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続 青臭い女と擦れた男の話

前の話

直也の反省

直也が、朱音のことを「ねえね」と呼ばなくなったのは、母の葬儀の後だった。

幾ら姉弟が仲良くても、愛情を注いでくれる義父が居ても、自分だけが異種族のような奇妙な違和感を勝手に覚えた。
地面にぽっかりと空いた穴の底に、待ち構えた大蛇に飲み込まれそうな恐怖に震えることもあった。

直也は、我武者羅に勉学に勤しみ、様々な遊びも選ぶことなく参加した。
一人でいると、突然、背後から見えない黒い靄のような物が襲ってくるのだ。
学生時代の仲間に妙に気が合う男がいた。光輝である。

光輝もまた、非嫡出子として生まれた。しかし光輝の父親は光輝を正妻との間に引き取り、第1子として育てた。

光輝の母親は父親が結婚前から交際していた一般人だが、祖父の勧める政略結婚により別離を余儀なくされた。
光輝は素性がはっきりと知れた男であるが、今のところ父親の後継者ではない。

身上話などしたことは無いが、お互い、同じ臭いを敏感に感じ取っていた。女性に対して素行が悪い言い訳にはならないが、二人とも賑やかで華やかな環境を好んだ。

然し、直也は、朱音の苦悩する姿をみて、行動や甘えを改めるべきかもしれないと感じていた。

直也が、過去に思いを巡らせていた時、頬に突然痛みを感じた。
我に返ると、ボロボロと涙を流して、拳を握りしめて震えている美羽が目の前にいた。

湧きあがる直也への想い

私は、自分でも心の整理がつかなかった。
年の離れた優しいお兄ちゃんだった筈の直也が、呆然と立ち尽くしている。

短い時間の間で、好奇心から、怒り、そして恋愛感情に変わりつつあったが、それを自覚するには至らなかった。
幼い蓮人君が、私を見上げてあっけにとられていた。

朱音は、優しく頷きながら私を見つめて肩に手を置いた。
「酷い人たちね、光輝も直也も」

更に朱音は続けた。
「貴方達を見ていて、私も未熟だったことに気づかされたわ。
この先も色々あると思うけど、もう少し我慢して光輝に寄り添ってみるわ。
光輝も変わってくれるかもしれないし、何より蓮人が可哀そう。」

更に続けた

「だけど美羽さん、貴女はまだ若い、学業を大切に、そしてこの先の出会いも大切に前進してね、余計なごたごたは吹っ飛ばして終いましょう」

然し、朱音が、好意から諭してくれた言葉が、私の心をさらに直也に近づけたのだった。

私は、自分の心の変化に気づかないまま3人に別れを告げた。
運ばれてきた分厚いロースにも、有機栽培の野菜にも手を付けることなく部屋に戻って眠れぬ夜を過ごした。

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