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【MTG レガシー】 「プレインズウォーカー、父になる」その8/サヨナラ。ヤヤ・バラード 【初心者、復帰勢、自分と同じ親に向けて】

1.僕が彼女を知ったのは、第5版、フレーバーテキストでのこと。赤のレア、全体火力インスタント《インフェルノ》。
「そのむかし、破壊するだけじゃ能がないとぬかす連中に会ったことがある。やつらはどうなったと思う? 残らず死んだよ」

もしくは、3点火力《火葬》。
「ああ。“こんがり焼けた”というのが適切な表現だろう」

おいおい……上から下まで物騒なんだが??? 「特務魔道師、ヤヤ・バラード」。“特務魔道師”という謎の肩書きからも、手練れのニンジャの如く、職務に忠実で、殺伐とした人物像を想像していました。
当時の訳文は表現も固かったので、始めのうちは女性だとすら思っていなかったですね……ただ、面白い、と感じただけで。カードの向こうにシルエットと生き様が見えるようで。

「ヤヤ・バラード」。そのころは背景ストーリーの詳細を目にする手段は限りなく少なかったので、知らなかったのです。氷河期の最末期「ドミナリア」次元に生まれた、おそらくは多元宇宙で最高の紅蓮術師にして、旧世代プレインズウォーカー。

彼女1人だけ「寺沢武一」の世界に
生きているようなコスチューム
「コブラじゃねーか!」

「ドミナリア」に氷河期をもたらした元凶は、人です。「兄弟戦争」。弟の「ミシュラ」との相克の末、「ウルザ」は自らを大地との導管に変え、愛、苦しみ、喜び、恐怖……あらゆる感情、あらゆる記憶を古代スランの神器「ゴーゴスの酒杯」へと注ぎ込みました。
そして、破滅が「ドミナリア」を走ったのです。

3000年の永きにわたった氷河期は「ウルザ」の傷痕。「ドミナリア」を周囲の次元から閉ざした氷の時代を終わらせたのが、名高い「フレイアリーズ」の《世界呪文》。本当の意味で「兄弟戦争」にピリオドを打った、この歴史的な出来事でも「ヤヤ・バラード」は大きな役割を果たしています。

彼女こそ、数々の伝説に彩られた「赤」の象徴。実際のところ、ニンジャのイクサよりもサツバツとした昔のフレーバーテキストだけでは読み取れないほど、お茶目で魅力あふれた女性です。
他人にあだ名をつけるのが大好き。ひときわ秀逸なのは、同じテリシア大陸出身の宿敵、屍術師「リム=ドゥール」につけた「Dim-Bulb」でしょう。「Dim」は「頭の鈍い、まぬけな」。「Bulb」は「タマネギ」。公式ストーリーでは「鈍(ニブ)=ドゥール」と訳されています。

「あのさぁ……」

上の《特務魔道師、ヤヤ・バラード》は「マジック」世界のオールスター戦の様相を呈していた「時のらせん」で、“時の亀裂”を通り抜けてきた若い日の姿。
その後、師であり友でもある「永遠のジョダー」の証言などから、彼女の死がまことしやかにウワサされていたのですが……2018年発売のセット「ドミナリア」にて。

「やっぱりコブラじゃねーか!」

思いがけない復活に大興奮したファンも多いのではないでしょうか。老いてなお……いや、昔をしのぐほど美しい。未熟だった「チャンドラ」を鍛え直すなど、ストーリー上でも活躍を見せていたのですが……。

2022。「団結のドミナリア」。

今日は、彼女に捧げるデッキを組んでみたいと考えています。亡き《ヤヤ・バラード》のための「赤単」デッキを。

2.プレインズウォーカー《ヤヤ・バラード》というカードは、スタンダード環境で活躍したカードとは言えません。5マナと重く、直接、戦場に干渉できる能力も持たなかったからです。
ただし、環境に合わなかったからといって、弱いとは言いきるのは、いささか早急。組み合わせ次第です。まして、レガシーでは「ありとあらゆる」呪文を相棒に選べるのですから。

