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井光川と岩戸の瀧

【記録◆2023年11月13日】①

 農繁期の晴れた日も、雨が続いた後は畑の水が引くまで作業を控えます。
 そういう日に瀧へ行こうと待っていたけれど、台風も来ない10月でした。

 10日前の日記には、「室温28.6度。冷房を入れた」と記しています。
 11月に半袖で働いたのは初めて。

「身体と頭が動く間に」と、今夏に始めた身辺整理がいつまでも続けられ、
「不用な物を遺さない」という目的がいつしか変容して、「不自由な身でも最期まで自分のことと家のことができるように」となっています。

 進行性の身体障害を補う装具も補助具も、杖や車椅子の他は、おおかたが「有る物」を組み合わせて作ったもの。頭のてっぺんから足まで着けると、身体の各部分がしっかり繋がって、総合力で「望む動き」ができるのです。

 友人たちは、「連絡なしに来ないで」というお願いを聞いてくれますし、生活に必要な物を届けてもらう日時は決まっているから、ひとを驚かす姿で玄関に出ていくことはありません。
 両脚に巻きつけている8メートル分のゴムチューブを外す間は無くても、
「COGY(足こぎ車いす)」に占められた玄関が訳を語ってくれます。

 ひとの居ない瀧では、心が身体を引き回すので、「いま、どういう動きをしているか」と意識したときには笑いそうになります。
 地球人を見たことがない存在には、「四肢の先を全て地面に着けて闇雲に進んでいく生物」と定義されるでしょう(腕の延長は二本の杖ですが)。
 規則正しく動けなくてもいいのです、行きたい所へ進めたら。

 でも、瀧の水音が近づくのを感じつつ、「進行性の障害というのは身体をここまで変えてしまうものなのか」と、他人事のように考えます。
 小学生の頃には、「走るのがいちばん速い人」と言われ、勤めた先では、「歩くのがいちばん速い人」と言われ、農村では、「ひとが車で行く所には自転車で行き、ひとが自転車で行く所には歩いて行く人」と言われたのに。

 淡々と考えていられるのは、やはり、行きたい所へ進めるからです。
 走れなくても、歩けなくても、「先へ行く心に応じられる力」があれば、それだけで充分。
 先天性の障害があると知らないまま健常者の生活をしていた20年前より、
「実際の障害(身体障害だけが障害ではありません)」は逆行しています。

 昨秋は、「標高1000メートル」では、11月2日が見事な紅葉でした。
 これまでと気候の異なる今秋は見当がつかないので、「麓から楽に高度を選んでいける所」へ向かいました。冬季には車の通行が禁止になる道です。

 天気予報は、奈良北部が雨のち晴れ、奈良南部がその逆。昼ごろに雷雨、という予報もあるため、時間を決めるのも針の穴に糸を通すような気分。

 井光川(いかりがわ)に沿って上っていき、雨が止んでいたら車を置いて『御船の瀧』まで歩く、と決めました。
 近くまで行くと、紗の幕のように薄くなった雨雲が、決して直視できない太陽を見上げさせてくれます。でも、雨は小雨のまま止みません。

『御船の瀧』より近い『岩戸の瀧』は、井光川に沿った道から見えますし、その観瀑台には屋根もあると憶えていたので、引き返す所は決まりました。

 井光川下流では、紅葉は始まったばかり。
 進むにつれ、彩りが増えていきます。

 車から降りて、観瀑台の屋根の下で『岩戸の瀧』と再会した瞬間、
「こんなに大きい瀧だったかしら?」と驚きました。
 前回には、「樹陰の小さな瀧」という形で目に入ってきたため。

岩戸の瀧

 前回の記事を以下に載せておきます。

『真夏には樹陰となる場所も、秋に葉が落ちれば、陽が当たるのでしょう』と予想していましたが、「繁る葉に囲まれた小さな空間」が消えると、目が迷いなく「見たい所」に焦点を結べるのです。

岩戸の瀧(晩秋)

 前回に無かった流木が二段目の落ち口に突き刺さっていてさえ、前回には見えなかった滝壺が少し視界に入るのでした。

二段目の落ち口
一段目の落ち口

 車に戻ると、紅葉と対になる高度を求めて、さらに上流へ進みました。
「地図に無くても道は続いている」と知っています。

 道路わきに11月の雪が残っていました。
 奈良の平地では、山沿いでなければ初雪が1月なのに。

 さらに進むと、雨が雪に変わりました。
 早めに引き返そうとしても車の向きが変えられないから、『御船の瀧』の駐車場所で折り返すと決めたのでした。
 帰宅後に調べてみると、瀧の辺りが海抜900メートルほど。

海抜830メートルほどの地点?

 坂道を下っていくと、降る雪は雨に変わりました。
 林道が高い位置にあるため、川面が見える場所は限られています。

 呼ばれた気がして車を降り、井光川を見下ろすと瀧がありました。

名前のない瀧Ⅰ

 山の斜面を流れ落ちてくる水は、林道からも見えます。

名前のない瀧Ⅱ
小瀧Ⅰ
小瀧Ⅱ
連なる小瀧
対岸の大きな樹
とつぜん現れた瀧

 とつぜん現れたのは、『岩戸の瀧』の一段目でした。
 井光川を目に入れつつ坂を下ってくるまで、車に乗ったままでも見られる場所があると知らなかったのです。
 ここだと、滝壺が現れ、二段目が岩に隠されます。

下っていく先(空)
下っていく先(川)
上流を振り返って
出口に近い所


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