吉川祥治

定年退職して3年目、好きな文章書きを続けています。趣味はクラシック音楽・鉄道です。LG…

吉川祥治

定年退職して3年目、好きな文章書きを続けています。趣味はクラシック音楽・鉄道です。LGBTのGでもあります。

最近の記事

祥治のつぶやき②~替え歌カラオケ(原曲をあててください)

 押されて乗り込む満員電車  扉の窓にへばりつく  震えるスマホ取り出せば  父さん母さん呼んでいる  息で曇ったガラスに書いた  小さく細くふるさと  隣に立ってる黄色いシャツ  体育系男子広い肩  息で曇ったガラスを見つめ  デッカく書いたふるさとと  押されたけれどしっかり守った  二つ並んだふるさと  夢なら今はこの胸の中、そっと閉じこめたまま  途中の駅で開く扉  二人並んではじき出され  よろけるからだ支える腕  扉は閉まる通勤電車  二人きりのホームで訊い

    • オペラの夜(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第8話)

      【プロローグ】  JR新宿駅のガード下から歩いて20分ほどのあたり、北新宿と呼ばれる一角に細長い雑居ビルがある。最上階の10階でエレベーターを降りると、オフィスらしきものは一つもなくて、正面奥に鉄色の扉が一つ重々しく控えている。扉の前まで来ると、顔認証システムが作動して、開けるべき者には扉を開けてくれる。中に入ると、そこは一面薄茶色の木目地の壁で、右寄りに重々しい木のドアがある。200年くらい前の、ヨーロッパの立派な屋敷のドアを思わせるつくりで、これを開けるためには所定の鍵

      • アイツはヴァイオリン(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第7話)

         月曜日の昼時のカフェは満席に近かった。それでも、運のいいことに、窓際のテーブルから客が立つところだった。俺たちは、天井まで届く大きな一枚ガラスのすぐ向こう側に、手入れの行き届いた花壇を眺めることができる席に座ることができた。色とりどりの躑躅が、まもなく蕾を開き始めるだろう。  1時半を過ぎると、オフィス街から昼食を取りに来ていた客はきれいにいなくなって、俺たちの席のまわりも、空席が目立つようになっていた。  早起きして朝食をしっかり食べていた俺は、あっさりしたペペロンチーノ

        • 三組の指輪(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第6話)

          Part 1 仮面のロマンス  夕暮れ時の海岸沿いに緩いカーブを描いて伸びる国道に、車は少なかった。秋の彼岸が過ぎてめっきりと日が短くなっている。地元の利用者にしかわからない細い上り坂の道に右折するころにはあたりは真っ暗になっていた。坂を上りきったところに隠れ家のように一軒の喫茶店があった。駐車場にはクルマが一台も停まっていない。店は、がら空きにちがいなかった。平日の6時過ぎはいつもこうなのだ。  松下隆一は機嫌がよかった。大口とはいえないが、堅実な運営で知られる二つの企業

        祥治のつぶやき②~替え歌カラオケ(原曲をあててください)

        • オペラの夜(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第8話)

        • アイツはヴァイオリン(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第7話)

        • 三組の指輪(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第6話)

          横顔(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第5話」)

          第1章  アンコールは『スプリングソナタ』の終楽章だった。日曜日のマチネーだから、終演は4時。能利鉄男は、途中、私鉄のターミナル駅にあるデパートで早めの夕食を摂って、家に帰った。家とは、東京西郊のワンルームマンションで、そこで一人暮らしをしていた。  この週末、彼は二つのクラシック音楽の公演にたて続けにでかけた。その一つが今日のマチネーで、新進気鋭の女性ヴァイオリニストのリサイタル。昨日土曜日の夜の公演は、日本のチェロ第一人者によるものであった。いづれもピアノとの二重奏であ

          横顔(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第5話」)

          献呈(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第4話」)

          第一部 ある男の交響曲  第1楽章  高校1年生の少年は、色白の頬を少し赤らめていた。授業中なのに。  国語の時間だった。    髪五尺ときなば水にやはらかき少女ごころは秘めて放たじ  長い黒髪を洗う女の姿が目に浮かんだ。少年は、それを恥じたのではなかった。髪を水に解き放つときの、その乙女の肩から胸にかけての柔らかな肌が、あらわになっている情景を想像して、そういう想像をした自分を恥じたのである。  女の人って、こういうもんなのか?  終業のチャイムが鳴った。自宅の、

          献呈(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第4話」)

          私はピアノ(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第3話)

           砂井田杏奈は、客席で公演の開始を待っていた。  ここは、オーケストラ用の大ホールではなく、室内楽や歌曲の演奏会をメインとする、やや小ぶりなホールである。だから、座席数はそんなに多くない。それでも、室内楽の公演では空席が目立つことが多かった。しかし、今日は違っていた。著名な音楽評論家の何人かが来場していたし、チケットは完売で満席であった。話題と注目を集めていた演奏会だったのだ。  プログラムは、すべて、女性作曲家として近年注目を集めているハンナ=シュナイダー(1775~18

          私はピアノ(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第3話)

          ひとつ違いの情景(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第2話)

          第一景  兄は詩集を読みながら、口ずさんでいた。隣でスマホを弄っていた妹が訊いた。  「それ、何て曲?」  スマホから顔を上げずに、声だけで尋ねようとする。兄は、こういう対応が大嫌い。だから無視した。  「ねぇ、何て曲?」  兄は、妹の態度が気に入らなかったのであって、一つ違いのこの妹が嫌いなのではない。ウチのクラスでウチの妹ほどかわいい女子はひとりもいない、と内心思っている。教えてやろうじゃないか、曲名を。  しかし、兄としての意地がある。向こうは顔を上げようとしないのだ

          ひとつ違いの情景(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第2話)

          バロックの四季(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第1話)

          【前奏曲】  土曜日の夜の新宿二丁目で、吉川祥治は浜名紘一と出会った。  元号が昭和から平成に変わるまで、まだ数年あった頃の話である。祥治は大学を卒業して東京都の公務員になったばかりであった。  スマホはおろか、パソコンもガラケーも、いやポケベルでさえ無かった時代である。今とはくらべものにならないほど、マイノリティーとしての抑圧に縛られていた同性愛者の男たちは、出会いを求めて、二丁目のゲイバーやスナックに集った。祥治も、その一人だった。  ゲイバーというと、必ず女装したママと

          バロックの四季(連作ゲイ小説「クラシックなオトコたち」第1話)

          祥治のつぶやき① ~自分自身のためにモノガタリを綴るということ

           みなさん、こんにちは。吉川祥治です。昭和の半ばに生まれ、3年ほど前に現役を退いて、隠居生活をしています。趣味はクラシック音楽と鉄道。ゲイなので未婚ですが、ありがたいことにパートナーはいます。  自由な時間を手に入れたのをきっかけに、好きな文章書きを楽しむようになりました。もちろん、乗り鉄のほうも思う存分楽しんでいます。  今回、これまでに書き溜めたもののなかから、クラシック音楽好きのゲイを主人公にした『クラシックなオトコたち』8編を、まとめて投稿させていただきました。第9話

          祥治のつぶやき① ~自分自身のためにモノガタリを綴るということ