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『野火』著者:大岡昇平

『野火』著者:大岡昇平

野火は大岡昇平さんの小説です。

塚本晋也さんが監督兼主演を務めて映画化されています。元々、1959年に映画化されていますが塚本晋也監督版の方が原作に沿った形で映画化されているかと思います。

塚本晋也監督版は塚本晋也さんの他にリリーフランキーさんや中村達也さん(BLANKEY JET CITYのドラム)が出演。

映画は出資者が見つからず自主制作映画として作成されたとの事です。グロ・カニバリズム・陰残としたストーリーでは興行的に成功の見込みも薄くて集まらなかったのかな...。

映画で私が特にグロいと思ったのは戦後の主人公が明らかなPTSDにかかっている描写、怖いですよね。

私は塚本晋也監督の映画から入って小説を読みました、U-nextで小説を購入。

ページは250ページ強なのでサクッと読めると思います。

作者である大岡昇平さんのフィリピン従軍経験を元に描かれており多少の脚色はあるにせよ本当にこんな事がむしろ小説より酷い現実がそこにあったのではないかと考えさせられます。

映画では小説家になった主人公ですが原作では戦争体験によるひどいPTSDに悩まされる部分も描かれています。主人公が他の兵士と比べるとインテリで頭の良い人物故にまだ平和な現代で考えると神の存在や体の左右で違う人間になる様な感覚は本当の戦時中でも発生するのではと従軍経験のある作者なのでリアリティを感じる。

また、第二次世界大戦が小説の背景にあるのですがアメリカ軍との戦闘描写などありません。戦闘描写としてあるのは一方的な虐殺のみ(もちろん日本兵に戦う能力は無い)。

兵士たちの最大の敵は『飢え』になります。ストーリーの中でまともな食事をしている描写は全くありません。
主人公が主に口にしているものはキャッサバ芋(タピオカの原料)、虫、草などで調理するという概念すらありません。

カニバリズムにも言及されており、ある登場人物は飢えをしのぐ為に積極的に人間を殺します。極限状態まで追い詰められたらなんでもするのかと思いましたが事実として極限状態下でカニバリズムが発生した事件もあるので従軍歴と合わせてリアルなのかなと感じました。

↑は実際にカニバリズムが発生した事件です。
どの事件も背景に『飢え』がありますね、実際に『飢え』が理由でカニバリズムが発生した事案はあるので極限の飢えの状態になれば人間は簡単に狂うということなのでしょうか。

そのような状況にあっても主人公は例外的な事柄以外で自発的な食人行動に走ることはありませんでした。知性のある敗残兵だったからこそ理性が働き狂人になっても最後のハードルは越えなかった…。

ハードな小説なので読むと体力を削られますが世界各地で戦争が起きている昨今を考えるのであれば一度、手を取ってみてもらいたいです。

『私の肉を私が食べるのは、明らかに私の自由』

『野火』著者:大岡昇平

この台詞には痺れたというか打ちのめされた。この台詞が出るシーンまで是非読み進めてもらいたい。
平和時代の平和な国に生まれたことを感謝しつつ悲惨な戦争がこれ以上起こらないことも祈りたいです。

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