水中教室
新しいほうの学校で担当している、ほとんど違わなく見える3つの理系クラス。でも、3つのクラスにも、ささやかな違いがある。
1つめのクラスは歴史選択のクラス。清楚な感じの女子が多くて、授業中も静かだけど、わたしが何か訊くと、頷いたり微笑んだりして、ほのかに答えてくれるクラス。「すみれ組」。
2つめのクラスは生物選択のクラス。理系クラスにしては元気があって、生き生きしているクラス。女子も清楚と言うより意志的。「生き物組」。(清楚な女子にも意志はあるか……)
ただ、3つめの地理・物理選択のクラスは、なんというか、ふつうの理系の男子が多く、やや女子が少ないクラス。リアクション薄めではあるけど大人しすぎるわけでもなく、でも元気な印象と言うほどでもなく、
……何と呼べばいいんだろうなあ??と、つねづね思っていた。
ふつうなことはいいことなんだけど、「ふつう組」と名付けるのは、どうも失礼な気がする。せめて「ふつうの組」かな、それでもやっぱり失礼なような……。
ところが、2学期に入って、このクラスに異変が……。
未だに慣れない気分の、建て替えられて新しくなってしまった我が母校の廊下を歩いて行くと、一番手前が「ふつうの組(仮)」。チャイムが鳴って、静かに教室に入ると、みんながちゃんと座って待っているから、……わー、緊張するな~。
と思いながらふと見ると、黒板の前、入口側のコンセントのそばの机に、水槽が出現している。ちゃんと水草が入っていて、水槽ポンプから泡が出ている。なかなかほっとする感じを醸している。
でも、さかな?ザリガニ?とにかく、生き物の姿は見えないようだ。
小学校ならありそうだけど、今まで高校に勤めていて、教室に水槽があるクラスって若い頃も含めて見たことがない。これは、学校生活最大の、不思議光景……!
わたし:? これ、何?
と、思わず口走っても、誰も自然発生的には答えてくれない💧のが、この学校。一番近くの席の人のほうを見つめると、やっと、
生徒:……先生が持ってきました。
わたし:……ふうん……。何もいないのかな?
と、独り言のようにつぶやく(しかない)。
心の中では、(なんで?なんで? 先生が持ってきた、のところから先のところと、前のところこそ聞かせて欲しかったんですけど。)と思うけど、それ以上追及できず、授業開始。古いほうの元気すぎる学校に慣らされているわたしは、なんだなんだ、このビジネスライクな関係は。と思わなくもないけど、少なくとも今は、そのほうが彼らにとって快適なんだろうから、そっとしておくべきだよね、と。
体育大会があって、しばらく間隔が開いた。その間に、デリカシーなき古いほうの学校のペースに慣れきってしまうわたし。
で、ふたたび、「ふつうの組(仮)」の授業へ。
教室に入って水槽の前を素通りし、教卓の前まで行って号令を掛けてもらう。
その後、ちょっと水槽の方を見ると、……。今度は、赤白の金魚が一匹、涼しげに泳いでいる。
(あら?)と思って、みんなの方を向くと、生徒たちは、わたしのほうをちゃんと見ている。ぜったい、今、(先生気づいたな)って、みんな思ったに違いないのに、誰もなんにも言わない。関心がないのか、すごい自制心なのか。
……ちょっと、可笑しくなりながらも、わたしもふつうに授業を始める。
その週は進路説明会で2回目の授業がなくなって、また、間隔が開いた。また、古いほうの学校のペースになれきってしまうわたし。
で、翌週。ふたたび「ふつうの組(仮)」の授業へ。
教室に入って水槽の前を素通りし、教卓の前まで行って号令を掛けてもらう。もう水槽の存在にもなれきったわたし。
その後、何気なく水槽の方に向くと、赤白の金魚が一匹泳いでいるその水槽の前に、ピンクの画用紙を三角柱に折って、倒して置いてあるのに気づいた。
あれ?、黒いマジックで、何か書いてある。
「さしみ」
(え。それが名前?)
思わず、😊😊~と、なるわたしだったけど、みんなは相変わらず、誰も何にも言わない。わたしもちゃんと空気を読んで、ふつうに授業……😊😊。
これは、アレですよね?天の声……
というわけで、「ふつうの組(仮)」は「さかな組」に昇格しました。
だって、反応がさかなっぽいんだから、しょうがないよね😊?
昨日はテスト前の自習時間だったので、わたしはさしみちゃんを見放題。さしみちゃんは幸せそうに泳いでました。さかな組の人たちもそれぞれのワークや教科書を開いて幸せに自習。😊😊~
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