【ショートショート】 ナイトキラーの愛用武器

「おめでとう。領主様」
「ありがとう」

晴れて領主になれはした。
だが、あの噂が耳について離れない。

領主というのは世襲制である。
だが、近年の領主は世襲できぬほどに殺されていた。
凶器のたぐいは見つからず、顔の原型をとどめないほどになにかで殴打されて死んでいることが多い。

しかも、領主に限らず、いわば様々な人をまとめる人間が狙われることが多いというのが、もっぱらの噂である。
そして、必ず着任が終わった夜に、命を狙いにくるのだ。

無事に夜をこせればいいが。



夜。
物音が耳についてねむれない。
水でも飲もうと、起き上がり台所へむかおうとしたそのとき。

なにかをひきずる物音が私のすぐそばで聞こえた。

「誰だ!」
「おっと、気づかれましたか」

最近、雇われたメイドの一人だった。

「起きたのならよしです」

メイドは私にむかってなにかを振り下ろしてきた。
私は床に倒れる。

「死ぬ間際に教えてあげます。私の武器を」

私の視界に柱のようなものがあった。

「武器は現地調達。私は椅子が好きでして」

私は助けを呼ぼうとしたが、口の中になにかが入り、なにも話せなくなる。

「椅子は立派な武器ですよ。物置部屋にあってもね」

メイドはうれしげに椅子に力をこめた。