「新しい」とは自由の獲得ではなく、世の中から真っ先に排斥される要因である。


 初めまして。
 私は国際ファッション専門職大学 名古屋キャンパス4年の R と申します。
 4年生ということで、私は本学の記念すべき第一期生にあたります。

 私が本学に入学して以降、世の中に「専門職大学」が設立され始め、徐々にその名を広めつつあります。
 ですが、大学受験を控える高校生、そしてその保護者や教職員の皆さん、教育に関心がある方、企業の新卒担当・人事の方々は、本学のことをどう思っておられるのでしょうか。
 正直申し上げて、怪しい、よくわからないと感じる方もいらっしゃるでしょう。それもそのはず、本学は東京・大阪・名古屋キャンパスを合わせても、世にいう一般大学の学部生数に及ばない、徹底した少人数教育を実践しているからです。加えて、4年生である私たちが一期生であり、まだ本学の学生は社会人としての功績を残していません。

 私たち「国際ファッション専門職大学 第一期生」は「日本初の専門職大学の一期生」でもあります。
 私たちが何を思い、決意して、他のどこでもない、、、、、、、、本学での学びを選択したのか。
 そして私たちは、新設大学の先駆者、礎になるべき責任者として、何を学んできたのか。

 拙いながらも書き綴ってみた所存です。
 きっと、誰かの決断に繋がると信じて。

 ご一読いただけましたら幸いです。


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55年ぶりに国がつくった新しい大学制度「専門職大学」


 まずは本学を象徴しております「専門職大学」とは、どのように定義されているのか。
 以下、本学の公式サイト・文部科学省ホームページより引用しております。

 “55年ぶりに国がつくった新しい大学制度「専門職大学」
 専門職大学は、実践的な職業教育に重点を置いたしくみとして大学制度の中に制度化されるもので、卒業時には学位として国が認めた専門職の「学士」が与えられます。下記は既存の大学制度と異なる特色です。

 ①産業界等と連携した教育を実施することが義務づけられ、卒業単位のおおむね34割程度以上を実習等の科目とし、また企業内実習等を4年間で600時間履修する。
 ②専任教員数の4割以上は実務家教員とし、産業界で高い実績を持つプロフェッショナルを採用する。
 ③社会人の学び直しを推進するため、実務経験を有する者が入学する場合に、実務経験を通した能力取得を勘案して、一定期間を修業年限に通算できる。”


 それらを細分化し、各キャンパス毎に特色が異なるよう、カリキュラムが設定されています。
 私が通う名古屋キャンパスでは、東海地区に焦点を当てた講義・ゼミ活動が多く行われており、愛知県は一宮市を基盤に世界中へと広がる「尾州毛織物」や「有松鳴海絞り」「名古屋黒紋付染」などをテーマにしております。

 そして、ファッション・アパレルというからには、大前提にグローバルな知識も必須となります。
 座学では「比較文化論」「装いと社会性・ジェンダー」などを必須講義として受講し、今までの生活で感覚的に染み付いていた既成概念をフラットにすることを学びました。時には自分の中で信じていた「常識」をも打ち砕かれるような討論を繰り広げ、自分という人間がいかに形のないものであるかをまざまざと実感させられたこともあります。

 また、特別講義も盛んに行われ、全キャンパスに来校いただいた『RALPH LAUREN』執行副社長/クリエイティブディレクターを務めるジョン・ヴェラジェ氏、メンズポロのデザインを統括するキャル・マックギー氏、PRのクリエイティブリーダーを務めるスコット・ルーディン氏とは、講義の開催後に直接の質疑応答も行いました。
 私も手を挙げ「ラルフローレンのストアVMD(ヴィジュアルマーチャンダイジング)、特にパンツのディスプレイは、他ブランドと異なっているが、こだわっている理由やポイントはあるのか」と質問したのを今でも鮮明に覚えています。
 執行副社長らは、私の拙い質問に対してこう回答してくれました。「全てはパンツ(アイテム)を最高の状態で展示するためだ」
 そして時間間際に、私たち学生に向け「常にクリエイティブな発想を持って臨まなければならない」と勇気づける言葉をくれたのです。
 他にもCHANEL、LVMH、TOD'S、MARC JACOBS…など、その名を聞くだけで心が沸き立つような著名なブランドの代表から、決して他で聞くことができないような講義をしていただきました。

