Claire

喋るのが苦手

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『恋愛といふもの』岡本かの子

ふと恋愛小説を読みたくなって、青空文庫で恋愛関連のものを調べて読んでみた。 そうしたら、小説でもなければ、恋愛の悲しい部分を切り取った話であって驚いた、という大したことのない感想であるのだが。 徴兵制で男女が一定期間離れることとなり、再開を果たすときのお互いの気持ちはどんなものか、というものであるが、一般に想像されるものは「涙の再開」ともいわんばかりの美しいもの。 それが、この文章によれば違うのである。 女は男のことを長年思い続けてきた。その思いの延長線上、当然男に合

    • アングスト/不安

      最近、近くの小さな劇場でこの映画を観た。 この映画は37年前に公開されたものの、その残虐ぶりに多くの人の心を悪い意味で揺さぶり、日本に到達するまでにかなりの時間を要した。今は令和2年。そういえば平成の間は日本に来ることはなかったのか。 この物語は、主人公に共感させるような形で描かれる。 セリフのほとんどない映像と、彼という人間が出来上がるまでの経緯を淡々と語り続けるナレーション。 無機質な男性の声と、彼の壮絶な人生の噛み合わせが悪く、なんとも見づらい映画だったな、とい

      • 『チャンス』太宰治

        『人生はチャンスだ。結婚もチャンスだ。恋愛もチャンスだ。と、したり顔して教える苦労人が多いけれども、私は、そうでないと思う。私は別段、れいの唯物論的弁証法に媚びるわけではないが、少くとも恋愛は、チャンスでないと思う。私はそれを、意志だと思う。』 太宰は遊び人のようなイメージを持たれると思うが、この『チャンス』を読む限り、どんなことがあっても理性を失わず、自分の意志を最優先にして生きる人間のような印象を受けた。 太宰によれば、チャンスをつかんだ人だけが幸せを手にするというの

        • 「『女らしさ』とは何か」与謝野晶子

          1921年2月に発行された『婦人倶楽部』に掲載された、彼女の主張。 今でこそ「中性的であること」「同性どうしの関係性」に対して寛容になってきたものの、未だに「女らしさ」についての概念は消えることはなく、これから先も、女性と男性を”区別”するカテゴリーがあれば残り続けるものだろう。 それでいてこれは20世紀前半に述べられているのだから、彼女は相当強く勇気のある女性であることがわかる。 母親の世代でさえ、「化粧をすることは社会人としての最低限のマナー」などと言い、ファンデー

        『恋愛といふもの』岡本かの子

          『秘密』谷崎潤一郎

          誰もが持ったことのあるであろう「秘密」 形容しがたい高揚感と、バレてしまうのではないかという緊張感。 何をしようとしてもやる気が出ないことがある。視界に入るものすべてが無気力に見えたりもする。そんなときに見える華やかな色のもの、華やかな音は、憧れを感じると同時になんだか鬱陶しいと感じることもあるだろう。 新しいものを見つけたとき、しかもそれを見つけたときが自分一人で、周りの人は気にも留めていなかったとき、自分は世紀の大発見をしたのではないかと高揚する。 身なりに工夫を

          『秘密』谷崎潤一郎

          『猫町』萩原朔太郎

          『そしてただこの変化が、すべての町を珍しく新しい物に見せたのだった。』 萩原朔太郎の作品を読むのは初めてだ。散文詩風な小説、と題されているように、心の中にある風景を独特な視点と言葉遣いで書き表しているため、読み始めたときはどうにも風景が見えず、何を言いたいのだろうと頭を抱えた。 ・・・・・・・・・・・ 『蠅を叩たたきつぶしたところで、蠅の「物そのもの」は死にはしない。単に蠅の現象をつぶしたばかりだ。――ショウペンハウエル』 一番最初に、このような言葉を書いてこの物語は

          『猫町』萩原朔太郎