【毎週ショートショートnote】 腋の薔薇時計
若気のいたりで、刺青をいれた。
きっかけは、当時つきあっていた恋人のせいだ。
そのときの俺は、駆け出しのバンドマンで、気合いをいれる意味もこめて、刺青を彫った。
だが、恋人の妙な独占欲のせいで、刺青は腋の下にある。
モチーフは、薔薇と時計が組みあわさった薔薇時計。華やかで荘厳で、実家にある置物を思い出した。
その恋人とは、すぐに別れた。
恋人は、バンドメンバー全員と関係があった。
俺は、バンドメンバーにおいて、異性が混じる怖さを教わったのだった。
ネコクインテットのメンバーになる前の昔話だ。
「彼女に会いたい」
「会えないの?」
川井にひとりごとを聞かれた。
よりによって、川井に。
聞かれたのなら、もう、ぶちまけよう。
「最近、地方ライブ多いだろ? そのせいで、会えなくて…」
「電話してる?」
「してる」
「秘密のひとつでも、教えたら?」
俺の腋の下の薔薇時計とか?
「保留で」
「意気地なし」
今のバンドは、最高だ。
本音でぶつかるヤツしか、いないし。