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【異世界小説】ただの世界の住人④

デスクに座ったまま、ぼーっとなにかを考えようとした。
けれど、全ての思考がストップしたかのように、何も浮かばない。
そりゃそうだ。今何が起こっているのかが全然わからないのだ。

今日の仕事はどうなるんだろうか?

9時の始業のベルが流れた。いつもはうざったく感じていた能天気なこのベルが、今日はなにか心待ちにしていたかのような気分だ。

予想通り、ベルのあとに、アナウンスが流れ出した。

「おはようございます。本日も皆様お仕事ごくろうさまです。社長の泉です。皆様、すでにご承知かと思いますが、本日、世界的発令により、経済社会が劇的に変わりました。その政策の詳細については、ここでは割愛しますが、今後の弊社のあり方のみ、本日は簡単にお話させていただきます。」

初めてきいた社長からの直々のアナウンス。それによれば、今後、給与、報奨などは、何もなく、ただ、今まで通り、製品の生産はできるらしい。なにせ、原材料まで『ただ』らしいのだ。なので、今のまま現状通り働くもあり、辞めるもありとのこと。その際、退職金一切もなしとのこと。

まー使うところがないんだから、それでもいいのか。まったくもって、慣れない感覚だ。

さて、俺はどうするかな?

隣の席では、秋津が荷物を片付け始めていた。

「どうするの?」と聞くと、

「さっき言った通りさ。もうすべてなになくなったのさ。とりあえず、嫁さんと一緒に考えるよ。今朝なんか、家のローンのことで、大喧嘩したばっかりだからさ!しかし、今となっちゃ、その喧嘩も意味ないってことよね、ローンも、もうないんだからさ、、」 

なんだか、うれしいのか寂しいのかなんだかわからない今までに聞いたことのないような声で秋津は言った。

さて、俺はどうするかな?
と、同じフレーズばかりが繰り返す。

さて、俺はどうするかな?

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