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もう一つの世界、22   白うさぎ,4/5

 小学校につくと、用務員(ようむいん)さんが通用(つうよう)口(ぐち)をあけてくれた。
 初めてはいる夜の小学校。 暗闇につつまれた校舎、もう一つの別の世界がそこのあった。
 四人はふだんとちがう暗闇の世界にこうふんしている。
 先生の当直(とうちょく)室にいくと、4人はさっそく寝袋(ねぶくろ)を広げて、場所取りをした。
 六(ろく)畳(じょう)ほどの部屋が、狭(せま)く感じる。
「君たちも来たのか。」
 先生がおどろくと、おばさんが、
「ちいに会いたいといったので、親御(おやご)さんの了解(りょうかい)はとってきました。」
 先生に説明(せつめい)した。
 おじさんは、先生に挨拶(あいさつ)すると、さっそく白うさぎのことをたずねた。
 おばさんもしんけんにきいている。    
 健人(けんと)と光司(こうじ)は、ゲーム機を持ちだして遊びだした。
 三咲(みさき)と、奈美(なみ)は携(けい)帯電話(たいでんわ)をとりだし、
「先生、白うさぎにあったら、写真とってもいい?」
「いや、びっくりしてにげだしたら、ご両親ががっかりするよ。」
「そうね、ごめんなさい。」
 三咲(みさき)は、素直(すなお)にあやまった。
 先生は、あらためて、
「声をかけるかどうかは、ご両親にまかせて、キミたち4人は後ろで、静かにみていよう。いいかい。」
 健人(けんと)と光司(こうじ)は、ゲーム機を後ろに隠(かく)して、神妙(しんみょう)にうなずいた。
 結局(けっきょく)、夜中まで、みんなうとうとしながらもおきていた。
 先生が、「一度見てきます。」といって暗い校庭(こうてい)にでていくと、みんなは、緊張(きんちょう)した表情で先生の帰りを待っていた。
 しばらくして帰ってくると、先生はご両親をみて、
「いきましょうか。」
「ちいは?」
 先生は小さくうなずいた。
 先生をせんとうに、おじさん、おばさん、そして四人の子どもたちが、
 校舎(こうしゃ)にそって、月明かりの中をゆっくりすすむ。
校舎(こうしゃ)のはずれの、メタセコイアの木の横でとまると、先生は、ご両親に小声で、
「プールの手前に、小さなうさぎ小屋がみえますか?」
 20メートルほど先の、プールの壁(かべ)の横に、月明かりで、ぼんやりと小屋がうかびあがっている。
 小さな影(かげ)が二つ、小屋にゆっくり近づいていく。
「白うさぎと、ちゃちゃですよ。」
 ご両親は、思わず前にふみだして見ていた。四人の子供たちは、言われたとおり、じっとがまんして、身体をしずめている。
 二つの影(かげ)は、スーとうさぎ小屋の壁(かべ)を通りぬけて中にはいっていった。
 しばらくすると、白うさぎだけが、うさぎ小屋からぬけ出てきた。そして、ゆっくりたちさっていく。
 おばさんは、おもわず前にすすむと声をかけた。
「ちいちゃん!」
 白うさぎは、ビクッとして、ふりむいた。
 おばさんは、自分のすがたが見えるように、木陰からでて、驚(おどろ)かさないように、ゆっくりあゆみより、
「ちいちゃん、」
 ポケットから、可愛(かわい)いネックレスをとりだした。
「お葬式(そうしき)の時に、あなたにつけてあげたかったの。でも、できなかったから、あなたの大好きだったネックレス。いまつけさせてくれる?」
 白うさぎは、暗闇(くらやみ)から、たしかめるようにじっとおばさんをみつめていた。
 そして、身体の向きをかえると、一歩だけちかづいた。
 おばさんは、ちかよると、かがんで白うさぎの頭をゆっくりとなで、取り出したネックレスを、首にかけてあげた。
 そして、ゆっくり抱(だ)きあげ、だきしめた。
 おじさんもかけより、しゃがみ込むと頭をなでている。
 先生も、四人の子供たちも息を殺して見つめていた。
 三咲(みさき)は、おもわず、声をかけた。
「ちいちゃん、あたしもうさぎ飼(か)うから。
あたしの家にもあそびにきてね。」
 三咲(みさき)の精一杯(せいいっぱい)の気持。
 やがて、白うさぎは、おばさんの腕(うで)から地面におりると、なんどもふりかえりながらゆっくり校舎(こうしゃ)の影(かげ)にきえていった。

 ご両親は、まだ座(すわ)りこんで見送っている。
 先生は、息をはきだすと四人に、
「先に、かえろうか。」
 子どもたちは、だまってうなずいて、先生の後につづいた。
 ご両親の肩がふるえている。泣いているのが、子どもたちにもわかった。
 当直(とうちょく)室にもどって、静かに時間がすぎていくのをまっていた。
 しばらくして、ご両親がかえってきた。先生は、
「子供たちは、私が責任もってみますから。ご両親は、家にかえってゆっくりやすまれたらいかがですか?」
 やさしく声をかけた。
 ご両親は、お互いの顔をみあわせてうなずくと、
「先生、ありがとうございます。
 子どもたちを、おねがいします。」
 肩をよせあいながら帰っていった。
 子どもたちは、だまってみおくった。
 胸がいっぱいで、なにもいえなかった。

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