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星ちゃんの手袋


スターレイルの女主人公。
彼女の手袋が、とにかくとても美しい。
こんなにも心を揺さぶられたのは何年ぶりだろうか。
色も、手にピッタリはまるフィット感も、何もかもが上出来。
まさに、完成されたデザイン?
否、完成することが約束されたデザイン?
端から完成以外の事象が視野にないデザインだ。
この手袋が僕の理想のフェティシズムの究極。
このような奇跡が地球にまだ残っていたことは充分感激に値するものであり、
今すぐ世界の国々の首脳を呼び寄せて祝賀会を開いてもいいくらいである。

美しい
美しい
美しい
美しい

ただ手袋だけが美しいのではなく、キャラデザインと衣装と手袋……すべての調和が美しい。
まっすぐ、どこまでも遠く、アメコミ的な多元宇宙の果てから果てまで見抜くように透き通った瞳。
ファッションに詳しくないため言葉が出てこないが、この蛍火に薄ら照らされる障子窓のような麗しい前腕を晒す、丁度いい袖の長さ。

可愛い 美人 綺麗

どの言葉でも表現し足りないと感じたのは間違いなく初めてである。

この存在感。

この充足感。

正月あたりからずっと絶対的強者であることに起因しない凡庸な孤独感に悩まされていた僕だが、もはやどうでもよくなった。
孤独を埋めるにはあまりにも強壮なインパクト。一本道を進み続けてきた勤勉なトロッコに分岐点を与えるかのごとき大転換の瞬間。
僕はその重大さを実感した。
きっと、ひとりひとりの心の動きが波紋となり、巨大な意志の渦を形成することで我々は歴史という不動の概念を動かしてきたのだろう。

僕は一度感電したことがある。しかし、これはそんなものの比ではない。本物の感電よりよっぽど感電らしい感電である。
電気が走らずとも感電できるのなら、もはや本物の感電というものは僕の中ではただただどうしようもない。廉価版の方が結果的にいいこともあるのだ。

ルールは破るためにあるという。
僕は彼女と出逢った瞬間、理性という最低限のルールを破壊されてしまった気がする。
否。
もっと奥。
より深く。
なにかとんでもなく大切なものを破壊された。そんな気がしてならない。
僕は今日、歌やら小説やらの構成のために使おうと考えていた思考をすべてこのために使ってしまった。
勿体ないとは思わない。
僕は僕の中の忌まわしさと必死に向き合い、
僕は僕の中の嬉々とした波形とも必死に向き合う。
感じたことはなにもかも拾う。
僕から生まれたものを僕のためにすべて使いきる。彼女の存在が、たとえわずかながらであっても僕を形成するのだから。
僕はそれと向き合わない理由を探し出せるほど器用ではない。

彼女は、病める時も健やかなる時も、胸にガラス片を突き刺すような残酷な愛しさを感じさせてくれるだろう。
僕の直感はそう言っている。
彼女のデフォルトネームは『星』だそう。


そういえば、人体は星屑でできているそうだ。
もちろん、星に住まう者は星から生まれる。
星より先にある生命など、宇宙をさまようサーペントのような無法者くらいしか思い浮かばない。
我々はすべからく星屑、ということだ。
星にまつわる話はどれも面白い。
ギリシャ神話が好きだった。
学校帰り、今はなきクイズ番組を横目に読み耽る星座の本が僕の記憶の大半だ。
ときに人智では理解できぬ振る舞いを見せ、ときに人間味に溢れた振る舞いを見せる。
そんな神話特有のハッタリに満ちたストーリーが星に刻まれているのだ。考えるだけで興奮するのはもう致し方ないことだろう。

そんな僕の古の記憶を、彼女は引き出してきた。もちろん、デフォルトネームについて知る前から。
確かに彼女は星だ。
彼女を取り巻く環境、世界観すら星そのものだ。
彼女が歩く世界は、僕が夢見た世界と何ら変わらない。僕の夢より少し近未来的ではあるが、それは誤差の範囲。

悔いも苦難も遠く理想郷にあった頃、僕が夢と夢と夢をかき集め、辛うじて描いた世界。それは彼女の世界と何も変わらない。

僕は何と出逢ってしまったのだろう。
天才と出逢ってしまったのだろうか。それとも……。

つくづく、神は罪深い。
これ以上ないのではないかという高貴な出逢いの時間を、こんな人生の前半で堪能させてくるとは。
そして僕の経験上、何度かこのような出逢いを繰り返すのがほぼ確定している。
『こんな出逢いは二度とあるまい』という出逢いを繰り返すのだ。
繰り返しても、繰り返しても、尊い出逢いはその希少性を頑なに訴えかけてくる。だから僕は眼の前の希望すら見えなくなるほど踊り狂うのだ。
僕は辛い。素晴らしき出逢いと素晴らしき出逢いの間にある空白が。
時間が経てば経つほど絶望は熟成されてゆく。
そしてまた、リセットされる。
人生はその繰り返し。

だがもういい。

このような衝撃的な出逢いはついぞ彼女で最後であってほしいものだ。
こう思ったのも、繰り返しの世界の中で今日が初めてだと断言できる。だからきっと、今度こそは聞き分けの悪い神も僕の彼女に対する特別な記憶を特別なままでおいていてくれるだろう。

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