 3年次には大規模なゼミ活動を並行し、社会人に負けないほどの過酷なスケジュールも経験します。
 それがThe Woolmark Company®︎」そして「株式会社オンワードホールディングス」の2社と行った産学連携活動、そして「地域企業地方連携ゼミ」です。
「The Woolmark Company®︎」との産学連携は、本来であれば行われる予定だった海外インターンシップの代替活動として「海外実習講義」と位置づけられました。これはコロナ禍の情勢が収まれば、予定通り海外インターンシップへと戻る手筈です。
 1年間を通じて、まずは羊そのものを知ることから始まり、やがて羊毛や羊を使った新たな事業展開プレゼンテーションをするために、あらゆる角度から「羊」と関わってきました。愛知県日進市にある「愛知牧場」や、犬山市の「リトルワールド」そして「御幸毛織株式会社」などに出向き、実際に自分の手で羊の毛刈りを体験したり、羊を通じた文化に触れるなど実践的な学びを深めました。
 実習を行う傍らで、全編が英語で構成された「The Woolmark Company®︎ LEARNING CENTER」プログラムを修了し、それと同時に1年間の最後にプレゼンするための提案も考えていました。学期末には、オーストラリアの本社役員に向け、スライド・原稿ともに全て英語で仕上げたプレゼンを行いました。彼らからの総評は私たちの想像を遥かに超えた大絶賛であり、言語という障壁があっても、努力と熱意があれば伝わるのだと実感することができました。

「株式会社オンワードホールディングス」との活動期間は、わずか2ヶ月ほど。その期間には「The Woolmark Company®︎」との産学連携も丸々重なっていました。その短い期間で、「ECサイトを基盤とした新たなプラットフォーム」の事業提案を1から立案することが課題でした。
 私たちは、実際の店舗に出向いてのストアコンパリゾンや、ECサイト全般における現状分析・課題の洗い出しなどを、文字通り寝る間も惜しんで行い、他グループの意見などからブラッシュアップを繰り返して、最終的には教授陣や同期らからも絶賛されたプレゼンを作り上げることに成功したのです。

「地域企業地方連携ゼミ」では、三重県津市にある「おぼろタオル株式會社」とのコラボ活動を行いました。これもまた実際の工場・会社見学などを通じて、製品がお客様の手元に運ばれるまで幾多の工程を踏んでいるのか、自分の目で見て知ることができたのです。この「地域企業地方連携ゼミ」は、実習時間が300時間と定められており、私たちはその時間を記録本としてまとめ、一冊の書籍として完成させました。それが【300h.】(2022年 静岡学術出版 発行)です。プロット、文章構成など、全てをゼミ生で考え発行した経験は、大変なことも多かった中で大きな糧となりました。

 それらと同時期に、私たちは実習に300時間を費やす企業インターンシップ(個人)も行っていました。
 通常、大学のインターンシップというものは、1日〜1週間程度が普通です。しかし本学ではこの【300時間】が必修単位として扱われるため、1ヶ月以上をインターンシップにあてるのです。
 訪問先は様々でしたが、自分のアルバイト先を希望している同期もいました。私もその1人です。私はアルバイトとして株式会社Francfrancに勤務していたため、その旨を伝えインターンとして参画しました。
 ただし希望する企業が、それなりにファッション性、アパレルに関係することが求められるため、居酒屋やカラオケなどの業種では難しいでしょう。

 3年次が私たちのピークだと言っても過言ではありません。1年次、2年次も大量の必修講義に追われる毎日でしたが、3年次の活動に比べたらなんてことはありません。2年次までの講義は座学で、受けなければ自分があとから追講義を課されるだけで済んだものが、3年次は企業やインターン先などの第三者が関わってきていたため、無責任に放棄できなかったからです。

「専門学校」や「一般大学」と、何が違うのか?


 さてここからは、系列校「モード学園」との違いについて説明いたします。
    国際ファッション専門職大学は、学校法人 日本教育財団が運営しており、系列にはモード学園、HAL、医専、国際工科専門職大学などがあります。
 私たち本学生が大学名を紹介するたびに、必ずと言ってよいほど質問されたことかもしれません。

 モード学園は学校区分上、専門学校の扱いになります。本学は専門職大学(四年制大学)の区分になるため、大学生として取り扱われます。就職活動の際も大卒として活動します。
 またモード学園は専門学校ということで、圧倒的に実習時間を盛り込んだ時間割になっており、1週間の8割〜程度が実習講義だと聞いています。有名ブランドでデザイナーをしていた先生方が指揮を執り、装苑賞やYKKファスニングアワードなど、大きなコンテストに学年単位で参加します。
 対して私たちは、大学生としての社会性を求められます。一般大学と同じくレポートやプレゼン、テストなど、座学を中心とした成績判断に基づいているため、実習を主に学ぶために入学した場合、それらが苦手な人には厳しいかもしれません。
 しかし「専門職」大学であるため、座学試験だけでは単位を取得できず、実技試験も同時に行われます。主にデザインやパターン実習のトワル(仮縫いのこと)を提出することで成績が決まります。実技試験は個人の芸術的感性が大きく影響するため、得意不得意が明確に浮き彫りになります。どれだけ座学で成績が良くても、実技が追いつかなければ実習成績はその平均をいきます。もちろん報われないことはなく、担当講師に相談して打開策を見つけることで、活路を見出すことも十分可能です。私もその1人で、実習講義、特にデザイン画の実技が壊滅的でしたが、講師に相談し自分がいかに真面目に取り組んでいるか、どうしたら完成度を高められるかを伝え、苦手な分野ではあったもののどうにか補填し、成績は最高評価のSをいただくことができました。

