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【CLE】ホセ・ラミレス契約延長の背景、経過とその意義

 読者の皆様お疲れ様です。わるものです。

 先日、ホセ・ラミレスとの契約延長が発表されました。今回はその経緯と意義について説明していきたいと思います。


① ホセ・ラミレスという選手

 ラミレスは、2009年にドミニカから国際FAでインディアンスと契約し、13年に20歳という異例の若さでMLBデビューを達成しました。ただ、当時はマイナーであまり長打を打てておらず、身長175センチという小柄な体格も相まって、守備に長けたレギュラー二塁手に成長するとの予測でした。
 しかし、16年シーズンに打撃が覚醒し、618打席でOPS.825、fWAR4.7と大ブレイク。同年オフに、5年(2017-21年)2600万ドルという破格の安さで長期契約を結びました。この契約には、2022年1200万ドル、2023年1400万ドルのこれまた非常に安価な球団オプションが付随しており、実質的には7年5200万ドルの契約だったと言えます。
 今振り返ると信じられない安さですが、当時は一過性のブレイクに終わる可能性も十分あったわけで、長期の契約はラミレスにとっても魅力的だったのでしょう。


② ラミレスのこだわり

 結局ラミレスは一発屋で終わらず、17年以降もチームの中心選手として華々しい活躍を見せてくれました。野球以外の面でも“変わり者の愛されキャラ”としてチームメイトやファンから人気があり、ロッカールームでは他の選手とマリオカート勝負に励んでいるそうです😂
 そんな彼ですが、自信のキャリアについても、他のスター選手にはない独特な考えを持っています。

 ・クリーブランドの一員として引退したい
 ・クリーブランドの永久欠番になりたい
 ・クリーブランドを代表してMLB殿堂入りを果たしたい
 ・ワールドシリーズを制覇したい

 高額契約を求めてFA市場に打って出るのが当たり前の現代MLBにおいて、これほど1つのフランチャイズにこだわる選手は非常に珍しいです。その理由として、ラミレスは「自分がプロ野球選手になる機会をくれた球団への感謝と、キャリアを通して支えてくれたクリーブランドのファンへの感謝」を挙げています。ドラフト前から注目を集めることが多いアメリカ出身のスター選手とは異なり、ドミニカで5万ドルの契約からスタートしたラミレスは球団への思い入れがひときわ強いのかもしれないですね。


③ 球団のチーム編成の方針

アントネッティ球団編成最高責任者

 球団総年俸の上限が5000〜8000万ドルのインディアンスはFA権を取得したスター選手と長期契約を結ぶことがほぼ不可能で、以前よりカルロス・サンタナ(PHIと3年6000万ドルで契約)、トレバー・バウアー(LADと3年1億200万ドル)、フランシスコ・リンドーア(NYMと10年3億4100万ドル)といった主力選手達を手放してきました。
 こうした厳しい台所事情の下でも、16-18年に地区3連覇、19-20年は首位と僅差での2位と大健闘してきたインディアンスですが、20年オフのリンドーア&カルロス・カラスコの放出には耐え切れず、21年は地区首位と13ゲーム差での2位という残念な結果に終わってしまいます。
 これを受けて、各球団やメディアは「ガーディアンズは23年オフにFAとなるラミレス(←長期契約が不可能なスター選手に相当)をトレードで放出し、チームは一旦再建期に入るだろう」と推測し、実際にブルージェイズ等とトレード交渉が行われました。
 ところが、上述した通りラミレス本人に強い残留意志があり、相場よりも安価な長期契約を結べる可能性がまだ残されていました。球団はその僅かなチャンスを掴むために、ラミレスとの本格的な交渉に臨むことになります。


