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もう一つの世界 28  かっぱ と もやし 8/9

かっぱ と もやし 8/9

 ぼくは、お母ちゃんがくる日を、一日一日かぞえてた。
 明日、お母ちゃんがやってくる。夕方にはこっちに着くと連絡がはいった。ぼくが、盆踊りのメンバーにはいったから、祭りで踊ってるってゆうたら、うれしそうにわらってた。
 
 かっぱやTシャツには、顔がゆるんでるといわれた。自分でもそう思う。少しでも元気なとこを見せて安心させな。それに、盆踊りが踊れるところを見せて、お母ちゃんを元気づけな。
 お祭りの日になると、みんなうきうきしてた。学校の勉強がぜんぜん頭にはいれへん。北野先生もあきらめてた。でも
あんまりさわがしいから、
「うるさいぞ、これ以上うるさしたら、宿題いっぱいだすぞ。」
「えー、何で。」
「今日は祭りやのに。」
 途端に、みんながよけいにさわぎだした。
 先生はおこって、
「ほんとうに宿題だすぞ!」
 とたんに、教室がしーんとしずかになった。
 そのとき、Tシャツが手を挙げていいよった。
「先生、みんなしずかにしますから、宿題ださんといてください。みんな、盆踊りのメンバーやから、宿題出されてもできません。」
 先生は、まってたように、
「そうやな、じゃあ、しずかにできるか?それやったら、宿題をだすのはやめとく。」
 とたんに、みんなはへんじした。
「はーい。」
 それからは、宿題だされたらこまるから、ほんとうに静かにしてた。先生もわかっててゆうてるんや。これは先生の作戦勝ちや。やられた。でも、やっぱり、祭りにいきたいから、みんな静かにしてた。
 
 やっと、放課後になった。
 女の子は、みんなで集まって、ひそひそ話してる。きっとみんなで祭りの打ち合わせをしてるんや。でも男子はばらばらや、みんな勝手にかえっていった。ぼくはかっぱといっしょに帰った。かっぱがわかれしな、
「むこうで浴衣に着替えるから、なにを着ていってもいっしょやで。」といってくれた。
 おばあちゃんの家にかえったら、夕ご飯をはやめに食べて、かっぱをむかえにいった。
 かっぱのおばちゃんがいて、かっぱをよんでくれた。
 ふしぎやなあ、おばちゃんが家出からもどってきて、まだそんなにたってないのに、いてるんがあたりまえになってる。いてるんが普通で、いてないんがおかしかったんや。
ぼくのところは、離婚したからふつうやないんや。でもさいきん、そんな家族がふえてるそうや。数がふえたら、それがあたりまえになるやろ。それがええか、わるいかようわからんけど、こんどは、それがふつうになるんや。いややなあ。
かっぱが、家からとびだしてきた。未希ちゃんがいてない。
「未希ちゃんは、つれていかんでええんか?」
「お父ちゃんとさきにいった。」
 かっぱは、「はよこいよ。」といってはしっていきよる。ぼくはあわてておっかけた。
 かっぱをみてたら、ぼくは、妹か、弟がほしいなあとおもうときがある。わずらわしいときもあるけど、さみしなったときはとくにそうおもう。それに未希ちゃんをみてたら、妹がええなとおもう。
 
 走っていくと、あっというまに公民館についた。みんなはもうきて浴衣にきがえてる。山田のおっちゃんが、声をかけてくれた。
「奥に浴衣があるから、サイズの合うのを見つけて着ときや、下駄は、子ども用のがあるからな。」
 ビニール袋をもらって、奥の部屋で着替えた。
 服を全部ビニール袋にいれて、浴衣をきたんやけど、はじめてやから着かたがわかれへん。知らんおばちゃんがやってきて、
「あんたら、なにしてるんや。裏表逆やんか。それになんでそんなうえで、帯をまいてるんや。最近の子は浴衣の着かたもしらんねんなあ。ほんま、わろてしまうわ。」
 いいながら、きっちりわろてた。
 浴衣を着るんは、はじめてやからしょうがないやろ。かっぱが、ぼくを指さして笑ろてる。ぼくもかっぱを指さして笑ろたった。昔の子が、ずっとこんな浴衣を着てるとおもたら、けったいな気持ちや。
「男の子だけ、こっちおいで。隈取を入れるからな。」
 順番に、顔を真っ白にぬられると、その顔に、墨でくもの巣みたいな線をいれられた。これが隈取らしい。みたことないけど、歌舞伎役者みたいで、おもしろい。さっそく、かっぱが真似してあそんでた。
「これはなあ、この地方の風習や。昔からの言い伝えでな、子供だけが邪気をはらえる、といわれてるんや。それで、盆踊りで隈取をして踊ることで、邪鬼がでてくるのをふせぐためらしい。わかったか。」
「なんで、男の子だけなんや?」 
「そんなん簡単や。女の子は、顔に墨をぬるのを嫌がるんや。隈取するんやったら、盆踊りにでえへんいうんや。ほんま女の子はうるさいんやで。それでしかたなしに男の子だけにしたんや」
 おっちゃんが、わろてる。
「えー、そんなん不公平や。」
 すると、ちがうおっちゃんが、わらいながら、
「餓鬼と邪鬼は親戚や。そやから男の子だけが、隈取をいれて、邪鬼をおいはらうんや。昔からそうしてる。」
 なんかようわからんことをゆうて、ごまかした。
 でも、ぼくのおばあちゃんがゆうてた。
「隈取入れておどったら、一年間病気せんと過ごせるいうから、頑張って踊っといで。」
 たぶん、おばあちゃんのゆうのが一番正しいとおもう。

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