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安全無視の万博遠足


                    編集部 かわすみかずみ

3月28日に起こった万博工事中の爆発事故が波紋を広げている。特に子ども万博招待事業では、安全に万博会場を見学できるか不安や疑問の声がある。爆発事故について取材した。

事故は夢洲1区のグリーンワールド工区で起こった。此花消防署が作った当時の火災時系列及び概要では、10時55分、溶接作業中に爆発している。記録ではこの後、工事を担当した鹿島建設·飛島建設の作業員が関係先に事故の連絡を行い、15時30分に消防署に連絡を入れている。此花消防署は16時に出動し、20分で到着した。だが、現場は爆発から時間が経ち、消防隊は確認のみで作業をせずに帰所している。このとき測定した可燃性ガスは一酸化炭素400PPMで、メタンガスは検出されなかった。
 消防署は爆発事故とし、現場作業員に聞き取りの上、けが人はなしと認識。床面、天井に破損があったと所員は記録する。500平方メートルのトイレのうち100平方メートル(テニスコートの半面以上)が破損した。
 鹿島建設は事故について、「消防署への報告が遅れたのは焼損がなく、事故として扱うかを関係機関に確認していたため」と回答したが、5月15日の会見の後「再度聞き取りの結果、事故はあったので訂正する」と言った。

報道は事故を伝えたか?

 爆発事故について、読売、日経、毎日、産経、朝日の紙媒体の記事を探した。事故当日の3月28日から31日まであたったが、事故を報じた記事はなかった。ネット記事では、大手紙が29日には事故を報道している。紙面で継続して追ったのは、私が知る限り東京新聞、赤旗のみだ。
 日刊ゲンダイ、週刊文春などが取り上げ、ネットメディアはこの問題をさらに大きく扱った。ネットと紙媒体で、報道規制や圧力の強さが大きく異なることがここからわかる。

万博に関心を寄せる大阪府民には、府市の記者クラブが定例会見などでこの話題に触れないことに不満がある。筆者は5月15日の府定例会見で爆発事故について質問したが、「質問をまとめて下さい」と司会から何度か言われた。知事は爆発事故についてまともに答えようとはしなかった。

「別に隠していた訳ではない」

 万博協会は、3月29日にホームページで事故の一報を載せたが、その後3週間沈黙を続けた。4月19日に事故について会見したが、その場で22日からの工場再開が伝えられ、万博に反対する人々は不安視した。定例会見で3週間の沈黙について知事に質問すると「別に隠していた訳ではない。事故の調査に時間がかかった」と答えた。
 夢洲1区は産業廃棄物の最終処分場であり、東日本大震災の汚染がれきを焼いた場所でもある。大阪市環境局は、「1区の万博用地はすでに埋め立てが終わった場所で、その奥ではまだ埋め立てが行われていますが、使ってはいけないというものではありません」と言った。
 だが、市民団体は現場に行き、当初は立ち入り禁止の看板が立っていたことを確認している。看板にはPCB、水銀など、埋められている有害物質の種類が明記されていた。
 たつみコータロー元参議院議員のユーチューブでは、大屋根リングを作ることになったため、会場が狭くなり、途中から1区を会場に追加したと言っている。
 たつみ氏の環境局への聞き取りで、夢洲全体で毎日約1トンのメタンガスが発生し、2区、3区もメタンガスが出ていて、どこで爆発が起こるかわからないことがわかった。
 夢洲駅の工事の際もメタンガスが発生しており、防爆処置を行っている。夢洲でメタンガスが発生することについて当初から知っていたかどうかを記者に問われた吉村知事は「知っていた」と答えているが、万博の報道の中でこれに言及したことはない。

委託する必要はあったのか?

 大阪府教育委員会は現在、「2025年日本国際博覧会児童·生徒招待事業」を行っている。今年度予算で1億1千万円あまりを計上するが、その全額がバスの手配等を行う東武トップツアーズへの委託費だ。
 来年度予算では1億3千万円を計上予定で、内訳は1億2千万円がチケット代で残りは東武トップツアーズへの委託費だという。
 学校に割り当てられた観光バスは1日10台程度。会場から遠い学校が優先で、そのうち車椅子でも乗れるものは数台だ。学校側は6月が遠足のラッシュになると予測し、バスの取り合いになると考えている。大阪市内でも、遠いところは会場まで1時間半もかかり、到着後にパビリオンまで30分歩かねばならない。
 夢洲までの交通費はすべて学校負担で、そのしわ寄せは保護者の負担金として現れる。茨木市ではバスのチャーターで保護者負担が約2千円になるという。府教委の予算に交通費を計上していないことに疑問が残る。府教委が取りまとめれば費用はかからず、交通費も計上できたのではないか。

無理やりな意向調査

 さらなる学校側の懸念は爆発事故だ。府教委の2月の説明を不十分として、大阪市教委は説明会を開催したが、学校側に爆発事故について説明していない。市民団体の聞き取りでも多くの学校長が事故について「知らなかった」と答えている。
 事故について学校側に伝えなかった理由を会見で知事に聞いたが「いや、すでに報道で知ってるでしょ?」と言った。
府教委は万博見学について「あくまでも任意で強制ではない」という。
 遠足で事故があった場合は学校の責任かと問うと「ケースによるので。でも、学校だけじゃなく、一般の参加者も同じような条件ですので」と回答した。
 会場の下見はいつできるかわからず、パビリオンも選べないことも不安材料だ。遠足の指導計画を立てられず、保護者にも説明できない。
 熱中症に備えて水分補給できる場所を確認すると未定だと言われ、子どもたちが水筒を3〜4個持っていかねばならないと教師たちは憤る。
 弁当を食べる場所は2000人規模の休憩所で、交代制で使うという。昼の時間に休憩所が使えるかわからない。日陰はなく、雨風をしのげる場所はない。そんな状況で、府教委は府下の学校に対して5月末までに参加意向調査の返答を出すよう通達した。
 学校側の反応は様々だ。学校単位で行かないと決めたところもあれば、検討中というところもある。府教委の説明会は4月16日に行われたが、学校長から多くの質問が出ている。府教委はこれを万博協会に確認中で、府教委自体も混乱している状況だ。子どもの安全より入場者数の確保という意図が透けて見えるようで恐ろしい。

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