蓮華山麓(13)─バイト代のつかい道

  初めての山小屋バイトを終えて帰る日、山小屋の親方が「少し色をつけておいたから」といってバイト代を現金でくれた。当時日給は3000円くらいだったから40日だと12万、色がついて15万くれたと思う。それだけの金を手にしたのは生まれて初めてだった。
  小屋に残る者達がロケット花火を打ち上げ、時には「ねらい撃ち」で見送ってくれた。ひと夏見慣れた山々を何度も見上げ振り返り、私は何事かをし遂げたような感慨にひたりながら下った。
  しかしすすんで留年したのである。親に申し訳ないという気持ちはあるのだ。いくらかでも罪滅ぼしのつもりで、私は山のバイト代を後期授業料にあてた。当時国立大学は半期12万5千円だった。授業料を払ったらバイト代はほぼ消えた。
  いま山小屋は日給が1万近い。やってることは変わらないか、むしろ楽になっている。荷上げに使うヘリコプターの料金はウナギのぼりに上がっている。宿泊代も上がっているとはいえ、昔にくらべて経費が段違いにかかる。維持するのが大変なわけだ。
  それは現代生活のすべてにおいて言えることなのだが。

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