《ヤヤ・バラード》をレガシーで使うのなら、「インスタント、ソーサリーにのみ使える“赤赤赤”を生み出す」という第1の能力を活かさない手はありません。「赤」の超重量スペル、それも一撃で勝負を決め得る魔技といえば、これでしょう。《抹消》。

全てのアーティファクト、全ての土地、全てのクリーチャーを砕き尽くす「赤」の奥義。しかも「打ち消されない」。エンチャント、プレインズウォーカーに触らない《抹消》と《ヤヤ・バラード》との相性は最高で、着地した次のターンには軽々と撃つことができ、本当の意味での「更地にプレインズウォーカー」状態を達成できます。

これを使う手もあります。《ドラゴンの嵐》。

こちらも捨てがたいですね。「ストーム」のおかげで、打ち消し呪文への耐性は《抹消》と同等以上。呼び出すドラゴンの種類を工夫すれば、即時決着を狙えるのも魅力。たとえば《ミジックスの熟達》を経由する型なら、《ヤヤ・バラード》第2の能力、同時に3枚ものルーティング能力で《ドラゴンの嵐》を墓地に落とすのも有効でしょう。

スペル版リアニメイト
「超過=オーバーロード」で撃つことも
もちろん視野に

しかしまぁ、「ドラゴンストーム」はデッキスロットの大半を使って一点特化させないと、充分な戦闘速度を出しにくいしなぁ……などと頭でっかちに考えるだけでは仕方ありませんね!
たとえ 「バーン」や「アグロ」でなくても「赤」は「赤」。ためらうヒマがあれば、駆け抜けるのみ、です。今日のデッキはこう!

3.「抹消コントロール+ドラゴンストーム」。《稲妻》や《兄弟仲の終焉》を筆頭とした優良除去で戦況をコントロールしつつ、必殺の《抹消》を撃ち込む間合いを計る……こうした「抹消コントロール」の文脈に従って動くのが基本方針。
マナ加速には《抹消》で吹き飛ばす定めのパーマネントに頼りたくなかったので、モダン禁止カード《煮えたぎる歌》を採用。

マナ収支は+2で
なんと《暗黒の儀式》と同効率

この呪文が《ヤヤ・バラード》と好相性で、2、3ターン目に着地させて攻守の拠点にすることも。
反対に、《ヤヤ・バラード》着地から「+1能力で赤赤赤マナを確保→《煮えたぎる歌》→5マナドラゴンを《ヤヤ・バラード》のガード役にする」という流れも可能に。インスタント・ソーサリーにしか使えない《ヤヤ・バラード》の赤マナを《煮えたぎる歌》が他の用途に変換してくれます。

採用しているドラゴンは《峰の恐怖》3枚と《雷口のヘルカイト》1枚。

なかまに なりたそうに
こちらを みている

今の、まちがい。《峰の恐怖》は3000円級で、今回のデッキで最大の高額カードですが、その価値はあると思います。何しろこのデッキ、「コントロール」を名乗りつつも、最速キルは“先手1ターン目”です。

子細は省略しますが、なにか1つ以上の呪文を唱えた状態で、墓地に落とした《ドラゴンの嵐》を《ミジックスの熟達》でコピー。これで確殺。

《ドラゴンの嵐》×3がスタックに。順に解決。
1つ目の《ドラゴンの嵐》解決。ライブラリーから直接、《峰の恐怖》1体を戦場に。
2つ目の《ドラゴンの嵐》解決。もう1体《峰の恐怖》着地、1体目の能力誘発で対戦相手に5点ダメージ。
3つ目の《ドラゴンの嵐》解決。《雷口のヘルカイト》着地。戦場にいる2体の《峰の恐怖》の能力誘発。対戦相手に5点ダメージを2回。
そのまま、「速攻」持ちの《雷口のヘルカイト》でアタック。合計20点。
コンボ特化型ではないため、最速パターンの再現率は高くありません。しかし《信仰無き物あさり》でも手札を回せるので狙える場面は多く、隙を見つけた瞬間にねじ込んで決着です。

