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トレバー・ステファンって誰?

 読者の皆様、お疲れ様です。わるものです。

 後半戦に入って好調をキープし、地区優勝に向けて爆進中のガーディアンズですが、その強さの秘訣の1つは強力なリリーフ陣です。前回の投稿ではリリーフ陣を平均やや上と評しましたが、ジェームス・カリンチャックの復帰、ニック・サンドリンの復調、サム・ヘンジスの成長等により、今ではリーグ屈指のリリーフ陣であると断言できます。

クラッセ(9回)、ステファン(8回)、カリンチャック(7回)

 1人1人の成長について熱く語りたいところですが、今回の記事は、今季突如クリーブランドに降臨した8回の男、トレバー・ステファンに焦点を当てます。チーム内でエマニュエル・クラッセに次ぐ実力者は如何にして誕生したのでしょうか。

 参考記事👇


① ヤンキース時代

ヤンキース時代のステファン

 ステファンはテキサス生まれの26歳で、アーカンソー大学時代に先発転向を果たして大いに成功を収め、17年ドラフト3巡目指名でヤンキースに入団した選手です。
 大学時代は90-95マイルを記録する速球のコーナーへの投げ分けが魅力の投手でしたが、入団後も速球を武器に同様の活躍を続け、18年5月にあっという間に2Aに到達しました。しかし、2Aになると制球が悪化して自慢の速球が通用しなくなり、変化球の再現性が低かったことも相まって、成績が伸び悩むようになります。
 結局そのまま19年シーズンも2Aの壁を打ち破れず、20年オフ(20年シーズンはコロナで中止)にルール5ドラフトでガーディアンズに指名されて移籍しました。


② ガーディアンズ時代

21年4月3日のDET戦でMLBデビュー

 移籍したステファンはまずリリーフ転向を命じられました。すると、最速で97マイルだった速球が、平均で96.5マイル/最速で100マイルを記録し始め、再び速球を投球の軸に据えられるようになります。そのままキャンプで安定感のある登板を続けて開幕ロースターを入りを果たし、念願のMLBデビューを果たすことができました。
 しかし、デビュー後は自慢の速球をボコボコにされる光景が目立ち、結局はシーズン通してビハインド要員として働くことになります。MLB1年目の成績は63.1回で防御率4.41。奪三振率は10.66と高かったものの、HR/9が2.13で、被弾/被長打シーンが目立ちました。ルール5ドラフトの規定を満たすために1年間40人枠に留まり続けましたが、次のシーズンでも同じような成績であればDFAも十分あり得る立場だったと言えます。

昨年の残念な投球データ


 ところが、いざ今シーズンが開幕してみると、新球種のスプリットを武器に圧巻の投球を継続。9月17日時点で58イニングを投げて防御率2.64/奪三振74と非常に優秀な成績で、クラッセの前の8回を任されるようになっています。一時的にスプリットの制球が破綻し、防御率9点台と苦しんだ5月後半を含めてこの数字ですから、6月以降は打者を全く寄せ付けていないことがよくわかります。

今年の優秀な投球データ

 では実際にどのような球を投げているのか、彼の投球スタイルを詳しく見ていきましょう。


③ 4シーム

回転方向は1時→7時

 ステファンの4シームは平均96.6マイルと球速は高めですが、100マイルリリーフがゴロゴロいるMLBレベルでは圧倒的な武器にはならず、昨年の被打率.274/被長打率.493、今年に至っては.345/.476(xBA/xSLGは.239/.350なので運の影響もかなり大きい)と打たれまくっています。 原因はおそらくスリークォーター気味のアームアングルで、回転数は毎分2400回転を超えているものの、スピン効率が88%でスピンが上手くボールに伝わっていません。
 シュート成分が強いので、対左打者のアウトコースへの投球は決め球としてかなり有効であり、空振りを奪うシーンが目立ちます。昨年に比べると、平均して約6センチシュート成分が強くなっていますが、特徴を活かすために意図的に改造したのかもしれません。

