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[ショートショート]弔辞のための人生

あいつは、いつも言っていた。

「俺の夢は、俺が死んだときに葬式会場に入りきらない程の大勢の人が集まって悲しんでくれることだ。大切な人に、最高の弔辞を読んでもらうことだ。その為には、人に尊敬され、感謝され、愛されなければならない。俺はそういう人になりたいんだ」

あいつは、そうやって、多くの人のために生きた。猛勉強して医者になり、苦しむ多くの人を救った。ボランティアを精力的に行い、毎年、多額の寄付をしていた。

あいつは恩を売るのが好きで、決して謝礼を受け取らなかった。断り文句は決まってこうだった。

「俺が死んだら葬式に来てくれればそれでいい」

そういうやつだった。

周りの人達は、あいつを尊敬したし、感謝した。皆、あいつのことが好きだったし、悪く言うやつなんて一人もいなかった。

そして、あいつは死んだ。

ぶっ飛んだ考え方をするやつだから、こういう最期は想像できた。あいつは、徳を積むごとに死ぬことへの期待が高まっていたのかもしれないな。

だからこそ、あいつは死んだのだ。普通なら悲しみに満ちた死かもしれない。あいつは、その逆なのだ。幸福に満ちた死だ。そうでなければならないのだ。

あいつの最期も、実にあいつらしかった。
車に引かれそうになっている子供を助けて自分が轢かれた。あいつは、きっと嬉しかったんだと思う。いよいよ、待ちに待ったこの瞬間が来たんだと思ったはずだよ。

だから、我々は決して悲しんではいけないと思う。感謝を込めて、愛を込めて、本の少しの涙と共に、あいつの為に祝福してあげよう。今日があいつの夢が叶った日なのだから。


あえて言うぞ。ありがとう。そして、おめでとう。



そう言って、俺は弔辞を締めくくった。
我ながら最高の弔辞だった。自画自賛だ。

俺は、弔辞を読むのが好きで、そういう仕事をしている。死に方を演出するエンディングデザイナーというやつだ。依頼者のご希望に沿ったエンディングプランを作り、最高の弔辞のためのセカンドライフを送ってもらうのだ。勿論、死んだら俺が最高の弔辞を読む。終わり良ければ全て良しというように、最期の最期は、格好よく締め括りたいという人たちから依頼が殺到している。

まさに弔辞のための人生。

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平凡なサラリーマンの創作短編集です。気楽にどうぞ。

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