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ぽかぽかの賞味期限 ④

 地域の大人がどんなふうに働いているかを見ることができたら、そこを訪れた人は、この地で働く自分自身の「暮らし方」のイメージもしやすいのではないでしょうか。カフェ、ゲストハウス 、塩つくり— 。浪越さんの次なる目標はそんな空間を父母ヶ浜につくること。地域の「カカワリシロ」をどう生みだすか、浪越プランを紹介します。


作りたいのは「関係案内所」

 8月31日。この日は15時にいったん cafe de flots を閉めて、声をかけた仲間と、浪越さんは次なる目標の場所へ行きました。そこは父母ヶ浜に面した使われなくなった食品工場。そこで父母ヶ浜に訪れた人たちが、三豊と関わるきっかけの場所を作ろうとしているのです。父母ヶ浜は「日本のウユニ塩湖」ともいわれ、映える写真が撮れるということもあり、インスタグラムでブームになってから、観光客が訪れるようになりました。

ー香川県観光協会HP「第一回フォトコンテスト」より

 ただ、多くの観光客の方たちは、写真だけを撮って、帰ってしまいます。地域に滞在する場所が少なく、三豊市仁尾ではなく、違う場所へ泊まる人が多いのです。それを受け、東邦レオさんが運営している父母ヶ浜PORTや、三豊の食材を使った料理を提供するトレーラーハウスのお店 hand in hand  、「地産地消氷」をコンセプトにしたかき氷カフェ  KAKIGORI CAFE ひむろ  、地域と観光客の距離を縮め、両者にとって最良の環境を作りたいという想いから作られたコミュニケーションコーヒースタンド 宗一郎珈琲 など、さまざまなお店が立ち並ぶようになりました。
 しかし、父母ヶ浜に訪れた方たちはまだ消費的な関わり方にとどまっています。最初のきっかけづくりとしては、このようなカフェのような場所は適しているかも知れませんが、そこから一歩地域に踏み出したい人が集まれるような場所がまだありませんでした。
 
 浪越さんたちは父母ヶ浜に面した使われなくなった食品工場に注目しました。そこを「道の駅」のような形にしたいと構想しています。一次産業をしている方たちはそこに商品を持ってくるのと同時に、「この時期に人手が欲しい」や、「ここを手伝ってほしい」というカカワリシロを訪れた人に提示します。そうすることでお客さんは商品を買うという選択肢以外にも地域との関わり方を知ることができます。また、工場の広大なスペースを細かく区切り、クラフトビールを売りたい人や、靴職人や、デザイナーなどが集まる、多様なクリエイターたちの工房や、それを売る販売所となるようなシェアアトリエを作ろうと模索しています。

あまりに広いため、少しずつ用途に合わせて拡張していく考え。
いくらでもカカワリシロがありそうだ。

 そんな浪越さんたちが作ろうとしているのは、単なる「道の駅」という言葉では収まりきらないなと感じました。「コミュニティーセンター」や「コワーキングスペース」というものでもない…。ここに来れば、地域の人がどう働き、暮らしているのかが分かり、受け身だった自分がプレイヤーに移るきっかけになる場所。浪越さんは「生き方を売る場所にしたい」と言っていました。消費的な関わり方から、訪れる人に地域での生き方を提示できるような、「関係案内所」を作りたいのではないのかな。と思いました。地域に入り込みたいと思っていても、外から見たらその隙間は見つかりづらいです。けれど、この「関係案内所」に行けば、何かしらのカカワリシロが見つかる。そんな場所があったら素敵です。私はこの場所の実現に、何かしらでも力になりたいと、思うようになりました。

「使えない」と言われたら

 三豊鶴も、廃業したことにより、「酒蔵」としての機能を失いました。使われなくなった食品工場も、「工場」としての機能はありません。ただ、機能が無くなった時、価値が無くなったといえるのでしょうか。浪越さんは、「そのモノ自体には価値がある」と言っていました。機能に目をとらわれず、まっすぐにそのモノを見つめ、新しい解釈をすれば、今までとは異なった価値を創ることはできます。地方でも、都会でも、常に新しいハコを作り続けることは、いたちごっこのようでもあり、持続的とは言えません。浪越さんの言葉は、その「行き詰まり」をどう解消するかの手がかりになるのではないでしょうか。今あるものをどうとらえるか、そして、みんなが見残したものをどう見るかによって、違った活かし方があると気づきました。