↓対左外角4シーム

対左4シーム、アウトハイに集める

 一方、右打者に対してはバックドアから入れて見逃しを奪う&インコースに食い込ませて詰まらせる投球スタイルが有効と思われます。しかし、実際は真ん中高めの甘いコースに投球が集中しており(図A)、しっかり打ち込まれてしまっています(図B)。

図A:対右4シームのヒートマップ
図B:真ん中高めはボコボコに打たれている

 スプリットの項で詳述しますが、この真ん中高めの4シームは失投ではなく、スプリットと軌道を重ねる為に意図的に投じていると考えられます。致命的な被弾を繰り返すようなことでもない限りは、しばらくこの投球スタイルを継続するのではないでしょうか。


④ スライダー

 移籍前からステファンが投げていた変化球がスライダーです(カーブの習得は断念したらしい)。MLB平均より水平方向に約9センチ大きく曲がり、昨年の時点でも打者に大してかなり有効でした。
 今季は鉛直/水平方向の変化量を数センチずつ落とし、代わりに球速を5キロほど上昇(83.8マイル→86.0マイル)させています。意図は勝手に推測するしかありませんが、後述するスプリット(平均87.9マイル)に球速帯を近づけ、判別が難しいように調整したのではないでしょうか。この結果、被打率は多少悪化したものの(.188→.218)、被長打率が大幅に減少しました(.463→.291、xSLGも.374→.292)。僅差で登板するセットアッパーにとって長打は致命傷になりやすいですから、非常に有益な改善と言えるでしょう。

右打者のアウトローに集める

 投球コースは基本通りで、右打者のアウトローに対して狙って投げ、左打者に対しては殆どスライダーを使いません。

↓対右スライダー


⑤スプリット

 ステファンが移籍後から投げ始めた球種がスプリットです。昨年はビハインド要員で登板機会が少なく、暇を持て余していることが多かったので、ベテラン投手のブレイク・パーカーに握りを教わって練習していたそうです。昨季夏頃から徐々に実戦で使い始め、十分通用すると判明した今季からはスプリットの投球割合を激増させています。

昨季投球割合(4シーム/スライダー/スプリット)
vs右→55%/43%/2%
vs左→65%/18%/17%
今季投球割合
vs右→44%/36%/20%
vs左→54%/9%/37%

 スプリットの変化量自体はMLB平均と大差がありません。しかし、上述した通り、高めのフォーシームと重なる軌道から、急速にブレーキがかかるスプリットを大きく落とすことで、左だけでなく右にも効果的な球種になっています。右打者にとっては内に入ってくる対応しやすい変化なので、かなり制球に気をつかっている様子がうかがえます(下図)。

左が対左、右が対右

 90マイルに迫る球速と絶妙な制球を兼ね備えたスプリットの威力は凶悪で、被打率.150/被長打率.213(xBA.127/xSLG.193)/空振り率52.9%と打者を全く寄せ付けていません。捕手のルーク・メイリー曰く「彼のスプリットはボールが意志を持って動いているようだ。もしスプリットが上手く落ちなくても良いチェンジアップとして通用する」とのことで、打者にとってはお手上げ状態でしょう。

↓対左

↓対右



⑥ まとめ

クワンに合う絵文字をわざわざ立ち止まってじっくり探すステファン

 いかがだったでしょうか。リリーフ投手の評価にWARを用いる意味は個人的にあまり感じませんが、現在ステファンのfWARは1.6でMLB全体で10位に入っています。昨年はクビ寸前だった投手が、新たに1球種身に付けるだけでここまで活躍するというのが野球の面白いところであり、怖いところでもあると言えるでしょう。

 さて、いよいよシーズンは最終盤。ガーディアンズは3年ぶりの地区首位奪還に向け、ホワイトソックスとの負けられない闘いが続きます。他地区のファンの皆さんも、暇が有れば是非ご覧ください‼️‼️‼️

Go‼️🔥‼️ Guardians‼️💪🔥‼️🔥

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