    本学のキャンパスは東京・大阪・名古屋に3キャンパス4学科ありますが、それらの学科同士が交流を持ったことは、私が在籍している4年間でほとんどありません。
 中でも名古屋キャンパスの4年生は中途退学者が片手で余るほどしか出ていない、優秀な学科だと言われています。(他学年はわかりません)
 どこのキャンパスに行くかはあまり関係がないかもしれませんが、そういったデータは存在しています。

 そして大学の特色として、長時間の実習講義の確保、実務家教員の割合の多さなどは先程挙げましたが、その他にも「クラス制」「出席率の重視」「担任制」が最も重要な特徴だと考えています。
 「クラス制」ですが、これは少人数で学科を形成しているため、自然とこの制度になります。大阪・名古屋キャンパスは1学年40人、東京キャンパスは2学科あるため、40人×2クラスの80人です。クラスにいるみんなが同じ学科の学生となります。
 「出席率」について、半期の講義は平均12〜15回で構成されています。その出席率が80%を下回るとその時点で履修が認められません。ほとんどの講義が3回欠席で単位不認定扱いです。もしくは理由なき遅刻・早退(どちらも15分以上)が重なると、残りの時間をどれだけ真面目に受講しても出席として認められません。俗に言う「一限サ〜ボろ」は一切通用しません。やむを得ず欠席・遅刻・早退をする場合は、前もって、もしくはメールや電話連絡が必須となり、連絡が無くそのようなことを行うと、場合によっては教務課から電話が掛かってくることがあります。そのため、私を含めたほとんどの同期は、出席率が90%を超えているはずです。
「担任制」も本学の特色です。小中学生時代と変わらず、クラスに担任の先生がいます。出欠の点呼があり、出席・遅刻・早退の連絡、その他学生生活での相談など、全ての窓口となってくれる存在なので、とても良い制度だと思いました。
 一学年40人、全学年揃っても160人程度と小規模なので、教授陣との距離感が非常に近く、講義やゼミのことはもちろん、就職活動や卒論相談なども親身に受けてくださいます。名古屋キャンパスのことしかわかりませんが、全ての先生が優しく、年齢も立場も違うのにどこか友だちのような距離感で接してくださっています。
   モード学園にも、国際ファッション専門職大学にも、捨てがたいメリットがあり、進路を希望する方は大変悩まれることかと思います。


 その上で正直に、結論から申し上げます。
『ファッション分野に「作り手」として関わりたい、と考えている』方には、前向きに推奨することができません。
 その大きな理由として、実習の圧倒的な時間・設備不足を挙げます。
 プロフェッショナルへと進みたいと考える人に必要なのは、実際に手を動かし、身体に叩き込む実習の時間そのものです。そこに座学上の理想論が食い込む隙間などはありません。他人よりどれだけ多くの作品を作れたか、手を動かして実際に触れたか、それが大前提にあるクリエイターには、大学の要素である座学講義の時間がそれを阻みます。もちろん、実習時間だけでは得られない知識の数々をクリエイションの中に落とし込むことで活路を見出すこともできるでしょう。しかし現実問題、パタンナーやデザイナーといったアイテムを形作る部門に就職したいと考える場合、ブランドによっては実技試験が課せられることもあり、そこでは経験の差がものをいうことに変わりないのも、悲しいことに現実なのです。
 講義時間外に自ら活動する同期もいました。しかし、その時間のほとんどが「講義外の自由活動」に過ぎず、加えて必修講義やゼミなどがあると、満足な活動などほとんど難しいのです。
    名古屋キャンパスにはミシンやアイロンなども、必修講義に使われる必要最低限の程度のものしかありません。高度な設備が使いたいとなると、モード学園の許可を得る必要がありますが、元々の持ち主であるモード学園が優先されているため、私たちが使うとなると余っている備品や、隙間時間に急いで使わせてもらうしかありません。本学で「服を多角的に学ぶ」ことは可能ですが、服作りの基礎、パターンやデザインなどを中心に学びたいのであれば、モード学園や他の服飾専門学校に進学することを強く勧めます。

 しかし、逆手に取ると「服を象る」以外の分野からも、ファッションやアパレル業界に関わることができるのは、「国際ファッション専門職大学」ならではといえるでしょう。

 では、そんな「専門職大学」に、私はなぜ入学しようと思ったのか。
    次回はそのテーマについて、お話したいと思います。









参考サイト
「国際ファッション専門職大学 公式サイト」
「文部科学省 専門職大学・専門職短期大学・専門職学科」

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