バイデン候補が大統領選に勝利した場合の市場へのインパクト(前編)

「バイデン候補が米国大統領選挙で勝利したら、米国株式市場はどうなるのか?」
こんな質問を受けることが多くなった。無理もない。米国大統領選挙まで残り4ヶ月となり、各種のメディアが世論調査を実施しているが、例えばニューヨーク・タイムズとシエナ・カレッジが6/24に公表した全米世論調査では、バイデン氏の支持率は50%、トランプ大統領は36%とバイデン氏がどんどん優勢な状況になってきているからだ。市場もバイデン氏が勝利する可能性と、その場合の市場へのインパクトを考えざるを得なくなってきている。

それにしても、バイデン氏の選挙戦は異例尽くしだ。民主党の大統領候補指名争いにおいて、バイデン氏は当初から最有力候補でありながら、熱狂的な支持者に欠けることや、討論会での失言やら女性スキャンダルやらを繰り返し、今年の2月のアイオワの党員集会では4位、ニューハンプシャーの予備選では5位と低迷した。米国大統領予備選では、この最初の2州でここまで低迷した候補がその後に挽回した例はない。バイデン氏は資金集めにも苦労し、一時は民主党の大統領候補はサンダース氏に決まるかと思われた。しかし、そこにコロナショックが吹き荒れた。米国の4月雇用統計では、失業率が14.7%に跳ね上がり、非農業部門の雇用者数は▲2,050万人と衝撃的な事態に陥った。全米がロックダウンされ、人々の生活は大きな制約を受けた。こうした未曽有の事態により、人々のマインドは「安心」を求めるように急変した。サンダース候補の革新的な言動は平時には人々の心を揺さぶるが、緊急時には不安を抱かせるのだろう。その点、上院議員を36年も務め、オバマ時代に副大統領を担い、人間的にもあまり特徴のないバイデン氏の「何となく安心」という魅力が急に浮上し、気が付けば民主党の指名争いに勝利してしまった。
また、トランプ大統領に対する足元の優位さも、バイデン氏が何かをしたわけではない。バイデン氏は選挙運動も中断して、自宅に巣ごもりしていたに過ぎない。その間にトランプ大統領が自滅しただけだ。トランプ大統領は、コロナ対策で失政を繰り返したほか、黒人暴行死事件の対応では自国民に米軍を向かわせることを検討するなどして批判を浴びる事態となった。また、この件でマティス前国防長官やケリー前首席補佐官といった初期のトランプ政権を支えた軍人と喧嘩をしたり、自分のアピールのために教会の前で聖書を持ってポーズを決めるなど、キリスト教徒を怒らせる軽率な行動で支持者離れを起こしている。更に足元ではボルトン大統領補佐官の暴露本が出されるなど、トランプ大統領にとっては苦しい状況が継続している。但し、その大半が自業自得的なものである。バイデン氏待望論が巻き起こっているのではなく、反トランプ現象が盛り上がっているのだ。

さて、バイデン氏が大統領になった場合の市場へのインパクトであるが、一般的には株式市場においては、「トランプ大統領が勝利すれば現状路線のため株高、バイデン氏が勝利すると法人税の引上げや富裕層への増税懸念があり株価は下落する」と指摘する声が多い。しかし、これはそう単純な話ではない。私はいつも、まずこう聞くことにしている。「トランプ大統領が勝利したら現状路線だから安心と言うが、二期目のトランプ大統領は一体どこを目指すのですか?」一期目のトランプ大統領にとって「再選する」、「再選という戦いに勝利する」というのは明確な目標であることは間違いない。しかし、再選してしまえば、トランプ大統領が何をしたいのか?残りの4年間、政治エネルギーを何に費やすのかが、私には自信を持って答えられることはない。もしかしたら、憲法を改正して第三期目を目指す可能性だってある。つまり、バイデン氏の勝利だけでなく、トランプ氏が勝利した場合も不透明感は強いのである。まず、そのことをよく考える必要があるだろう。次回は、バイデン氏が勝利した場合の影響について、いくつかの重要なポイントを指摘したい(続く)

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