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エッセイ【旅するインコ】

【旅するインコ】

道の駅は楽しい。
私の夢は日本全国の道の駅を制覇することだ。

コロナが収束した昨今、道の駅も賑わいを取り戻しつつある。

先日立ち寄った道の駅は往時の雰囲気を醸していた。
屋台が数店舗出店していた。

焼きそば屋にハンバーグ屋にクレープ屋に唐揚げ屋にジュース屋にパン屋にけんちん汁屋におでん屋。
それらが道の駅の入口付近に多くあり威勢の良い掛け声で
「へい!いらっしゃい」
「美味いっすよ」
「ぜひ試食してって下さい」
と客を誘導する。
その掛け声につられて屋台の商品をじっと見る。
実に楽しいが実に困ったもんだ。
試食でもしようものなら蟻地獄に落ちた蟻となる。

コシヒカリの新米を試食する。
高原地帯のお米は寒暖の差が激しいので甘みが強い。
一口食べただけでその甘みのとりこになった。
とりあえず5kg買うとしよう。
5kgと言えど持ち歩くのは結構シンドイので一旦車に積むために駐車場へ戻る。

えっ、後で買えばいいではないかって?
後で買おうと思っても売り切れの場合があるのだよ。
欲しいと思った時に買わないと後悔するのだよ諸君。

焼きそば屋の前を通る。
おっちゃんが眉間にシワ寄せ汗まみれで焼いている。
一瞬、逡巡する。
ソースの焦げる匂いが鼻腔をくすぐる。
やめとこ。

唐揚げ屋の前を通る。
初老のおじさんがぶっきらぼうに揚げている。
一瞬、逡巡する。
ここもやめとこ。

おでん屋の前を通る。
小錦似のオバチャンが、ぼ〜とうちわで顔を扇ぎながら椅子に座っている。
逡巡しない。
ここもやめとこ。

けんちん汁屋の前を通る。
立ち止まる。
店員のお姉ちゃんが可愛い。
「一つ」
お姉ちゃん嬉しそうに
「ハイ」
大きなオタマを大鍋へダイブさせる。
具材たっぷりすくい上げる。
意外に気前が良い。
プラスチック製の丼に入れる。
これが結構大きな丼だ。

お姉ちゃん無意識にトッピングのネギを入れる。
「ネギいりますか? あっ、入れてた」
申し訳無さそうに言う。
実に可愛い。
この店にして良かった。
「良いよ」
ネギ大好きなので構わない。

おむすびも買ってテーブル席に行く。
人物観察しながらおむすびを頬張る。
塩っけが絶妙なバランス。
けんちん汁を飲む。
コンニャクの歯ごたえが嬉しい。

隣のテーブルではロングヘアのお嬢様がプードルを抱っこしている。
白いワンピースの着こなしが見る人をくぎ付けにする。

お嬢様の横の椅子には一羽のインコが小さな鳥かごに入っていた。

思わず
「へえーこんな鳥かごあるんですね」と声をかける。
「うふふ。そうですね」
うふふの言い方が嫌味ない。
お嬢様らしいうふふなのだ。

出会いは突然やって来た。
口説きたいよ〜。

おしまい

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