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先人の知恵。

先週の記事で、Biophilia =バイオフィリア (自然+愛着)という言葉について触れていましたが、人は本能的に自然を求め、自然を目の当たりにすると安らぎを感じます。

そして、私たちは住むための箱(空間)をただ作るのではなく、植栽などの自然的要素をできる限り建築に取り入れることでより安らぎを感じ、心地よい空間になるような設計を目指しています。

先日は、その建築と植栽(庭)について改めて身をもって学ぶために、建築と庭京都大阪へ研修旅行を行いました。主に、お寺や茶室などの日本伝統建築や20世紀以降に建設された近代・現代建築、そして日本を代表するような日本庭園を見て周り、そのいくつかを紹介したいと思います。


ここは無鄰菴と呼ばれる、明治時代に建てられた政治家山縣有朋の別荘。
近代的な日本庭園の傑作とよばれ、里山の風景や小川などの自然そのものを演出した庭です。

無鄰菴からのぞむ庭

特に驚いたのが、一見山の中にあるように見えますが、ここは住宅街と、目の前は幹線道路に面した庭だったこと。ここでは日本庭園の鉄則とも言える、遠近法や借景という庭づくりの技法が使われていました。敷地の高低差を活かすことで奥行きのある空間を遠近法によって演出し、敷地周囲に高木を植えつつ、東山と呼ばれる大きな山が見えるよう高さ調整することによって、あたかも奥の山まで庭がつながっているかのように見せる工夫が施されていました。


ここは龍安寺の方丈庭園と呼ばれる室町時代末期に作庭されたとされる、長方形の庭に白砂を敷き詰め、石を配した「石庭」です。

龍安寺 方丈庭園 石庭

渓流を模した白砂の空間に随所に配置された石の庭は、まるで時が止まったように静寂で荘厳な印象を与え、見ているだけで精神が静められるような空間となっていました。

庭の周囲を囲む塀は、右奥に向かって傾斜がかっており、遠近法を用いることで限られた空間をより広く見せるような工夫と、さらに奥行き感と庭に溜まった水を掃けるために石庭自体も奥に向かって傾斜をつけるといった、とても理に適った技法が随所に施されていて、限られた空間をいかに広く見せるかといった創意工夫されていることにとても感心させられました。

手前にあるものを大きく、奥にあるものを小さくしたり。高さに変化をつけたり。周囲の風景をうまく取り入れることで空間的に奥行きを持たせ、見た目以上の広がりを感じさせるといった先人たちの知恵から、他の国と比べても国土が狭い日本での建築や庭などの空間づくりにおいて、限られた空間をいかに大きく見せるかよく考えていたことがわかります。

このほか、今回の研修旅行でここだけでは書ききれないほど、現代の建築や庭づくりを考える上で応用できるような様々な発見や学びがありましたが、
限られた空間の中でいかに安らぎなど満足が得られる空間を演出できるか、今後の業務の上で活かしていきたいと思います。

YM