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Jake Irvinの地味に優秀な活躍

現在、ナショナルズの強力先発ローテを支えるジェイク・アービンJake Irvin)。
彼の知名度は正直チームメイトの ゴアやコービン らと比べるとやや劣る印象です。
しかし、今季のアービンは紛れもなく優秀な先発投手の1人です。
今回は、ジェイク・アービンがどのような投手なのか見ていきましょう。



ドラフトからデビューまで

アービン はDivision I のオクラホマ大学(Oklahoma University)で3年間を過ごしました。
後輩には、のちに同じくナショナルズから1巡目指名を受ける ケイド・キャヴァーリ が、先輩には阪神タイガースに在籍するシェルドン・ノイジーが、そして同期には1巡目でアスレティックスから指名されながらも、それを断ってNFLの世界に行った Kyler Murray がいました。

3年目にはオクラホマ大のエースとして活躍、さらには学業においても非常に優秀な学生であり、大学でのGPAは3.83という素晴らしい成績を収めました。この文武両道の活躍が認められ、Big12 Conference の Scholar-Athlete of the Year を受賞しました。

大学3年目成績
16先発 防御率3.41 奪三振率10.9 K/BB4.11

そして2018年のMLBドラフトで、Irvin4巡目全体131位で指名されます。

ドラフト後のアービン は、2020年10月にトミー・ジョン手術を受けて、2021年シーズンを全休するなどありましたが、指名順位の割には順調にマイナーの階層を上がっていったように思います。

Irvin の前に指名された3人がもはや名前すら聞かないことを踏まえるとなおさら


そして来たる2023年シーズン
開幕時点で、Irvin はMLB昇格の候補には名を連ねてはいませんでした。
しかしながら、当時のローテにいた Chad Kuhl の怪我や Cory abbott の成績が芳しくなかったことから、アービン に白羽の矢が立ったのです。


こうして2023年5月3日のカブス戦で、アービンはメジャーデビューを果たしました。
結果は4.2回を投げて1失点、上々のデビュー戦となりました。


この年の Irvin はシーズン最後までメジャーに残り続けました。
最終的に、24先発121回を投げて、防御率4.61、fWAR 0.8 と内容は今一つだったとはいえ、ローテーションに定着してくれたことは嬉しい誤算でした。

2023年のsavant ↓

Baseball Savant より

課題としては、①BB%10.2%という四球の多さと、②対左への被OPS.853 という左打者への対応が挙げられ、これを改善できるかどうかにかかっていました。

2024年シーズンの Jake Irvin

そして、今シーズンのここまでのIrvin は理想的なステップアップを見せてくれています。
5月31日時点で、11先発63回を投げて、防御率3.43, fWAR 1.3 と素晴らしい成績を残しています。
なにより課題だったBB%4.6%にまで減らしており、またK%についても18.7%→21.3%、whiff%は17.8%→22.5%へと上昇しています。

2024年 ↓

Baseball Savantより

成長を見せた要因はどこにあるのでしょうかを見ていきましょう。


①ストライクゾーンへ積極的に投げ込み、無駄なボール球を減らす

zone%:50.9%→55.6%
1st pitch strike%:56.8%→60.8%

このように初球から積極的にゾーン内に投げており、ストライクをとれていることがわかります。


ゾーン内への投球割合


2ストライク時におけるゾーン内への投球割合

全球種、ゾーン内への投球割合が増えています。
しかしながら、2ストライク時においてのIn zone %は、46.8%→48.2%と去年と比べてそれほど高くなっているわけではありません。

このことから、2ストライクになるまでは、よりゾーン内に積極的に投げてカウント有利を作っているのです。
そして、2ストライク時にはよりボールゾーンも使って振らせるというピッチングスタイルに変えているのでしょう。


また、Chase・Waste への投球割合も 27.7%→24.5% と減らしています。
無駄なボール球を減らしているのです。
これにより、Chase%(ボール球を振らせた割合)が22.6%→26.9% と上昇。

さらに投げた「ゾーン」がどれだけ打者に対して有効であったかを示す Location+は、101→106(100が平均)へと上昇しています。
これらの変化も、四球の減少・空振りの増加に寄与していると考えられます。


②対左打者への対策:カッターの習得

2023年、アービンの対左への被OPSは.853と課題の一つでした。
その要因として、昨年は対左にチェンジアップを投げていましたが、
whiff% 15.6%、chase% 14.3%
と空振りを奪い、ボールゾーンを振らせる変化球としては決め手に欠けていたことが挙げられます。


Baseball Savantより引用


そして今シーズンはシンカーとチェンジアップの割合を大幅に減らし、代わりにカッターを投げるようになりました
そのカッターはRun Value+1 whiff%23.8% chase%20.8%と効果的です。
カウント球としてだけでなく、空振りをとれる球種でもあるのです。

他の要因もあるとは思いますが、カッターが左打者に有効に機能していることは間違いないようです。

そして対左への空振り率も16.7%→23.6%と向上し、被OPSも.853→.702と改善を見せているのです。
これには①のストライクゾーンに積極的に投げ込んでいることも関わってきそうです。


