見出し画像

ある日のインドカレー屋さん

疲れた

ソファーにうずくまること約1時間。そろそろ腹も減ってきたし動かなければならない。

疲れたア

さいきんは朝からランニングをする習慣を身に付けている(あるいは身に付けようと試みている)。走り終えてシャワーを浴びる時間は気分爽快なものの昼頃になるとドッと疲れが押し寄せてくる。

冷蔵庫になにかあったっけと見てみるが心惹かれるものはない。戸棚には未開封のパスタが2袋あって「もう歳なのか?!」と閉口する。


そうだ、インドカレー屋さんに行こう


インドカレー!なんて素敵な響き!脂質制限と糖質制限をしていることなんてすっかり忘れて頭はインドカレー一色となった。


外に出てみるとやけに人が多いのでふしぎに思ってカレンダーを見ると今日は祝日だった。平日も祝日も関係ない生活を続けているのでこういうことがしばしば多々頻繁に起こる。

インドカレー屋さんも祝日とあってわりあい混みあっていた。なので、店前のメニュー表を見るふり(ホントは見なくてもメニューは頭の中にある)してると「いらっしゃい!!一名ね?」と店の入口で門番みたいにたっていた店員さんに声をかけられて導かれるがままに店内へ。この力強さに救われる時もある。

1人でインドカレー屋さんに行くときには「1人なのに席独占してスミマセン」という気持ちから比較的肩を小さくしている。すると店員さんから「席うつってもらってもイイ?」と言われてまたそそくさと移動してより肩を狭くしてオーダーの準備をしていた。

席まで来てくれたのは明らかに入りたてのバイトの子でガチガチに緊張していた。あまりにガチガチだったのでこっちはむしろリラックスできてしまうほどにガチガチだった。携帯でクーポンの画面を見せながら「このハニーチーズナンに変更を使いたいんですけど、できますか?」ときくと「ハイデキマス」と言われたので頭の中はチーズナン一色になった。

チーズナン!ハニーチーズナン!なんて素敵な響き!糖質制限と脂質制限のオバケいるとしたら怒り心頭に発してボニファティウス8世のように憤死してしまうだろう。しかし、そんなことはどうでもいい。いまはハニーチーズナンをカレーに浸して食べる、それが重要なのだ。


「お兄さん、カレーね」と言われてプレートを手渡された。席が込み合った結果こっちの席まで来られなかったためだ。底を持とうとしたらめちゃくちゃ熱くて断念した(「熱いよ」と言われた。遅いよ)。端の方をもってようやくご対面。

ふつうのナンだった。ふつうのナンジャん!

店員さんを呼んで「このクーポンを見せたんですけどね……」というとその店員さんがもう1人の店員さんに行ってその店員さんが厨房に言って……となり、「そのナンも食べてね。チーズナンいま作るよ」と言われてはーいと返事した。

チーズナンが来るのか……このあとに……

みなさんご存知のようにインドカレー屋さんのナンはプレートからはみ出てるほど大きい。たぶんお茶碗3杯分ぐらいはある(気がする)。これにプラス来るのか……その瞬間、食事のモードから一気に戦いのモードに切り替わった。気を抜いたら食えなくなる。しかし残すのは自分の美学に反する。何もしても、食べ切る。絶対に。


それからはひたすらカレーをすくってナンを口に放り込むマシーンと化した。美味しい。美味しい。セットドリンクをアイスコーヒーにしてよかった。ラッシーにしていたら口の中があっぷあっぷして断念していたかもしれない。アイスコーヒーのおかげで口の中がリセットされ、マシーンとしての働きを助けてくれた。

ナンを八割やっつけたところで「チーズナンね」と運ばれてきた。食べる。チーズナン!美味しい!なんて甘美!正比例する満腹度!刺激されまくる満腹中枢!自分がどんな顔をしていたのかは分からないけれどあまりいい顔はしていなかっただろう。

すると厨房の方の気配に気づいた。厨房はガラス張りになっていて、ナンを焼いている店員さんの姿がこちらから見られるようになっている。ナンを焼いていた店員さんがこちらを見ながら手を👌にして首を傾げている。👌と返すと心底安心したような、純粋すぎる笑顔を見せてくれた。

その瞬間わたしはマシーンから人間に戻った。なんていい笑顔なのだろう!ありがとう。ナンを焼いてくれてありがとう。人間に戻してくれてありがとう。この世の全て感謝を!


満腹のお腹をさすりながらお店を出た。空には爛々と太陽が輝いていた。お昼を食べているうちに雲が裂けたのかもと思ったが、よく考えたら元からそうだったかもしれない。

「ギリシア語やラテン語を広める」というコンセプトのもと活動しております。活動の継続のため、サポート、切にお待ちしております🙇。