絵本探求ゼミ4期第三回目振り返り

第三回のテーマは「翻訳者からみる絵本」でした。
今まで翻訳者を意識して絵本を選んだことが無かったため、一冊を決めるのには時間がかかりました。
★今回選んだ絵本は
                 「ことばとふたり」
      ジョン・エガード文
      きたむらさとし 絵  訳     岩波書店
原作は2022年3月出版
日本では2022年9月出版
★選書理由
 原作では
「WHEN  CREATURE  MET CREATURE」
「生きものが生きものに出会ったとき  」 と
なっているのが日本で出版された時にどうして、きたむらさとしさんは「ことばとふたり」と訳したのかに興味を持ったからです。★経歴
●ジョン・エガード
    1949年1月旧英領ギアナ(現ガイアナ)に生まれ、新聞社で編集や詩集の執筆に携わった後、1977年イギリスに渡る。
詩人として活躍し、世界各国のブックフェアで詩の朗読パフォーマンスを行っている。
数々の賞を受賞。
著作は50冊以上にのぼる。

●きたむらさとし
    1956年東京生まれ
1982年にイギリスで絵本作家としてデビューして以来、イギリスを拠点に世界的に活躍を続ける。
約10年前に帰国し現在は神戸市に在住
絵本作家、イラストレーターとして活躍
デビュー作「ぼくはおこった」(理論社)で
イギリスの新人絵本作家に与えられるマザーグース賞受賞。
「ふつうの学校にいくふつうの日」
(小峰書店)では、
絵本日本賞翻訳絵本賞を受賞

★「ことばとふたり」のあらすじ
    言葉を知らない生きものがいた
浜辺でゴロンと横になり海をじっと見つめたり、時には小石を放り投げてみたり、のんびり気ままに暮らしていた。
楽しい気持ちになった時には腕を伸ばし鳥のようにバタバタした。
けれどそれを言葉で何と言うのかは知らない。
どうしたら良いのか分からなくなった時、顔を歪めて、ただ苦しそうに唸っている。
この気持ちを何と言うのかだって言葉に出来ないのだ。
ある日、その様子を見ている生きものがいた。          言葉を知っている生きものだ。
悲しいことがあるんだと気付いたその生きものは、言葉を知らない生きものに近づき
最初に心を通わせることの出来た言葉は
「ハグ」    自分の気持ちを言葉で伝えあい、言葉が多すぎる時はただ黙ってそばにいる。
二人で一緒に過ごす時間はたくさんの言葉も一緒に住んでいた。

★原書を訳す
       原作と日本の題名の違いに興味を持ったため、まずは原書を全文訳してみた。
原書では言葉を持たない生きものは He
言葉を持つ生きものは She   となっており
人と人との愛を表す詩的な表現になっているのを感じた。

原書
Creature-Of-No-Words was happy tofurry.
And never in a hurry.
                                ↓   
日本
ことばを  しらない   いきものが いた。
からだは もじゃもじゃ けむくじゃら。
いつも のんびり くらしていた。
                                ↓
原書では言葉を持たない生き物が毛皮で覆われいること、決して急がなかったとなっているが、きたむらさんは言葉を知らない生き物とし、言葉への可能性を感じさせると共に
子どもたちが読んでも分かりやすく訳しているのを感じた。

He’d simply lick bristly lips,
pat the fur of his tummy,
then do a triple back flip!
                                ↓     
けむくじゃらの  おなかを  たたき
うしろむきに くるりと  さんかい
ちゅうがえり。
                               ↓
原書では 彼はただ剛毛の唇をなめ、お腹の毛を撫で、それから三回転バックフリップする。となっているのを 唇をなめることを省き、動きが三回宙返りと想像しやすさを感じた。

This time Creature- Of- No -Words heard himself  say. HUG!
And the creatures did just that.
                                  ↓
そのときだ。ことばを しらない いきものが
たった ひとこと つぶやいた。
ハグ!   そして     ふたりは だきあった。
                                 ↓
原書ではこの時、言葉を持たない生き物は
自分が「ハグ」と言うのを聞いた。
そして二人の生き物はその通りにした。
絵を見ると理解出来るが、その通りにしたではなく、二人は抱きあった だと、より理解しやすいと思った。

比較してみると、日本語版では言葉を話す者と話さない者との優劣ではなく、違う者同士が出会いコミュニケーションが生まれる。
そんな多様性を感じた。

引用     絵本翻訳教室へようこそ
                                                         灰島かり
★絵本は絵も訳す
 どういう翻訳をすぐれた翻訳というのか、特に絵本の翻訳の場合は、答えるのがなかなか難しいのです。ある場合は訳文が英文にピタリとそっている必要があるでしょうし、逆に英文から少し離れたほうがいい場合もあるでしょう。ケースバイケースとしか言いようがありません。でもいずれの場合でも、英文がきちんと読みとれていて、魅力のある日本語になっているというのが基本の条件です。
 それともうひとつ、絵本の翻訳は、絵そのものをよく見て、絵の語っている内容を理解する必要があります。これが一般の本の翻訳といちばん違うところです。p7

きたむらさとしさんは「ことば」にのせて伝えることは、とても大事なこと。
自分の気持ちを現すことができるし、相手の気持ちを理解することも出来るから。
けれど「ことば」が無くたって、解り合えることもあるし、言葉通りではないことだってある。
本当に見るべきものは「ことば」の向こう側にあるものなのかもしれません。
と語っています。

この絵本は言葉について
感情表現について
コミュニケーションについて
赤ちゃんの言葉獲得について
ろうあ者 について
そして非言語コミュニケーションについて
表情、顔色、声のトーン、話す速度、視線
ジェスチャーなど、言葉以上に大きな役割を果たしていることなど、色々な考えを広げてくれる一冊でした。

絵本の裏表紙に
           だれかと   わかりあえるって
            なんて   すてきなんだろう!
とあります。

私は、きたむらさんが「ことばとふたり」とした想いが伝わるような気がしました。
そして理解し合うための出発は信頼関係だと思いました。


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