③ショーン・ドゥーリトルの存在

今シーズンからナショナルズの投手戦略コーチとなった英雄ショーン・ドゥーリトル
ドゥーリトルは、これまで以上にデータを活用したコーチングを行っており、投手陣の底上げを成功させています。

チーム全体として意識しているのが、
①ストライクゾーンに投げること、②1球1球を考えて投げること
にあると思われます。

先ほどのアービンもそうでしたが、ナショナルズ投手陣は特にゾーン内を意識して投げています。カウントで有利を取るためですね。
実際チームのzone%は、2023年の49.0%(16位)から、51.0%(5位)へと上昇しています。
しかしながら、いたずらにゾーン内に投げこんでいるわけではありません。

今季のスプリングトレーニングが始まる前、GMのマイク・リゾーはとあるジョークを言いました。

私は、(ナショナルズの投手たちが)早々に四球をだそうと気にしないよ

昨シーズンメジャーワースト7位四球率3.73を記録した投手陣たちへの皮肉とも取れるこのジョーク。しかしながらこれには別の意味がありました。Talk Natsさんの言葉を引用させていただきます。

「Think before you throw a pitch, and have a purpose with each pitch.」
ー投げる前に考えろ、そして全てのボールを、目的を持って投げ込めー

Are you talking to me? | TalkNats.com

アービンも、2ストライク時にはよりボールゾーンを使っています。
このような意識改革も奏功しているのではないかと思われます。

まとめ

アービンの成績向上の要因として、
①四球の減少
②左打者への対応
の2つを上げました。

①については、ゾーン内への投球割合の増加、②についてはカッターの導入を根拠として挙げました。
またドゥーリトル戦略コーチらによるデータ推進や意識改革などもアービンの躍進に貢献していると考えられます。


アービンのルーティン

最後にアービンの根幹に根付いているであろうルーティンについて紹介します。
アービンは、貪欲に様々なことを取り入れ、自身の糧としています。

アービンと共にトレーニングを行っているジェフ・メランド氏の言葉です。

He’s so willing to do the things that so many people would be like, ‘That’s not going to make enough of a difference
ーアービンはいろんなことをやろうとする。多くの人が「そんなことをやったって、たいして結果は変わらないよ」と言うようなことであってもだ。

How Nationals pitcher Jake Irvin unlocked a 'perfect storm' - The Washington Post

そして彼は文字通り多くのことをこなしています。

ある日メランド氏は、アービンにこう言いました。

Irvin could move the same way [make your body comfortable] if he stopped using the furniture in his home.
ー家にある家具を使うのをやめたら、同じような動きが[身体を楽にすることが]できるよ。ー

How Nationals pitcher Jake Irvin unlocked a 'perfect storm' - The Washington Post

家にある家具を使うのを止める」_なかなか興味深い言葉です。
もちろん、メランド氏も根拠があったからこそこう言ったのです。

メランド氏が飼っているラブラドールレトリバーが床が昼寝中に、寝返りを打ったりしているのを見ました。体を楽にしようとしていたのです。そして昼寝から、起き上がると即座に走って行きました。
ここからメランド氏は、床で横になることで「自由な動きができる」と考えたのでした。

犬の寝返りから着想を得ており、かなり突飛な発想に思えます。

しかし、アービンはやりました。

するとどうでしょう。体は固くならず、神経系や筋肉に負荷をかけることなく、体を動かせるようになったそうです

その結果、より速い球を、より長いイニング投げることができるようになりました。

ですが、これはアービンが行っていることのごく一部でしかないのかもしれません。アービンは少しでも自分を高めることができることであれば、何でもするからです。
実際、アービンが行うトレーニングの半分がピッチング以外の要素が入ったトレーニングだそうです。

加えて暇な時間があれば、大学時代に教わった呼吸法に取り組んでいます。

大学時代、攻撃的になりやすかったアービン。
当時監督だったジョンソン氏は、投球と投球の間に呼吸を整えるよう教えました。自分を奮い立たせるためではなく、平衡な状態を保つために。
そして、そのルーティーンはアービンの「生命線」となりました。

ジョンソン監督はアービンに、大切なのは結果よりも準備とルーティンだと教えたのです。

ジェイク・アービンの日々のルーティン↑


「負けた試合の後に走るランニングマシーンは、マジで頭にくるよ。そして、勝った試合の後に走るランニングマシーンはマジで嬉しいんだ」

アービンは、感情的な投手かもしれません。
しかし、彼は感情をコントロールする術を身につけました。
そして自分を成長させるための数多のトレーニングが、ルーティンが、ジェイク・アービンをメジャーリーガーたらしめているのです。



参考記事

ワシントンポスト
https://www.washingtonpost.com/sports/2024/04/22/jake-irvin-nationals-training/

OU baseball: A careful thinker, Jake Irvin content with choice to sign with Washington Nationals | All OU Sports | normantranscript.com

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