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6月11日の日記「タンデム走行」

「乗っていいよ」
今の愛車に乗り換えてから初めて人を乗せるために使うタンデムステップを展開し、僕は妻へバイクの後席に跨るよう促した。
サスペンションの沈み込みは、物理的な重さではなくこれから往復40キロの間背負う責任の重さを僕に感じさせた。

妻の通っている病院は今の住居から東京のちょうど反対側に位置し、電車とバスを乗り継いで1時間半ほどかかる。
毎回通院でヘトヘトになって返ってくる妻を見かねて「バイクで送ろうか?」と提案したのが少し前のこと。

幹線道路に出ればそのまま一回曲がって走っていくだけで着けるので700キロを日帰りしてヘラヘラする人間にとっては「コンビニ行ってくる」ぐらいの距離感である。
しかし天候と僕の休みが合わず、いきなり夏日の都内を走ることになってしまった。

ガッチリとしたVストローム650XTのタンデムグリップをしっかり握るよう妻に伝えてスタータースイッチを押す。
元気よくVツインエンジンが目覚めの声を上げ、近隣に迷惑をかけないよう暖機もそこそこに走り出す。ナビは不要、ルートは頭に叩き込んであるしランドマークも覚えている。

いつもより遅めにシフトアップし、ブレーキもゆったりと。納品のトラックや路線バスに気をつけながら左車線を進む。
排気量なりの「余裕」に感謝しつつオーバーパスやアンダーパスを超え、
広大な河川敷を横目に川を渡る。ずっとビルやロードサイド店に挟まれていたところから一気に視界がひらけて妻も驚いていた。

病院に到着し、診察や会計を済ませて門前薬局で薬を受け取る。
軽くではなく普通に汗ばむ気温で、すでにシートはフライパンのように熱い。まだ暑さに慣れていない後席が熱中症にやられはしないかと思いながらもあくまでも控えめにスロットルを開く。
住み慣れた街の役場が見えてきた。「もうすぐだよ」側道に入って自宅の前でスタンドを降ろして降りるよう促す。
無事に家まで帰れた達成感と文字通り肩の荷が下りた安堵感でうっかりやらかさないよう慎重に駐車場にバイクを戻し、スタンドを降ろしてエンジンを切る。
「おつかれさん」残り少なくなったタンクを優しく叩いて地面に両足をつけた。

ただいま。

昼食に食べに行ったのキーマカレー。カレー風味のトマト煮といった感じの優しい味わい。

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