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USJは、時間を20万円で買う覚悟がいるらしい。

「今日、としまえんに行こうか」
母が笑って言ったのを、信じられない気持ちで聞き返す。
「ほんと?」
「うん、誰か友達を誘って来たら?」
それも信じられない。5歳の妹といっしょに行動することが多くて不満がたまっていたから、友達と一緒に遊園地に行けることが最高の喜びだった。

「え!ほんと?」
歩いて1分。ピンポンをおしたら、G君もすぐに出てきて大喜び。昭和63年。僕たちは、小学5年生になったばかりだった。母親と行動することは、ちょっと恥ずかしいところもあったかもしれないけど、東京の、としまえんなら、そんなのはぶっ飛んでしまう年頃。かわいかったのだ。

しかし、今思えば、のどかな話だ。日曜日の朝に、急に思いついたように母から提案され、そこからバスと電車で2時間もかけて池袋まで行く。たしか混んでいて、アトラクションは3つぐらいしか乗れなかった気がする。スイングされる奴と、ぐるぐる回る奴と、ジェットコースターみたいな速い奴だった気がする。長蛇の列に並んで、何度もその長さを確認するように振り返った事しか覚えていない。でも、十分満足していた。

行きも帰りの電車も混んでいたけど、駅名表示のローマ字を読んだり、中づり広告を何度も読んだり、きっぷに書いてある4桁の数字を足したり引いたりして10にしたり、きっぷの角で腕に白い線をひいて、〇×ゲームをやったりして時間を潰していた。でも、楽しかったのだ。

家族でUSJに行くという話があって、JTBの相談カウンターにいったとき、何故かそんな、昭和63年のとしまえんを思い出していた。家族4人、JTBツアーの見積もりは2泊3日で34万円、ファストパス4人を追加したら42万円、現地の滞在費とおみやげとか諸々で45万円。もうほぼ50万円だ。

ツアーでいかないとしても新幹線、ビジネスホテル、チケットで最低25万円はかかりそうだ。つまり、USJから歩いて5分で、朝15分早く入園できる権利を得て、USJっぽい雰囲気を味わいつくすホテルにグレードアップで10万円、さらに園内に入った後で、列に並ばないで楽しむ権利で追加10万円かかる、まあ、そんな感じである。2カ月前であと3室しか空いていないという混雑状況。

それにしてもUSJは、インバウンドやらコロナ明けやらで、とんでもなく混んでいるという。それにより、朝の行列の2時間、帰りの電車の混雑1時間、パーク内の行列4~5時間を回避するお金が20万円という価値なのだ。

そういえば朝のラジオで「春木屋理論」を解説していた。ラーメンの老舗、春木屋さん。シンプルな中華麺で、みんなから「懐かしい味」「変わらない味」と言われているが、実は違うのだという。時代によって、みんなの味覚は変わっていく。舌が肥えていく。本当に変わらないままだったら、みんな離れて行ってしまうというのだ。「変わらない味」のために、実は、素材の品質が少しずつよくなったり、改良したりして、今があるのだという。チキンラーメンだって、昔のチキンラーメンを今食べたら、やっぱり美味しくないということらしい。


あの、35年前のとしまえん。混んでても、暇でも、コスパやタイパが悪くても、文句は言わなかっただろう。そういう時代だったのだから。そして、今は今の時代に必要なコストと労力があるということなのだ。あの時の僕と同じ遊園地の感動を提供するには、パパは、3~4か月前からガイドブックとYouTubeを読込み、友人にLINEで情報を収集し、JTBカウンタ―で1時間以上話し込み、総額50万円をかけて、マリオの世界観に没入できる時間を提供しなくてはならないのだ。それが「遊園地の思い出」なのだ。春木屋さんが、少しずつスープの味わいを変えていったように。僕らも思い出の品質を上げていかなくてはいけない。。

ああ、お腹減ったけど、カレーうどんとミニ丼のセットで1,480円もとるのか。そうやって、物価も上がって、生活が豊かになったという令和6年なのか。最低賃金がまた50円上がるのか。。。ああそうか。。。さて、この50万円を嫁にどうやって説明しようかと、逃げ回っている、令和のパパよ、幸あれ。

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