見出し画像

日本の石油化学産業、再編と脱炭素化で変革の時

三菱ケミカル、石化事業を分離へ

日本の石油化学産業が再編に向けて揺れている。三菱ケミカルグループは他社と共同企業体(JV)を立ち上げると打ち出した1。脱炭素化でリサイクルプラント建設の計画も相次ぐ。化学品の基礎原料「エチレン」の供給過多は続き、再編は待ったなしだ。日本の石化産業は生き残れるのか。石化コンビナートの現場を追った。

茨城県のコンビナート、リサイクルプラント建設で脱炭素化に挑む

茨城県神栖市と鹿嶋市にまたがる鹿島臨海工業地帯。集積する企業数は150社を超え、2万2000人規模の従業員が働く。この日本有数の石油化学コンビナートの中核に位置するのが、化学品の基礎原料エチレンのプラントを持つ三菱ケミカル茨城事業所だ。ここで今、変化が起こっている。

「あのプラントがわたしたちの希望なんです」。三菱ケミカル茨城事業所の仰木啓訓所長が語るのは、石化コンビナートの象徴だったエチレンプラントではない。2023年度中の稼働を予定するプラスチックのリサイクルプラントだ。巨大な化学プラントが立ち並ぶ一角のリサイクルプラント建設予定地では工事が急ピッチで進む。


リサイクルプラントでプラスチック再生

リサイクルプラントは三菱ケミカルとENEOSの共同設備だ。高温で高圧の水を使いプラスチックを分解して原油に近い状態にする。生成した油は原油やナフサに混ぜ、両社の既存設備で新たなプラスチック原料に再生する。新設備は商業ベースで年間2万トンを処理でき、同種の設備で国内最大級とみられる。


石化コンビナートで温暖化ガス削減

リサイクルプラントでプラスチック再生石化コンビナートに集まる化学品工場はパイプラインで工場同士がつながっている。上流で原料のバイオ化やリサイクル材の再利用などを進めれば、化学品をつくる下流にまで温暖化ガス排出量削減の効果が波及する。


バイオエチレンプラントで低炭素化

茨城事業所は、25年度の事業化を目指すバイオエチレンプラントも建設中だ。エチレンは石油由来のナフサを原料にするが、バイオエチレンプラントではバイオマス由来のエタノールを原料にする。温暖化ガス排出量は従来のエチレンプラントに比べて約9割削減できるという。

「脱炭素化は石化コンビナートの再生につながる」と仰木所長は語る。三菱ケミカルは、茨城事業所での脱炭素化により、30年度までに温暖化ガス排出量を20年度比で約6割削減する計画だ。


三菱ケミカル、石化事業を分離へ

三菱ケミカル、石化事業を分離へ 三菱ケミカルは、石化事業の分離を発表した。21年12月15日に開いた取締役会で決めた。22年4月1日付で新会社を設立し、同社の石化事業を移管する。新会社は三菱ケミカルとENEOSが共同出資する予定だ。

分離の背景には、国内外で進む脱炭素化への対応がある。三菱ケミカルは、石油由来のナフサを原料とする従来型の石化事業から、バイオマスやリサイクル材などを原料とする低炭素型の石化事業へとシフトしていく方針だ。そのためには、従来型の石化事業を別会社に分離し、経営資源を集中させる必要があると判断した。

また、ENEOSとの共同出資により、両社のナフサクラッカー(エチレンプラント)やナフサ供給設備などを統合し、生産効率やコスト競争力を高めることも目指す。国内外でエチレン需要が減少する中、供給過多に対応するためにも再編が必要だという。

日本の石油化学産業は生き残れるか

日本の石油化学産業は生き残れるか 日本の石油化学産業は、世界的な脱炭素化や中国など新興国の台頭により厳しい状況に直面している。国内では自動車や家電などの需要が鈍化し、海外では中国や中東などが大規模なエチレンプラントを建設し、市場シェアを奪っている。

日本経済新聞社がまとめた21年度上半期(4~9月)の世界エチレン生産量ランキングでは、日本勢は上位10社中1社も入っていない。トップは米ダウ・デュポンで、2位以下にも米国や中国、中東などの企業が並ぶ。日本勢では最大手の三菱ケミカルが18位だった。

日本の石油化学産業は、再編や脱炭素化で生き残りをかける。三菱ケミカルとENEOSのほかにも、住友化学や東ソーなどが石化事業の分離や共同出資を検討していると報じられている。また、バイオマスやリサイクル材などを原料とする低炭素型の石化事業にも積極的に取り組んでいる。

しかし、それだけでは不十分だという声もある。日本化学工業協会の鈴木隆一会長は、「日本の石油化学産業は、世界の競争に勝ち抜くためには、技術力やイノベーション力を高めることが必要だ」と指摘する。特に、高付加価値な製品やサービスを提供できるようになることが重要だという。

そのためには、石油化学産業だけでなく、自動車や家電などの下流産業とも連携し、顧客ニーズに応えることが求められる。また、政府や地方自治体などとも協力し、規制やインフラなどの整備も進める必要があるという。

日本の石油化学産業は、再編と脱炭素化で変革の時を迎えている。その先にあるのは、衰退か復活か。その答えはまだ見えない。


リンク一覧


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?