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倉本和昌の視点で見る、オランダとスペインの違い

オランダとスペインの違いは何だと思いますか?

これは完全に個人的な感想ですが、8年間スペインに住んだ経験と最近オランダに移住して感じた違いについてお話しします。

まず、バルセロナやビルバオで世界トップクラスのサッカー育成を見学し、コーチングライセンスも取得したことから、私のサッカーベースは8年スペインで培われました。その後、日本でJリーグのコーチを務め、スペインから帰国してからは合計12年間日本で過ごしました。

そして、自分のわがままでオランダに移住しました。オランダリーグを見ていて、スペインとの違いに気づくことが多くありました。もちろん、今から話すことは私が観察した範囲のことであり、スペインとオランダを一概に比較するものではありません。その点をご理解いただきながらお読みいただければと思います。

スペインリーグとオランダリーグを比較した際、最も大きな違いは守備の厳密さと戦術の緻密さだと感じました。

オランダの多くのチームは1-4-3-3または1-4-2-3-1のフォーメーションでプレーします。そのため、中盤では相手選手にマンツーマンで対応することが多いです。言い換えれば、オランダのチームは1-4-4-2でゾーン守備をあまり採用していないと言えます。

この点について、あるオランダ2部リーグの選手であるポール・ジョンチに直接尋ねたことがあります。彼はスペイン出身で、現在Willem 2というオランダのチームでキャプテンを務めています(2023年〜 Sociedad Deportiva Ponferradina)。実は、彼と私はバルセロナでエウロパというチームでコーチと選手として3年間一緒にプレーした仲間です。彼は当時11歳で、その後プロ選手として成功を収め、オランダで再会する運命に恵まれました。

ポールに尋ねた質問は、「オランダはゾーン守備の意識が低いため、簡単に得点を許してしまうと感じることがある。ファンからすると攻防が激しくて面白いかもしれないが、あなたはどう思う?」というものでした。

ポールは、「カズの言う通りだと思う。スペインと比べてオランダは守備の意識が低い。ただ、それはクライフの影響もあって、時代の変化についていけていない面があると思う」と答えました。この意見は非常に興味深いものでした。

オランダでは、アヤックスやフェイエノールトなどのビッグクラブと対戦する際に、格下のチームも攻撃を仕掛ける姿勢が多いです。この戦術は時に点を奪うチャンスを提供しますが、試合終了後には逆転を許すこともあるのが特徴です。

一方、スペインでは、バルサやレアルマドリードなどのビッグクラブと対戦する際に格下のチームが攻撃的な姿勢を示すことは稀でしょう。監督が「(バルサ相手に)攻撃を仕掛けよう」と提案した場合、選手たちは自身の立場をよく考えるように促されます。失点が多いと、選手たちは監督の指示に従ってプレーした結果だと考え、信頼を失うことがあります。

例えば、前シーズン(2022-23年)にPSVで監督を務めたファン・ニルステンローイは、オランダ、イングランド、スペインでプレー経験がある人物でした。そのため、オランダのチームがチャンピオンズリーグで成功するためにはゾーン守備が重要だと考え、PSVでは攻撃時には1-4-3-3、守備時には1-4-4-2のゾーンを採用する戦術を試みました。

結局、PSVはチャンピオンズリーグの予備予選プレーオフで敗れ、本大会に進出できませんでしたが、ファン・ニルステンローイはオランダサッカーの未来を考えていたようです。彼が素晴らしい監督になりそうで楽しみにしていましたし、2022-23年シーズン2位の成績で終わったにも関わらず、シーズン終了後にクラブと意見が対立し、PSVを離れることになりました。

要するに、スペインは戦術的に緻密ながらも、オランダは違ったアプローチをとっています。オランダは国として、ヨーロッパのビッグ5リーグに挑戦しよう、そこに食い込んでいこうという感じではないです。メガクラブ、ビッグクラブに資金的に対抗するのは難しいと考え、代わりに若く有望な選手を育てて、高額でそのメガクラブに売却することを戦略として採用しているようです。

先日、バイエルン・ミュンヘンからリヴァプールに移籍したライアン・フラーフェンベルフ選手は19歳の時にはアヤックストップチームで100試合以上出場していました!

つまり、オランダのクラブは、ヨーロッパの中で上位を目指すことは全くやっていない訳ではないですが(アヤックス、フェイエノールト、PSV、AZくらい?)、それよりも一人の特別な選手を育て上げ、その選手を高額で売却することを目指しています。この考えは非常に合理的であり、成功した例も多くあります。

そのため、オランダのクラブはシンプルな基本戦術の中で、1対1や個人としての責任度合いが大きいプレーを要求し、個人の力を最大限に引き出す方法や、100億を超える選手をどうやって育てるかに焦点を当てています。

スペインとオランダの違いをまとめると、スペインは戦術的に緻密で、守備に対しても貢献もかなり求められます。オランダは個性を尊重し、広めのスペースで若手選手をどんどん試合に使う中で成長させ、メガクラブに売るということをしています。

私は、これらの異なるアプローチから、どちらのアプローチも魅力的で、サッカーの世界で多くのことを学びました。それぞれの強みを活かし、サッカーの発展に貢献していきたいと考えています。

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