もちろん
《抹消》のほうを墓地に落としておくのも良し
4マナで「仕切り直しや!」ができるようになります
「オーバーロード」なら
《抹消》+《ドラゴンの嵐》+αという絶技も可能
「オーバーキル」気味ですが
ロマンとカッコよさは全てに優先するのだ

せっかく《抹消》を武器にするのに、デッキ内のプレインズウォーカーが《ヤヤ・バラード》だけでは心もとなかったので、弟子の《反逆の先導者、チャンドラ》も採用。《ヤヤ・バラード》ほどの爆発力は無くとも、マナ能力でほぼ同じ役割も果たせるし、4点火力で自衛もでき、総合的な扱いやすさは上です。

始めはもっとマナ加速に重点をおいて、初動で魂を燃やし尽くす構成でした。ただ、手札の消費速度が激烈すぎて。仮にその全力攻撃を跳ね返されたら、“まったくリカバリーできずに死ぬ”という、線路を自らめくれあがらせながら突っ走る暴走機関車ぶりでしたね……。
「コントロールって、何だべ???」とゴブリン・ウィザード並みの疑問もわいてきたので、少しマイルドに改造したのが今のリスト。《抹消》も下手に早撃ちするより、ぎりぎりまで引きつけて、全リソースの壊滅を狙うほうが効果的な呪文ですから、ね。

《冠雪の山》+《占術の岩床》の「氷雪コントロール」要素も搭載しており、手札にあふれた《冠雪の山》を《ヤヤ・バラード》や《信仰無き物あさり》のルーティングで有効札に変換していく作りになっています。

また、2マナ土地には《水晶鉱脈》を採用。

使い捨て2マナランド

「どうせ、全てを塵にするのだから、これでも問題ないでしょ?」という刹那的、かつ、ディストピアな理由での起用です。加速の必要がないときは普通に1マナを出せるのも利点。「抹消コントロール」は1ターン目に《虚空の杯》を置くタイプのデッキではないですし。

《古えの墳墓》や《裏切り者の都》で
1ターン目に押しつけるのが定番ムーヴ
ところが「抹消コントロール」には入らないのです
余波で吹き飛んでいくから

ただ、序盤に《ヤヤ・バラード》や《反逆の先導者、チャンドラ》を展開したいときなど、どうしても《古えの墳墓》が勝る場面もあり、ここの差し替えをするのがもっとも簡単な強化ポイント。

継続的に2マナが出せるのは、やはり強い
そのつど、2点ダメージはつらいが
初期型ではこちらも追加で試していました
枯渇よりも、タップインがなぁ
しかし、1枚で赤赤を出せるのは強み
捨てるには惜しい個性なので、もう少し検討

「コントロール」と銘打ちながら、豪快で大振りなデッキです。これもまた「赤」。全てを消し炭と化したあと、「戦場に1人立つ、老《ヤヤ・バラード》」という情景を甦らせることができるのが最大の魅力で、目的。
しばしば、そのとなりに、時代と世代を越えた最後の弟子《チャンドラ・ナラー》が立つことになるのも、また良し、ではないでしょうか。

ちなみに……この2人揃えば、赤×5マナを土地以外から軽々と作れるので、《抹消》だろうと《ドラゴンの嵐》だろうと、その2つを掛け合わせた《ミジックスの熟達》=「オーバーロード」だろうと毎ターン連発できるようになります。まさに「パワーをメテオに」状態。
全土地、全クリーチャー、全アーティファクトを吹き飛ばした上で、デッキ内、全てのドラゴンを呼び出し、対戦相手のライフをも灰塵に帰しましょう。

「Dragons !!?」

いまの、まちがい。呼んでない、「サルカン」くん。ロマンは認めるが。
(待てよ、実際に1枚投入し、いざとなれば《ヤヤ・バラード》も《チャンドラ》もドラゴンになって顔面に襲いかかるプランはどうだ? いっそ《ドラゴン変化》でプレイヤーも火を吹くぞ? いや、ダメだダメ。絵面の面白カッコよさとカオスさは魅力だが、風情もへったくれも無い。亡き《ヤヤ・バラード》のデッキだとさんざん言っているのに、脳まで「サルカン」に支配されるわけには↓)。

