トイレの花子さん 2


たつん。
水滴が一雫落ちる様な小さな音が響いたようだった。
自分を取り巻く世界が、空間の様なモノが、ゆっくりと歪み始めた。

だが、3人の子供達は、そんな事には何も気付いてはいないようだった。

 放課後の誰も居なくなった教室で、トイレの花子さんに会いに行く相談の真っ最中だった。

1人は、恐怖心よりも好奇心の方が勝っていたし、
1人は、すっかり怖気付いてすっかり恐怖心に囚われてしまっている。
もう1人は、今ここでどちらに着くのが正しいのか迷う気持ちの方が強かった。

 空間の歪みは、少しだけ教室そのものを動かしたようだった。
軋む様な音が教室の扉から聴こえてきた。

 恐怖心に囚われていた子供が、扉の軋む音に反応した。
まるで、誰かに背中をスッ…と撫でられた様な感じがしたから。

「うわぁっ!」
怖がる子供の悲鳴に、更に緊張感が走る。
「な、何?びっくりさせないでよ!」
好奇心旺盛な子供が、驚いて諌めた。
「だっ、だって。。、何か、誰かが背中に。。」
ビクつきながら青ざめた顔で自分の背中をさすった。

「誰も居ない。。けど。。」と、どっちつかずだった子供が背後を覗き込むように小声で言った。

自分も少し怖いけど、気の所為かもしれない。そんなふうに思っているようだった。

「もー!ビビりなんだから!ビクビクし過ぎると、何でも怖くなるんだよ!」と好奇心旺盛な子供は、自分にも僅かに湧き上がり始めた恐怖心を抑え込むように、少し強くなじった。

「だって、だって。。、」と、恐怖心に取り込まれてしまった子供はじわじわと涙を滲ませた。
そのうちヒックヒックとしゃくりあげてしまったので、
残った2人もそれ以上は強く言えなくなってしまった。

 教室の中に取り巻いていた歪んだ空間は、今度は澱んだまま教室に張り付いて行った。
 3人は完全に空間の歪みに囚われていた。

ガララと教室の扉が開いた。
「おい、お前たちまだ残っていたのか?」
いきなりの声に子供達は驚いたが、そこに居たのは担任の先生だった。
「もう下校時間だぞー。早く帰りなさい。お?なんだ?ケンカでもしてたのか?」
べそをかいていた子供を見て先生が言った。

「違います。ケンカじゃないです!」「ん〜、ほんとか?  おい、大丈夫か?」
と、先生は2人の子供に交互に声をかけた。

「はい。大丈夫です。」と、べそかきの子供は小声で言った。

「うん、じゃあもう帰りなさい。」「はぁい。」
と、花子さん探しに行きたかった子供も半分ガッカリしながらランドセルに手を伸ばした。
他の2人も慌てたようにランドセルを持ち教室を出る。

「先生さよならー」
「おう、気をつけて帰れよー」

2人は不意の先生登場に安心したような、ちょっと惜しいようなそんな気持ちで家に帰って行った。
泣きべその子供だけは完全に安心していたようだ。


「絶対花子さんに会いに行く!明日は行こうね!」
と、校門を出た辺りで、好奇心旺盛な子供が2人に向かって言った。

「え〜、まだやるの。。。」
「あたし、怖いの嫌だって。」
と、2人とも全く乗り気では無かった。

「いいじゃーん!明日のお昼休みならさ、そんなに怖くないでしょ〜。昼間なんだし、怖くないからァ」

2人ははっきり嫌とは言えず、ゴニョニョ言いながら、それぞれの家に帰って行った。

子供達が居なくなって、暗闇にまるっと飲み込まれた教室では、張り付いていた空間が、今度は大きく歪みながら教室からゆっくりと這い出て行って、暗闇の廊下に静かに溶けていった。



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