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素直科と、○の味

 もうすぐ学年末考査。今日の素直科は、テストの前の最後の授業。

 テスト直前の授業はそれなりに忙しい。
 集めていたプリントも返さなきゃならないし、テスト範囲をもう一度念押ししないと伝わってなさそうだし、プリントが見つからない人のために新しいのを職員室に取りに行ったり、その他、普通に勉強の内容についての質問と、それ以外にも、「テスト範囲のプリントって、どのプリントのことですか?」とか、「ここの答え、何ですかあ?」とか、「動画を流しときましょうよ。」とか、「どこが出るか教えてください。」とか、次々に押し寄せてくる要求に、うわ~!待って~~!となりながら、間違って出題について口を滑らせないようにだけは気をつけつつ、答えていく。





 一通りのバタバタが終わり、
「じゃあ、あと15分は自習ね?どうぞ。勉強していいよ😊」



 やれやれ……、とほっとして教卓の椅子に座る。
 座るやいなや、「先生!」と呼ぶ声。
 
「先生、コイツが先生にプレゼントがあるそうです。」
1人のソフテニ部少年(?そろそろ若者?)が、クスクス笑っている。
”コイツ”を見ると、やっぱり可笑しそうにクスクス笑っている。






 そうだった……。先週彼らは修学旅行に行っていたんだった。







「えっ?何?」
素直科は、素直だけどいたずらっ子だ。なんだなんだ?と警戒するわたし。
「4種類入っていますよ。」
「えっ?何が?」
”コイツ”くんが、手のひらサイズの小さな袋を持って教卓へ。







手渡された袋のパッケージには、虫の幼虫の絵が描かれている。
なんだろう?釣りのエサ?と、一瞬思いをめぐらせてやっと分かった。
昆虫食!






「え?これ本物?」
「本物です!」
「え?これをわたしに?」
「うん、うん😊」
「え?これ本物?」
「本物です!」
「え?これをわたしに?」
「うん、うん😊」
・・・
と、会話は何周もループしてしまう。






すでに、袋の口は切られていて、
誰かが試食したのか、開けてみただけなのか?

そのうち、ちょっとパックを開けてみる。
匂いを嗅ぐ。
「なんか、エビみたいな匂いするよ?」
「うん、うん😊」
「これ食べたの?」
「食べました😊」
「え?誰が?……食べた人?!」
ぱらぱら、と手が上がる。
「え?ほんとに?どんな味?」
「豆みたいな感じです」
「エビみたいな感じ」
「そんなにはまずくないです」
「え?ほんとに?」
「先生も、どうぞどうぞ」
「え?ほんとに?」
「結構旨いですよ」
「・・・」

「オマエ行け!先生に食べてみせてあげろ。」
「じゃあ、食べますよ?」
と、1匹食べて見せてくれる。(授業中だけど)

「へ~~~」
と、ちょっと興味が湧いてしまう。







袋をのぞき込んでみると、たしかに4種類ぐらい入っている。

「どれがおいしい?」

「長いのは不味いです。」
「下の方の、大きいのが旨いと思います。」
「え、ほんとに?」





一番下の、大きそうなのを摘まみ上げる。
たしかに、グロテスクだけど、
えびせんだって案外こんな形、しているような?

「どうぞ、どうぞ。食べてみて💓」
「う~~~ん……?」























ぱくっ









……









「…ほぼ、味ないね……?」

みんな笑っている。教卓の前の人に、1匹差し出すと、猛烈に拒否されてしまった。


キーン コーン カーン コーン ♪
  











 
 
 職員室に帰って、職員室の定位置に出席簿を返し、机の上に教科書を置いて、自分の席に腰を下ろす。

 休憩時間の職員室、正規の先生たちは動き回って忙しそうだ。
 口の中に虫の味がなんとなく残って、
 膝の上に置いた自分の手の爪ばっかり、なんとなく見つめたくなる。


 テスト前の最後の授業ということは、これが素直科の最後の授業


・・・








 さあて、まだ返せていないワイルド科の授業プリントの感想欄を読んで、気分を変えよう……

 でも、これからえびせんを食べるたびに、素直科とともに、虫の味を思い出しそう……

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