④ 交渉の過程

契約発表の様子

 現地3月10日にロックアウトが明けると、球団と選手との接触が解禁となり、球団とラミレス陣営による契約延長交渉が始まりました。お互いの基本方針を確認した後、球団側は3月最終週の週初めに第1の契約案を提示。しかし、ラミレス陣営はこれを即時棄却しました。
 長期契約終盤の不良債権化を恐れる球団側は4年契約を提示した一方、ラミレス側はクリスチャン・イェリッチ(7年1億8850万ドル)、ポール・ゴールドシュミット(5年1億3000万ドル)等と同規模の6年契約を希望していたようです。交渉はそのまま膠着状態に陥り、ラミレスが野球になかなか集中できない日々が続きました。
 キャンプ最終日の4月5日、ラミレスは朝起きると代理人に電話して球団側の提示に歩み寄るように指示。午後にアリゾナのチェイスフィールドでの試合に出場していたラミレスは5回で交代し、開幕前最後の交渉に臨みました。アントネッティ球団編成最高責任者やリベロ通訳だけでなく、ラミレス本人の希望でクリーブランドにいたポール・ドーランオーナーもビデオ通話で参加し、チャーノフGMとフランコナ監督には随時メールで状況が報告されるという大掛かりな交渉だったそうです。交渉は数時間に及び、チームが空港へと向かうバスの発車は遅延し、同時進行していたマイルズ・ストローとの契約延長交渉は先延ばしにされました。
 4年契約を譲らなかった球団側も、失意の3月(年俸総額の増額を公言していたにも関わらず、FA選手の獲得交渉に全て失敗した)を経て、何とかラミレスと契約を延長し、ガーディアンズとして迎える最初のシーズンに向けて話題作りをする必要に迫られていました。
 最終的に、ラミレス側が金額を、球団側が年数を譲歩し、球団史上最大規模となる7年1億4100万ドルの契約が成立したのです。


⑤ 契約の詳細

 今回の契約のポイントは大きく分けて2つあります。
 まず1つ目は、全球団に対するトレード拒否条項が付いていることです。これにより、球団はラミレスをトレードに出せず、ラミレスは今後7年間クリーブランドの選手で在り続けることができます。
 2つ目は、今年の年俸を高めに設定していることです。

2022年 2200万ドル
2023年 1400万ドル
2024年 1700万ドル
2025年 1900万ドル
2026年 2100万ドル
2027年 2300万ドル
2028年 2500万ドル

 上述した通り、FA戦線で敗北を繰り返し、全く補強できなかった今年のガーディアンズは予算に余裕があります。一方、トッププロスペクト達が次々と昇格を果たす来年、再来年は、ワールドシリーズ制覇に向けて積極的な補強を行う予算が欲しいところです。球団のこうした台所事情が今回の契約内容にハッキリ表れていると言えるでしょう。


⑥ 契約の持つ意義

未来を担う若手達

 今回の契約延長は「主力と安価で契約延長ができて嬉しい」というだけの話ではありません。
 球団のオーナーであるドーラン一家は、46億ドルもの純資産額(MLB30球団中6位)を誇る大富豪ながらも、2000年の球団買収以降緊縮財政を徹底し、球団編成部にはMLB最低クラスの予算しか与えられてきませんでした。特に近年はその傾向が顕著で、昨年の年俸総額は5067万ドルと30球団中29位の少なさでした。お金のかからないトレード補強すらマトモに行っておらず、このままチームを根こそぎ解体し、オリオールズのような終わりの見えない再建期に突入するのではないかという不安がファンの間で広がっていました。
 しかし、今回のラミレスとの契約、そして同時期に発表されたマイルズ・ストロー(5年2500万ドル)、エマニュエル・クラッセ(5年2000万ドル)との契約延長によってそういった不安は払拭されました。ラミレスとのトレード拒否条項付き大規模契約を抱えた球団に、もはや解体という選択肢は存在しません。ブライアン・ルキオ、ジョージ・バレラといったトッププロスペクト達が昇格してくる来年、再来年に合わせて、球団が勝負に打って出ることは間違い無いでしょう。今季も既にオーウェン・ミラー、トレバー・ステファンといった新戦力が台頭しており、チームの未来は明るいです。Go Guardians‼️‼️


今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。

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