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僕の聖愛日記 過去編③

相変わらずA子との関係は続いていた。
いつもの日常で、僕はその関係にすっかり慣れてしまっていた。

それと同時に、だんだんと新鮮さが薄れていくのも感じていた。
出会って一年くらい、会えば必ず飲み屋からスタートしてゴールはホテル(か、僕の部屋)だからだ。
まあ、その流れがオーソドックスなのは当然である。

しかし、人間というのは不思議なモノだ。

あんなに幸せを感じ、会うとなると毎回ドキドキしていた気持ちも、時間と共にルーティンワークと感じた瞬間、萎える。
そう、僕は飽きてきていた。

毎日即レスで返していた返事も、だんだんと億劫になっていく。
そうこうしていくうちに、返さない日があったり、連絡を取らなくなる日が増えていく。
それに対してA子からも何の指摘もない。彼女も同じことを考えていたのかなと思う。
ただ、いざ会うとなると今までと変わらないいつもの繰り返し。

その当時僕は、今の仕事を立ち上げ始めたばかりもあって、休みも碌に取れない、まして連休なんてもってのほか状況だったので、おおよそ普通の人がする(かはわからないが)であろう1日2日をかけて行う青春デートができなかった。
だから、せめて会って話をして彼女とちょっとだけでも一緒にいてあげる、それが僕なりの愛情だと信じていた。

その日もいつものように待ち合わせて、とりあえずお店に入る。
いつものようにビールを頼み、2つ運ばれてきて乾杯する。
その人といる時には当たり前の流れの一つだ。
飲みながら、最近ハマってる音楽、どこどこに行ってきた、仕事でこんなことがあった。
聞きながら相槌を打つ。
いつもと変わらない時間が流れる。
ただ、その日は少しだけ違っていた。

ふいにA子が
「もし彼氏と別れたら付き合ってくれる?」

その言葉を聞いて、僕は一瞬戸惑った。

もう何ヶ月か早かったら、僕は即答していただろう。
ただ、瞬間脳内で迷ってしまっている自分がいた。
「......たぶん」

「......そっか」
そうしてお互いビールを一口。

その言葉の間は気持ちを推しはかるには充分だった。

僕「そろそろ行こうか」
A子「そうね」

店を出て手を繋ぐ。

その日はとても寒かった。
何を言うでもなく、道のりを歩く。

「どうしよっか?」
A子に言われた。

「うち行こっか」
僕はそう言った。

改札をくぐり、同じ電車に乗り込む。
酔っ払ったサラリーマン、イチャつくカップル。本を読むOL。
様々な人生模様を見ながら我々は帰路に着く。

途中コンビニで温かいお茶と缶チューハイを買い家路へ。

その日いつもと違っていた。
なんとなく気づきながら気づかないふりをしてA子を抱く。

おそらくこれが最後だろう。
それはお互い同じ気持ちだったのかはわからない。

そう考えると、一瞬居酒屋で言われた言葉の返事をものすごく後悔した。
自分のアドリブの効かなさに自己嫌悪。
その気持ちを、セックスの気持ち良さがさらに拍車をかけてくる。

何回もイッた。
この一年の全てを身体に乗せてぶつけ合った。
たぶん明け方近くまでずっとしていたような気がする。
疲れ果てて猛烈な賢者タイムが襲ってくる。

「彼氏とはもう別れてるんだよね」
唐突にそう言われた。
僕は不思議とそんなに驚かなかった。

彼女曰く、僕と関係を持ってから彼女とセフレの違いがどんどんわからなくなっていったらしい。
愛のないカップル、愛のあるセフレどちらが幸せか、それは一目瞭然だ。
ただそこに、社外的モラルや周りの目が入ってくるとガラッと変わる。

誰だって好きな人と恋をして、セックスをして、結婚して子供を産みたい。
至極当然の考えだし、僕だってそうだ。

ただ、彼女にとって僕との未来は思い描けなかったらしい。
彼女だってまだ結婚を夢見る乙女なのだ。

お互い話をいっぱいした。
深いことをいっぱい話した。
そして、もう関係を終わらせることになった。

朝になり、駅まで彼女を送ってく。
いつも必ず繋いでいた手を初めて離しながら歩いた。
手を握ったらまた気持ちが引き戻されてしまうから。

駅につき彼女を見送る。
「またね」の言葉はなかった。

帰り道、牛丼を買って帰る。
今まで忘れていた空腹感が急に襲ってきた。
ただ心は不思議とスッキリしていた。

家に着くと、さっきまでいた彼女の匂いがする。
油断するとその匂いが後悔の念を蘇らせてしまうからと、僕はさっき買った牛丼の匂いで蓋をした。
空腹感と空虚感を芳ばしい香りが満たしていく。

そしてその後、僕らが会うことは二度となかった。

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