室で、緊張して教頭先生と話していたら、わたしのほうを見ている人が。蝶子先生でした。
 マスクをしていてもすぐ気づいたらしく、
「雲尾先生って、雲子先生のことだったのねぇ~😊😊」
と話しかけてくださいました。(退職前まではずっと旧姓を使っていたので、蝶子先生はわたしの名字はご存じありませんでした。)
 当時15年ぶり。
 すっかり学校のしきたりを忘れてしまっていて、配布物の印刷さえままならないわたしに、親切に声をかけてくださったり、教えてくださったり。


 一昨年の二月の初め、その年の最後の授業から帰ってきたら、蝶子先生がご自分のマグカップを手にわたしの橫を通りがかってわたしに、
「先生は、来年も……(ここ)……?」
と、床を指さして訊かれたので、
「たぶん、……😊?」
と、頷いたら、蝶子先生は頷きながらもの言いたげな顔で、職員室の隅の流し台の方へ歩いて行かれました。

 その年わたしは3年生を教えていたのでテスト返却もなく、その年度は終了。そして、翌年の四月には、蝶子先生の姿は見えなくなっていました。
 よその学校に行かれたのか、それとも、ゆとりがありそうな方なので、仕事自体辞めたのかも、と思っていました。


 今年。
 4月も後半に入ったころ、新しいほうの思慮深げな勤務校の職員室に入ろうと、ドアの前に立っていたら、懐かしい(ほどの年月ではない。間1年開いただけでした)蝶子先生にばったり……。蝶子先生も、ここで非常勤をされているそうで。

 というわけで、慣れない新しいほうの学校の落とし穴にわたしが落ちるたび、また、世話の焼ける妹のように、なぜかわたしの面倒を見てくださる蝶子先生なのでした。なんで、こんなに後を追っかけているんだろう、わたしは。

 もしかして蝶子先生って、わたしへの「かみさまからのおくりもの」なんじゃないだろうか……?

                ・ ・         
                      ・   ・  ~~~(🦋^^)
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 という、ちょっと思い出してしまった、わたしの先輩のお話。
 にしては、長い。                    ひらひら。

                          

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