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もう一つの世界、22   白うさぎ3/5

白うさぎ 3/5


 次の日、きなこは、ちゃんと帰ってきた。
「どうする、ちいちゃんのおばさんにあいにいく?」
  三咲は、まだまよっている。ケンはいく気満々、
「茶々がどうなったかしりたいやろ?
 だって、白うさぎと一緒にあいにきたんやで。」
 奈美と光司はおたがい顔をみあわせていた。
「いく?」
「いったほうがすっきりするよね。」
「じゃあ、おばさんにあって聞いてみる。」
 三咲のひとことできまった。
 放課後(ほうかご)、四人は家に帰ってランドセルを置(お)くと、三咲(みさき)の家の近くの旭(あさひ)公園にあつまった。
 三咲(みさき)と奈美(なみ)は、合わせたように、ちょっとよそいきの清潔(せいけつ)な服装をしている。
 健人(けんと)と光司(こうじ)は、あいかわらず、いつもの服だ。
「おまえら、服あわせたやろう。」
「あたりまえでしょ。
 あんたたちが、こどもなんでしょ。」
「あたりまえや。
 こどもやから、これでいいんや。」
 ひらきなおっている。
 あるいて5分、ちいちゃんの家の前に立つと、きんちょうしながら三咲(みさき)がインターホンをおした。
「はーい、どちらさまですか?」
「あっ、三咲(みさき)です。」
「三咲(みさき)ちゃん、ちょっとまってね。」
 しばらくすると、扉(とびら)がゆっくりひらいて、おばさんが顔をのぞかせた。
「おばさん、こんにちは。」
 おばさんは、ふしぎそうに子どもたちをみている。
「こんにちは、三咲(みさき)ちゃんどうしたの?」
 三咲(みさき)は、一瞬(いっしゅん)なんて言っていいか、言葉につまった。
 健人(けんと)は、たんじゅん。
「ちいちゃんにあいにきました。」
 おばさんはびっくり。
「ちいにあいにきてくれたの。
 そうなの…。さあ、はいって。」
 四人は、畳(たたみ)の部屋にとおされた。
 小さな仏壇(ぶつだん)に、ちいちゃんの写真がかざってあった。その横に、もう一枚、うさぎを抱(だ)っこしたちいちゃんの写真もかざってある。
「あっ『ちゃちゃ』が、写ってる。」
 四人はびっくり。
 うさぎ小屋でみたちゃちゃが、ちいちゃんに抱(だ)かれている。
 おばさんが、ジュースとお菓子(かし)をはこんでくると、三咲(みさき)は、
「おばさん、ちゃちゃはまだ飼(か)ってる?」
「それが、ちいが亡くなった日に、いなくなったの。きっとちいが、寂(さみ)しがってつれていったんだろう、ってみんなで話してたの。」
 三咲(みさき)も奈美(なみ)も、心がふるえた。
「やっぱりうさぎ小屋に会いにきたんだ。」
「白うさぎは、ちいちゃんなんだ。」
「ちいが白うさぎって?」
 おばさんにはわからない。三咲にたずねた。
 三咲(みさき)が、説明(せつめい)をはじめると、よこから健人(けんと)がわりこんで喋(しゃべ)ってくる。奈美(なみ)も喋(しゃべ)り始めた。
「ちょっとまって、順番(じゅんばん)に話して。
 三咲(みさき)ちゃん、わるいけど、さいしょから話してくれる。」
 おばさんは、おかしそうに笑った。
 久しぶりの笑顔。
 三咲(みさき)は、ちいちゃんと、うさぎ小屋の話からはじめた。
 おばさんは、じっと三咲(みさき)の話をきいていた。
「そんな…。」
 しかし、橋本(はしもと)先生が見たというなら…。
 信じられず考えこんでいたが、おもいきって橋本先生に電話をいれた。
 そして、長いあいだ話しこんでいた。
「おばさん、先生、なんていった?」
「白うさぎを見たのは、ほんとうだって。それで、こんど先生の当直(とうちょく)の時に、会いに行けるようにたのんだの。」
「夜にいくの?」
「うん、自分の目で確かめたいから。」
「僕たちもいっていい?」
 健人(けんと)もいきたい。
 おばさんは、どうしようか迷ってた。
「いっしょにいって、ちいにあいたい?」
「うん、あいたい。」
「じゃあ、いこうか。」
 この子たちなら、ちいもよろこんでくれるとおもった。

 次の日、四人が小学校に行くと、クラス会のあと、橋本(はしもと)先生によばれた。
「ちいちゃんのお母さんに、会ったんだって?」
「うん。先生、次の当直(とうちょく)のときに、おばさんに会うんでしょ。」
「今週の土曜日にした。
 うそみたいな話だからなあ。ほかの先生に話しても信じてくれないし。
 つぎも、白うさぎにあえるといいんだけどなあ。」
「先生、きっとあえるよ。」
「健人(けんと)にいわれてもなあ。」
 先生は、苦笑(にがわら)いしていた。

 土曜日の夜がやってきた。
 四人はまちあわせて、やくそくどうりおばさんの家にいった。
 びっくり。
 眼鏡(めがね)をかけたやさしそうなおじさんが、扉(とびら)をあけてくれた。
「いらっしゃい。きみたちが、ちいの友だちだね。
 まだ時間がはやいから。」
 と、部屋にとおすと、お菓子(かし)をだしてくれた。
 三咲(みさき)と奈美(なみ)はしずかにすわっている。健人(けんと)と光司(こうじ)は、さっそく手をのばして、おいしそうにたべていた。
 おばさんは、気持ちが落ちつかず、なんども時計をみていた。
「なんどみても、時間ははやくならないよ。」
 ほんとうは、おじさんも早くいきたいのをがまんしている。
 おばさんは、「そうね、そうよね。」といいながらまた時計を見ていた。
「しかたないなあ。早めにいくか。」
 おじさんは、決心すると、用意していたキャンプ用の寝袋(ねぶくろ)を、子どもたちにひとつづつ手渡した。
「先生に迷惑(めいわく)をかけられないからなあ。
 もし、待ってる時間がながくて、ねむたくなったら、これをつかってねること、いいかな。」
「はーい。」
 気分はキャンプ。
 健人(けんと)と、光司(こうじ)が、げんきよく返事した。

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