マガジンのカバー画像

谷崎潤一郎論

2
2015年、谷崎潤一郎没後50年のメモリアルイヤーに合わせ、論文風のものを2本書きました。
運営しているクリエイター

記事一覧

谷崎潤一郎の言葉と眼差し その1:何も捉える気がないのに凝視――「鮫人」

2015年5月  今年没後50年、来年には生誕130年を迎える作家・谷崎潤一郎(1886~1965)。この4月には戦災で焼失したと思われていた創作ノートが発見され、神奈川近代文学館では新資料を中心とした特別展を開催、中央公論社による新たな決定版全集の刊行もはじまっており、各所で谷崎メモリアルイヤーが盛り上がっています。これにちなんで谷崎文学について2回にわたって小論を展開してみますので、ご興味がおありの方はぜひお読みください。 ■ テーマからの逸脱と変形  明治・大正・

谷崎潤一郎の言葉と眼差し その2:実際の姿かたちは割とどうでもいい――「陰翳礼賛」

2015年5月 ■ 陰翳 = オブジェ  谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」(昭8・12、9・1「経済往来」)は同時代評や先行研究において、多くの場合、現代では失われてしまった「陰翳」をあらためて日本独自の伝統美として掲揚した作品、あるいは谷崎自身のかつての「西洋礼賛」の反動として読まれている。※1 確かに谷崎は「陰翳礼讃」において、至上の位置に据えられた「陰翳」美を大前提とし、その実例と感想とを列挙するという趣向を採用している。が、今日のところはいったん、伝統美としての「陰翳」と