オペラの夜(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第8話)
【プロローグ】
JR新宿駅のガード下から歩いて20分ほどのあたり、北新宿と呼ばれる一角に細長い雑居ビルがある。最上階の10階でエレベーターを降りると、オフィスらしきものは一つもなくて、正面奥に鉄色の扉が一つ重々しく控えている。扉の前まで来ると、顔認証システムが作動して、開けるべき者には扉を開けてくれる。中に入ると、そこは一面薄茶色の木目地の壁で、右寄りに重々しい木のドアがある。200年くらい前の、ヨーロッパの立派な屋敷のドアを思わせるつくりで、これを開けるためには所定の鍵