食品工場の屋上で語る三豊の方々と、SFC生。

嘘はバレる

 もう少しで帰ることに少しずつ寂しさを感じ始めた9月4日。この日は父母ヶ浜でゴミ拾いをしに行きました。眠い目をこすり、朝6時に、海に行くと、日中に訪れる観光客以上の数の地元の方たちが父母ヶ浜に来ていました。新しく移住してきた方たちは、この活動を通して地元の方と仲良くなることも多いようです。ただ、ゴミ拾いをしながら近くのおじいちゃんと話していると、「企業から送られてきていやいや来ているやつはすぐに分かる」と本音が。ゴミ拾いも形だけで、写真を撮って帰る人も多いことを、そのおじいちゃんは分かっていました。この日も、活動の最後に「○○生命から来ました。今度は家族を連れてこようと思います。」と外部から来た人が話していましたが、ふとそのおじいちゃんをみると目が笑っていなかった。CSR活動を表面的にやるだけでは、むしろイメージが下がることをこの目で見てしまいした。

観光客がくることでの複雑な気持ち


 ゴミ拾いの後、この活動を主催している方のお話を聞くことができました。インスタグラムでブームになったこの地域は、突然観光客が訪れるようになり、父母ヶ浜にはゴミが増え、道路が渋滞するようになってしまいました。この現実に、地域の人は複雑な気持ちだといいます。盛り上がりを見せるのは嬉しいけれど、この海、町のことも理解してほしいといいます。20年以上前、父母ヶ浜を埋め立て工業用地に転用する計画が持ち上がりました。そこを愛していた地域住民は、デモや暴力的な行為で対抗するのではなく、その場所が大切だと示すために、ゴミ拾いをすることを始めました。最初はなんと7人。そこから少しずつ増え、埋め立ての計画は中止になりましたが、ゴミ拾いの活動は続きました。今では100人を超えるようになり、ゴミ袋やトングなどの備品も買えるようになったのです。真っ向から反対するのではなく、ゴミ拾いをして静かに反抗したのは、とても驚きでした。

朝6時にこれだけの地元の人が集まっているからこそ、美しい写真が撮れることを観光客の方に伝えたいと思った。


血に流せ

 私は今回車を借りていなかったので、移動範囲が限定的でした。そんな私を車に乗っけて素晴らしい景色を見せてくれた方がいます。中野耕治さんです。中野さんは、香川エリアで、瀬戸内のファンを増やすためにSUPやガイドといった多岐にわたる活動をされている方です。今回浪越さんの投稿を見て私が三豊に来ていることを知り、ガイドをしてくれることになったのです!しかし、集合時間は夜の8時。真っ暗になってからいったい何をするんだろう…と、少し不安になりました。浪越さんにも、「じゃあ裕紀くんをさらっていきますね~」と言います。軽トラに乗せられ、山道を登っていきます。怖くて隣の中野さんの顔をもう見ることができませんでした。
「ここだよ」と降ろしてもらったところは、香川県のツノにあたる、紫雲出山の展望台でした。そこから瀬戸内海の向こう側の岡山や、愛媛の夜景が一望できます。そしてこの日は台風の影響で、船が風よけに瀬戸内海の島々に集まり、煌々と光っています。「逆張りのガイド」をしているという中野さん。台風が近づいているのならば、いい景色を見せられないと考えてしまいますが、「逆張りの中野さん」は台風だからこそ、時間帯が遅いからこそ、素敵に見える場所を探しているのです。地元の人すらあまり知らないところを紹介してくれて、胸がいっぱいになりました。
 さらわれなくてよかったという安心感と、その景色に感動してしまい、いろいろな感情がふつふつと湧いてきました。どう言葉にしても、それは嘘っぽくなってしまう…。このことを中野さんに話すと、「まずその体験を血に流せ」とおっしゃいました。そのびびっと来た感覚を、ひとまず自分の頭ではなく、血に流すといいとのことです。そうすることで自分の中に取り込まれたその体験は鮮度を保ったまま保持されます。
 帰り道、中野さんは私に浪越さんのもとでの暮らしをどう感じているかを尋ねました。私は「めまぐるしいほどの非日常で楽しいです」と答えました。すると、中野さんは「非日常ではなく、異日常と考えたらどうかな。非日常なら、自分の世界と今を切り離しているよね。そこにも日常があるという感覚があれば、自分にもそのエッセンスは取り入れられるんじゃないかな。」とおっしゃいました。
このほかにも、中野さんに会ってから、自分の香川を見る目がさらに変わりました。中野さんはガイドをするだけのガイドではありません。何かしら自分自身に生まれる感情があると思います。ぜひ香川に来たら会ってみてください。



2週間の旅が終わりに近づき、最後に感じたことを次の記事で書こうを思います!続きます!

【中野耕治さん】
ここから素敵な写真を見ることができます。


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