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教室運営で思うこと(7)「読んでも意味がわからない」疑惑

前回「テキストを読まない子供たち」ということでどんな指導をしているかかきましたが、保護者様とお話しているとお子さんの「読解力」を心配されている方が多いように思います。
そこで私なりに「読解力」について考察してみました。

※この記事では教室運営について思うところを書いています。

そもそも「読解力」ってなんだ?

これは私の癖といってもいいのかもしれません。
何か調べ事をするときに
「そもそも〇〇ってなんだ?」
と考えるところからスタートします。

今回はちょっと遊び心でChat GPT 3.5に「読解力」ついて聞いてみました。すると、
「テキストや文字や文章を理解し、その内容を解釈する能力」と
回答がありました。
続けて具体的な能力として6つ提示されました。以下Chat GPT3.5の回答からの引用です。
”””

  1. 文章理解: 文章の内容や要点を理解する能力。これには、主題や目的、情報の流れ、および著者の意図を理解することが含まれます。

  2. 文脈理解: 文章がどのような文脈で書かれているのかを理解し、その文脈に基づいて文章を解釈する能力。

  3. 語彙理解: 文章中の語彙や専門用語を理解する能力。これには、単語の意味や使われ方、および文脈における役割を理解することが含まれます。

  4. 推論力: 文章に明示されていない情報を推測する能力。読者は、文章の情報をもとに推論を行い、論理的な結論を導き出す必要があります。

  5. 批判的思考: 文章の内容や著者の主張を評価し、批判的に考える能力。これには、情報の信憑性や信頼性を評価することも含まれます。

  6. 文学的理解: 文学作品などの複雑な文章を理解する能力。ここでは、比喩や隠喩、文学的テクニックなどに対する理解が重要です。

”””
もしかしたら、私より賢いかもしれませんね。
少なくと知識量については私より上です。
しかしながら、どうも読解力の本質に触れていないような気がします。
はっきりくっきりではなく、なにかモヤッとした、文字の洪水で惑わされているような気分です。
文字は情報の伝達手段というのは分かったのですが…。

文字になる前の情報とは

文字が情報の伝達手段なら、文字になる前の状態の情報があるはずです。
それは何か、考えるまでもありません。
「言葉」です。
言葉を最も簡単に伝えるのは「声」です。
テレパシーのようなSF的な能力でない限り、口を開いて発せられた声が最初の伝達手段です。声は物理現象として届く範囲が限定されるうえ、その形を保持することができません。
つまり文字は言葉を声の代わりに声の届かないところまで届けられ、その形を保持できるという便利な情報伝達手段ということがわかります。

それでは声や文字に置き換わる言葉は何をもって発生するのでしょう。

それは目に映る風景であり、こころに映る風景です。
もちろんそれを伝えようとする意志は必要ですが、情報として伝えられるのは、目や心に映る風景です。

すると私の解釈では、
「読解力とは、
 文字や文章であらわされた目や心に映った風景を再構築する力」
となります。

つまり、読解力の低下といわれる現象は、文字や文章で伝えられた情報を風景として再構築できないということになります。

文字化けと読解力低下の類似点

私たちが普段使っているメールやメッセージでやり取りしている文字は、文字の映像をそのまま送受信しているわけではありません。
その文字の映像を表す番号を送ることで伝達する情報量をコンパクトにしています。
送信元と受信先で同一の「文字の番号と文字の映像のセット」をつかっているので、送った文字が正しく受け手のディスプレイに表示されるわけです。
もし送信元と受信先で異なる「文字の番号と文字の映像のセット」を使っていれば、送った文字が受け手の側で全然違う文字の映像が表示されるか、または全く表示されないという現象が発生します。
一般に「文字化け」と呼ばれる現象です。

