岡田将生研究③「告白」と「悪人」で残した爪痕

 2010年に公開された2つの映画「告白」と「悪人」。岡田将生の出演作について語られるとき、必ずと言っていい程引き合いに出される初期の代表作である。この2作品で岡田の残した爪痕は大きいが、岡田の非凡さを象徴する意味で忘れてはならない事が2つある。出演時間の短さと年齢。「悪人」での岡田の出演時間はわずか12分前後、「告白」に至っては10分に満たない。そして撮影当時弱冠20歳。

 出演時間が短いにも関わらず、観るものを引き付け10年以上語り継がれる名演として、人々の心に残り続ける不快さはいったいどこから来るのだろうか?「告白」での軽薄な空気の読めない熱血教師と「悪人」の上辺だけカッコつけの非道な大学生に共通するのは、リアリティ。どちらの役もこういう人実在するんじゃないか?もしくは、岡田自身が本当にこういう人間なのではないだろうか?と思わせる程リアリスティックだ。(この2役に限らず、「ゆとりですがなにか」の坂間や「掟上今日子の備忘録」の厄介など真逆の役でもそう思わせる事を付け加えておく。)

 「悪人」の増尾のファーストショットはラーメンを食べる背中。落ち着きのない背中が、ラーメンをすする表情やせわしなく動く手が、増尾の短気で意地悪そうな性格をよく表している。それでいて落ちかけた箸をきちんと揃えるなど所作が決して汚くないので、金持ちの息子らしい育ちの良さをもうかがわせる。一方「告白」の良輝は、熱血教師らしくいつも真っすぐ前を向いて立ち、自信たっぷりに顔を上げて話す。熱意はあるが生徒個人を見る誠実さはなく、自分の信じた方向だけ見る人なんだと体現する。リアリスティックな演技は自然にやろうと思ってできるものではないが、それと気づかせることなくやってのけるところが、俳優岡田将生の凄さである。

 「悪人」では、車中の苛立ち、薄ら笑いを浮かべながら佳乃を車外へ蹴り出す場面、逮捕のとき「お母さ~ん」と叫ぶみっともなさ、父親との対峙、友人とのバカ騒ぎ。あらゆるシーンで強烈なインパクトを残す。わずが12分程度の出演時間で、増尾という人間の非情さ、暴力性、臆病、卑怯、傲慢を表現し、それら全てが気の小さな人間が財力と恵まれた容姿に奢った結果と視聴者にわからせるのだから見事というよりほかない。それもたった20歳の若さで。

 若手俳優として人気絶頂の中、今までのファンを振り落とす覚悟をもって挑んだこの2作。20歳のその気概と勇気にも拍手を送りたい。その挑戦は確かな形で実を結び、現在までの活躍に着実につながっている。それも実力あってこそだが、たゆまぬ努力にも敬服する。

 岡田のいわゆる「嫌な奴」路線は、意外なことにこの後しばらくなりを潜め、コメディ路線へと舵をきり、再び2016年「何者」あたりから急激に息を吹き返す。「名刺ゲーム」「伊藤くんA to E」「星の子」「ドライブ・マイ・カー」「CUBE」など枚挙にいとまがない。「悪人」「告白」の頃にはまだ粗削りだった台詞回しがより洗練され、ニヒルな笑い顔も健在。だが、一つとして似たような役はなく、どの役も違った輝きを放っている。それぞれについては、またいずれじっくり掘り下げたい。

 

 

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