「Dragons !!!」

4.ふぅ。やっぱり、ショックでしたね。「ヤヤ・バラード」の最期を「Magic Story」で目撃したときは。「マジック」を始めたころから知っていた、親しい友人を喪ったようで。しかも、手を下したのが完成化した「アジャニ」でしたから。

テフェリーと並んで好きなプレインズウォーカーでした
「ニコル・ボーラスはその長い生涯で
片手で数えられるほどしか敗れたことがない」
その数少ない黒星をつけた1人が、彼です

この記事は、初心者や復帰勢、親であるプレインズウォーカーのために、安価で面白おかしいデッキを紹介するためのもの。
そんな立ち位置を堅持するため、幾つかのルールを設けており、「批評をしない」というのもその1つ。ゲームについても、ストーリーについても。それは僕の役目ではありません。

ただし、「モダホラ2ァ!!!」
くらいの罵倒は許して

なにより、さすがに長い付き合いで、解っていることがあります。「マジック」の世界では“どんな重要人物も、あえなく死ぬ”ということです。それは現実の次元も同じかもしれませんが。
「ヤヤ・バラード」は最期の場面をきちんと描かれているだけでも恵まれているのかもしれません。かつての「ギデオン・ジュラ」と同じように。

ただ、別れを惜しむだけです。貴女がいないと寂しい、と。赤い呪文のフレーバーテキストごしに活き活きとしたシルエットを見ることもできなくなって。

子どもたちのために。
いささか早すぎる気もしますが、少しずつ伝えていることがあります。親というのは、ズルい生きものだと。
なぜなら高い確率で、僕たちが先に死にます。もちろん、お互いがこの次元で生きている以上、何らかの事情で順番が入れ替わる場合もあるかもしれませんが……。そうなる確率を極力下げるため、安全で、安心できる家を用意することを、戦略の根幹としてはいても。

親というのは、ある意味で、とても身勝手なもの。僕たちは子どもたちを見送らない。それが願いでもあります。伝えたいこと、与えたいものを充分に受け渡したと判断したら、彼女らの人生の途上で、勝手に満足して去るでしょう。べつに断りも求めず。
遠い未来、きみたちを見送る役目は……また別の世代の誰かへと、丸投げさせてもらいましょうか。まことに小狡い考え方だとは知りつつも、この世とはおおよそ、“そんなふうに出来ている”ようですから。

「ヤヤ・バラード」に実子がいたのか、という話は、耳にしたことがありません。しかし、血の繋がりなどとは関わりなく、「ヤヤ・バラード」以上に多くの“子”へと恵みを受け渡した女性は少ないでしょう。
たとえば「レガーサ」次元で紅蓮術を伝えた弟子たちも、彼女の遺志を継ぐ“子”。「ゲートウォッチ」として多くの世界を救った「チャンドラ・ナラー」はそのもっとも元気な1人です。

なにより「ドミナリア」次元での「ヤヤ・バラード」は「氷河期を終わらせたもの」。「雪解けの時/The Thaw」、あるいは「花の時代/The Age of Flowers」は少なからず混乱も引き起こしましたが……まぎれもなく、多くの命を育んだのですから。

彼女も、後の世の「ドミナリア」に生まれた子
(奔放)

公式記事の紹介文にも書いてあるではありませんか。「ヤヤ・バラードは長く有意義な人生の終わりを心から受け入れている」と。彼女は幾千年の生を息継ぎなしに駆け抜け、流星の速さで去っていきました。その生き様こそが「赤」の矜持。

「流星」

それならば、悲しみ、嘆くことはありません。いずれ、どこかで、と遠い約束をする必要も。こちらの次元、ゲームの中でなら、彼女は常に不滅の“特務魔道師”。赤赤赤を含んだ5マナ、という報酬さえ用意できれば、いつでも会えます。
そのための専用機こそ、今回のデッキ「抹消コントロール+ドラゴンストーム」です。

もし、自分なりに弔辞を書く必要があるならば。
この内容とデッキリストになるようです。それでは、また。今日はさよなら。古い友人、親愛なる「ヤヤ・バラード」。

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