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2024年に考えるべきこと②

2024年に考えるべきことを、色々と取り上げています。今日は第二弾です。

7.AIについて

昨年は生成AIブームに沸いた。24年は間違いなく、その流れは加速していくことだろう。生成AI関連の成長率は2027年に向けて年率70%で成長をするとの予測もある。昨年の段階では30%だった。この短期間での見通しの大幅アップは驚きだ。年率70%で成長するような市場があるのなら、そこに参加しない手はないだろう。
生成AIは当初OpenAIのChatGPT3.5で世界を驚かせた。しかし、あれから僅か1年で、当初のChatGPT3.5が子供遊びに見えるほど進化している。生成AIが「遊べるもの」から、「使えるもの」に進化すると、広範囲なAIにブレイクスルーを起こし始めてくる。AGIの世界は、もう少し先だとしても、バイオテクノロジーや創薬研究、素材研究などで、ブレイクスルーが出てくるだろう。これは持論なのだが、こうした成長は、いつも2つの業界が先行する。ゲーム業界と建設業界だ。実社会に持ち込むためには、安全性に不安があったり、様々な規制を必要となる。そうしたものは、何の制約もないゲームの中で試されるのだ。そういう時代になっている。次に建設業界だ。限られた範囲内で、こうしたAIが実験的に使われていくのだ。そういう意味で、ゲームの中でどのようなAI技術が使われていくのかは、非常に注目している。
ところで、生成AIは一過性のブームなのだろうか?私はそうは思わない。EVブーム、脱炭素ブーム、ESGブーム、5Gブームなどは、政府が推し進めてきたものだ。そうしたブームは、「進めねばならない」という危機感の中で、政府主導で世界的に演出されてきたものだ。これに対して、AIは軍事部門では研究されてきたものの、基本的には民間の中から発生している。そして、マグニフィセント・セブンと呼ばれるような世界で最も資金力のある企業が、会社の命運をかけて投資している分野であり、政府はむしろその危険性から「成長に待った」をかけたい立場にある。こういうものは本物だ。
半導体分野の成長スピードも加速している。世界が取り合っているエヌビディアのH100であるが、エヌビディアのロードマップによれば、24年はH200、年中盤以降にはB100が登場する。B100はH100の3倍以上の推論性能を持つようだ。そして25年はX100という更に進化したAI半導体が登場する予定だ。AMDが昨年末に発表した「MI300」は、H100と性能争いで並ぶものだ。24年はエヌビディアは更に先に進むことから、なかなかAMDがエヌビディアに追いつくことは難しい。しかし、こうしてAI半導体分野でも競争が激しくなっていくことは良いことだ。最先端分野ではこの2社に他社が追いつくことは難しいが、ここからはもう少しニッチなAI半導体需要も爆発的に市場が拡大すると予想される。エヌビディアの最先端GPUは高価な上に大きな電力を必要とする。ここまで性能の良いAI半導体でなくても、より限定された廉価で省エネの半導体への需要が増加するのは当然だ。最先端ばかりに目が奪われるが、実はこれからは「セカンドベスト」やニッチなマーケットに恩恵が広がるのかもしれない。そう考えると、このAIブームは、ブームというよりは新たな世界のメイントレンドとして、どんどん強く逞しく広がっていくと考えている。23年は北米でユニコーン企業が44社しか誕生しなかった。2022年の195社、2021年の360社から急減したのだが、その44社の内の17社がAI関連企業であった。AIはまさにカンブリア紀の様相を呈している。