読解力の問題は、この「文字化け」の現象が人の世界で起こっているのではないかと考えています。
つまり読解力低下の問題は
「文字や文章に紐づけられた風景が受け手に無い、
 または
 受け手側で文字や文章と風景が紐づけられていない。
 そのため受け手側で風景を再構築できない」
という現象ではないかと考えます。

同じ風景を見て説明する

さて、読解力の低下がコンピュータの文字化けの仕組みと同じであるという仮説に基づけば、読解力を向上させるには、

同じ風景を見ながら、誰かがその風景を説明し、その他が言葉と風景を紐づけることによって、その言葉から同じ風景を思い出せるようにする

といった取り組みが必要になります。

よく知られている例を挙げれば、小さい子にお母さんが絵本の読み聞かせをすることです。絵本に描かれた風景とお母さんが読み聞かせた言葉がつながっていきます。
日常でも同じように会話の中で言葉と風景が結びつけられていきます。それは子供の成長とともに目に見える風景から心に映る風景へと拡張されていきます。

言葉と風景を結びつける訓練は、親子の間で始まり、子供が成長する過程でご近所さんやお友達と、同じ風景を見てそれを説明する会話などで蓄えられていきます。
言い方を変えると常識として備わっていく事柄の一つです。

読解力の低下は、同じ風景を見れなくなっている問題を現わしているのかもしれません。具体的には常識が崩壊していく、周囲の人とのかかわりが希薄になっている結果なのかもしれません。

AIの凄さと怖さ

読解力についてAIに質問し、その返答を紹介しました。
なかなかの文章ですね。
AIは画像データだけで学習したわけではありません。インターネット上で入手可能な、文字や文章のデータを元に学習しています。つまり文字や文章であらわされた風景が、なにかもわからず、まるで風景が見えるかのように文字や文章を駆使して質問の回答を作り出しています。
最近はテキストや画像、音声、音楽などのデータを作れる「生成AI」が注目されています。
AIってすごいですね。

その一方で、人間の子供たち、じつは子供に限らず大人も、読解力が低下しているのではないかとう疑念が持たれています。

生成AIは虚偽の情報やイメージを生成し、それを事実のように提示する可能性があります。(ハルシネーションといいます。)

ここに生成AIが虚偽の情報で作った文書があったとしましょう。文章から風景を再構築できない人=意味がわからない人が、生成AIの作った文書の真偽を判断できるでしょうか?

読解力の低下を気にされている保護者様は、本能というか、未来予知というか科学的に解明されていないスピリチュアルな能力で、将来おこるかもしれない子供たちの危機を敏感に感じ取っているのかもしれません。

余談:2022年実施のPISAでは15歳の読解力が3位に

経済協力開発機構(OECD)は3年毎に学習到達度調査(PISA)を行ています。
直近の2022年の結果では日本の15歳の読解力は3位だったそうです。
その前の2018年の調査では15位だったそうですから急回復です。
(1年ずれて2022年にPISAを実施したのはCOVID-19の影響だそうです。)

その一方で、2018年に出版された「AI vs.教科書が読めない子供たち」では、「意味を理解できていない」中高生の実態について、著者の新井紀子氏は警鐘を鳴らしています。
同氏が独自に開発した「リーディングスキルテスト」の実施結果を分析してみると、ほぼ半数の生徒が教科書レベルの文章を理解できてない実態が見えてきたからです。

また、新井氏の分析によると
読書の好き嫌い
 科目の得意不得意
 1日のスマートフォンの利用時間や学習時間
 などの自己申告結果と基礎的読解力に相関はない
ということです。

残念なことに、
読解力を向上させる「これ!」という秘策は見つけられていないそうです。

すると
2022年は何が効果を発揮して読解力が急回復したのか、
なぜ2018年は読解力が低下していたのか、
原因が特定できない以上
次のPISAで読解力が上位になる保証はありません。

次回は2025年に実施され、翌2026年に公表されます。
字は読めても意味がわからない、
そんな子供たちが、できれば”0”であってほしいものです。

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