蓮華山麓(14)─バブルな就職活動
大学を五年かけて卒業した私は、名古屋の教材出版会社に就職した。
親からあれほど公務員になれ、教師になれと言われ続けてきたが、「男児一生の仕事につく動機が、ただ安定を求むるのみとはいかにも情けないではないか!」と、一顧だにしなかった。
といって特にやりたい仕事も入りたい会社もなく、とりあえず郷里に帰るかというだけであった。名古屋の企業は他にも何社かのぞいてみた。時はバブルである。どこも簡単に雇ってくれそうな手応えはあった。
そんな中、大学の求人欄にはってある浜島書店の名に見覚えがあった。
私は学校の教科書は嫌いでも、地図帳や図表、便覧をみるのは好きで飽くことがなかったが、そういう副教材を出しているのが浜島書店だったのである。
ああいう本を作るのも面白そうだと会社訪問を申し込み、初めて行ってみると編集部長と専務(社長の息子)がいきなり会ってくれた。編集部長は実は静大の先輩で、後輩が来たので興味がわいたらしい。
「じつは編集部では男は一人しかいらないんだが、もう決まってるんだ。営業部はどうかね?」
もとより私にはなんのこだわりもないのである。
「へい、よござんす」