8.正常化というキーワード

24年は「経済と市場の正常化」という言葉が1つのキーワードだろう。コロナというパンデミック、それに対応するための過剰な財政政策、過剰な金融政策は正常化に向かっていく。インフレについても、欧米諸国は2%のインフレ目標の「ラストワンマイル」の射程距離圏までは正常化するだろう。世界の中央銀行は、ラストワンマイルを無理に早期に達成する必要はないという方向性に転じると思われる。ラストワンマイルを達成するために、経済をクラッシュさせることはナンセンスだからだ。ゆえに正常化プロセスは、ゆっくりと始まっていく。
世界の多くの国々が、インフレ抑制のために懲罰的に引き上げた政策金利を、金融緩和というよりは、金融正常化という枠組みの中で利下げをしていく。ちなみに、金融緩和局面では、FRBは漸進主義を取るだろう。ゆっくりと決まった利下げ幅と利下げ間隔で正常化を進めるはずだ。FRBについては、23年3月の金融不安の際に導入したBTFPについて今年の3月で予定通り終了するか、延長するかの判断を迫られる。またQTをいつ中止するのかという点も正常化の一環として、24年は注目されることになりそうだ。
こうしな中で、日本もついにマイナス金利からの解除、金利のある世界という正常化へ向かう。この他国の正常化とは逆方向の流れは、教科書的には為替相場で円高要因となるのだが、果たしてそう単純に動くのか。
また、欧米の金利については、懲罰的な利上げが行われてきたわけだが、金融が正常化するということは、懲罰を受けていた産業界への苦役が終わるということだ。それは出遅れていたセクターのキャッチアップを意味する。23年はマグニフィセント・セブンと他の企業との乖離が目立つ1年であったが、24年はS&P500の他の493社のキャッチアップ、ラッセル2000のような中小型株のキャッチアップへの期待も大きい。私は全体的に底上げされる中、マグニフィセント・セブンは更に先に進むと予想しているが・・
さて、23年はM&AやIPOの件数が非常に少なかった。23年のM&Aは世界で2.8兆ドルであったが、3兆ドルを割り込んだのは2013年以来である。金利が下がれば、M&Aの動きは復活するだろう。
23年は全体としては、不調なM&A環境であったが、バイオ医薬品企業をターゲットとするM&Aは堅調だった。ファイザーによる430億ドル規模でのシージェンの買収、アッヴィによるイミュノジェンとセレベル・セラピューティクスの合計で200億ドル規模の買収などが目立った。年末にもブリストル・マイヤーズによる放射性医薬品のレイズバイオの41億ドルの買収が発表されている。また、2020年に「クリスパーキャス9」のノーベル化学賞受賞で話題になったゲノム編集治療が初めてFDAで承認されたこともあり、24年もこの業界のM&Aなどは注目されるだろう。M&Aの活発化は、GSやモルガンスタンレーなどの仲介者には朗報だ。
また、金利が低下することで、株式市場と債券市場の関係性も正常化するかもしれない。23年はイールドスプレッドによる割高、割安が崩壊した1年であったが、債券市場が回復するなら、こうした相関性も正常化する可能性があるだろう。
一方で正常化に苦戦しそうなのが米国のコミュニティバンクなどの小さな銀行、商業用不動産、中国の不動産問題だろう。この辺は、また別途取り上げるつもりだあ。24年が正常化の年となるのか、あるいは再び予期せぬ事象の発生により、バランスの悪い年になるのか。前者であることを願う。

9.原発推進

世界ではすっかり原子力発電に回帰し始めている。その筆頭は中国であり、2019年に4基、2020年に4基、2021年に5基、2022年に10基、23年も10基が新たに認可されている。23年末には世界で初めて第4世代原子力発電所を山東省で商業運転に結び付けている。
米国でも23年は大きな展開があった。ジョージア州ウェインズボロにあるヴォーグル3号機が2023年7月31日に商業運転を開始した。これは、2016年以降でアメリカの電力網に接続された最初の新型原子炉だ。米ビスコンティ・リサーチ社が実施した原子力に関する全米対象の世論調査結果によると、原子力に対する米国民の支持は記録的な高水準が続いている。昨年4月28日~5月5日に実施された調査では、国民の4分の3が原子力を支持し、10人に約7人が新規建設を支持するという結果になった。福島原発事故以降、世界はいったんは原発推進にストップをかけたものの、2050年までに17億人増加する世界的な人口増加、AIなどでも大量に消費される旺盛な電力需要に対応するためには、結局は原発に頼るほかないようだ。原発推進の流れは、次に再び大きな事故が起こるまで、どんどん強まっていくことだろう。
余談であるが、ポスト岸田首相として、河野太郎氏の名前がよく挙がるが、同氏が拘っている「脱原発」という路線が足かせの1つとも言われている。また、脱原発に拘り、23年に全原発を停止したドイツも今後、エネルギー戦略上で難しい選択を迫られることになるのだろう。

10.移民、難民問題

昨年末は欧州で移民、難民問題が話題になった。EUが移民改正法案で大筋合意となり、移民審査の迅速化、収容所の設置、亡命申請が却下された場合の強制送還の迅速化が盛り込まれた。フランス議会では、不法移民の規制強化に向けた新たな移民法が可決された。2015年、2016年の欧州の難民危機は収まったものの、最近ではアフリカの内戦の長期化等により、移民難民が急増している。特にアフリカからの難民が目指すイタリアでは、昨年4月に非常事態宣言を発動するに至っている。これまで、欧州はトルコにお金を払って、難民を受け入れてもらっていたが、これも限界だ。アフリカの内戦、中東の戦争により、24年は確実に移民、難民は増加する。今年は6月に欧州議会選挙が予定されている。人権に寛容な欧州でも、移民、難民にどんどん厳しい方向に進んでいくだろう。言うまでもなく、トランプ氏は大統領に就任したら、即座に海外に駐留する兵士を米国の南部国境線に送り、厳格な移民対策を講じると発言している。溢れる移民、難民、それを拒む周辺国、このアンバランスの行き着く先はどこなのだろうか。


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