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来週の相場見通し(7/1~7/5)

1.はじめに

今週は、バイデン大統領とトランプ氏の大統領選候補のテレビ討論会が開催された。内容が酷いことは最初から分かっていたことから、あまり驚きはなかったが、何よりショックだったのはバイデン大統領の衰えである。一般教書演説の時のバイデン大統領の活力に満ちた姿とは全く違い、顔色も悪く、枯れた声で時折咳き込む姿は、強い米国大統領の姿はなかった。更に、トランプ氏がスピーチしている際に、瞬きもしないまま膠着している表情は、視聴者を不安にさせるものがあった。視聴者は「バイデン大統領に、更に4年は無理だ」と強く感じたことだろう。こうなると、どんな政策をやっても意味をなさない。経済が良くなろうと、インフレが鈍化しようがダメだ。米国大統領は、米軍の最高司令官であり、世界のリーダーとしての象徴なのだ。この討論会の後、米国のメディアではバイデン大統領は出馬を辞退すべきだとの大合唱が始まっている。ちなみに、バイデン大統領がこのタイミングで出馬を辞退することも超異例ではあるが、不可能ではない。まだ民主党の党大会が開催されておらず、バイデン大統領自体も正式な候補者ではないからだ。過去には、リンドン・ジョンソン36代米国大統領(民主党)が、大統領選の予備選の最中に突然、「再選を辞退する」と発表し、民主党を大混乱させたことがあった。実は昨年から、バイデン大統領は選挙戦中に再選を辞退する局面が来るのでは?と警戒されてきた。「リンドン・ジョンソン・モーメント」である。しかし、ここまでバイデン大統領は突き進んできた。もうこのタイミングでは、バイデン大統領が再選を辞退することは、通常ではあり得ない。しかし、今回のテレビ討論会の弱ったバイデン大統領の姿を見た民主党陣営は、このままでは共和党に大敗するリスクを考えずにはいられないだろう。下のチャートは、ブルムバーグが集計している24年のバイデン大統領の再選の可能性を示すものだ。テレビ討論会の後に、急低下している。

(バイデン大統領の勝利確率)

ちなみに、バイデン大統領が再選をこのタイミングで断念したら、何が起こるのか?これは正確には分からない。既に予備選は終了している。まずは民主党の重鎮や指導者が集まり、緊急協議を行う。この会議には、現職の民主党全国委員会(DNC)委員長、下院・上院の指導者、主要な州の党代表、元大統領や元副大統領など、党内の有力者が参加する。そこで候補者選定のためのルールと手続きを迅速に確定する。既存の予備選挙の結果や代議員の意向を考慮し、どういった形で候補者を選ぶかが決める。 必要に応じて、緊急党大会(National Convention)が開催されるかもしれない。この大会で代議員が集まり、新しい候補者を選出する。但し、このタイミングを鑑みると、まずはカマラ・ハリス副大統領が大統領候補に立つことになり、その対抗馬として1人、2人くらいが立候補して決められるのだろう。いずれにしても民主党は大混乱だ。今後、急展開もあり得るので、注意しておきたい。但し、バイデン大統領本人の再選への意志は固い。バイデン大統領が自ら辞退するという選択をしない限りは、大統領選はこのまま突き進んでいく。これがメインシナリオであることに変わりはない。
さて、それでは今週注目された市場の動きを整理しておこう。

2.米国市場

(1)米金利の動向

米金利はレンジを切り下げてきていたのだが、週末には米金利は大きく上昇して引けた。この米金利の突然の上昇はサプライズである。何故なら、この日は注目されたPCEデフレーターが2.6%に鈍化して、市場を安心させていたからだ。もちろん、PCEデフレーター公表後に米金利は低下していた。
なぜ、米金利はこれほど上昇したのだろうか?
下のチャートは、週末の米長期金利の動きである。まずはPCEデフレーターが上振れることがなかった安心感から、米金利は低下した。(赤い網掛け)
その後22時45分に発表されたシカゴ購買部景気指数と、23時に公表されたミシガン大学マインド指数(確報値)が共に予想を上振れた。その辺りから下のチャートのように米金利が上昇している。(緑部分)

(米長期金利)

しかし、シカゴ購買部協会景気指数や、ミシガン大学の指標により、米金利が上昇したわけではないと私は考える。何故なら、これまでそれらの指標が米債市場を動かしたことは、ほとんどないからだ。そうではなく、この2つの経済指標が出たことで、この日の経済指標の発表は終了した点が重要なのだ。経済指標の発表が終わったとたん、米金利は上昇し始めた。何故か?市場のテーマが、この日のショッキングな大統領選討論会に戻ったからだ。PCEデフレーターの発表が終わるまでは、この大統領選討論会のことはひとまずお預け状態になっていたのだ。しかし、PCEデフレーターを確認し、この日の経済指標発表も終えると、やはりバイデン氏の衰え、それによるトランプ氏の勝利の可能性が大きな話題としてカムバックしたのだ。トランプ氏が大統領に返り咲き、財政支出が拡大することで、インフレが再燃したり、あるいはタームプレミアムが上昇する展開だ。米債ショートを好むプレイヤーにとっては、このテーマは大好物なのだ。
だからこそ、この日は長期債が売られたのだ。30年金利が13bp上昇し、10年金利が11bp、5年金利が8bp上昇したのに対して、2年金利は4bpしか上昇していない。
更に、この長期債売り流れを加速させたのは、フランスの下院選挙の最新世論調査でマクロン氏の支持率が急低下し、マリーヌ・ルペン氏の国民連合が支持率を拡大していると報じられたことだ。市場では国民連合は第一党になっても、単独過半数の議席を獲得することは難しく、他の政党との協力が必要になるとの見方が強い。しかし、足元の情勢は「もしかしたら、単独過半数もあり得る?」みたいなムードになり、そうなると大規模な財政拡張政策が実施されるリスクがあるという警戒感があらためて高まったのだ。ドイツ国債とフランス国債のスプレッドは下のチャートのように拡大中だ。

(独仏スプレッド)


米国ではトランプ氏、フランスではルペン氏の財政拡張が同時に市場のテーマとなったのだ。これが6月末の月末買いのリバランスなどが終了した時点で巻き起こり、積極的な債券の買い手が不在の中で、欧米の長期金利を急上昇させたのだ。私は、こうした種類の金利上昇は持続しないと考えている。全ては憶測に過ぎないからだ。特に米国大統領選は、まだかなり先のことだ。こういう思惑での金利上昇時に、インフレ再燃や米国経済の好調さなどの追加のサポート材料が加わると、金利上昇が短期的に加速するリスクはある。そういう意味では、来週は非常に重要だ。しかし、経済指標が米国経済の減速を示すのであれば、こうした財政拡張政策による思惑の金利上昇はいったん巻き戻されると予想する。

インフレ再燃については、今週はオーストラリアのCPIも話題になった。5月の豪州CPIが前年同月比4%となり、3カ月連続で市場予想を上回ったのだ。

(オーストラリアCPI)

このオーストラリアのCPIが何が問題なのか?下のチャートのように、オーストリアは昨年11月に政策金利を4.35%に引き上げた後、政策金利を据え置いている。多くの中央銀行が、コロナ禍の高いインフレに応じて政策金利を急激に引き上げた後、利上げを停止して据え置き期間に入り、ここもとでは金利据え置きから、利下げサイクルへ移行している。スイス中銀は2会合連続の利下げを実施した。カナダやECB、スウエーデンも利下げを実施した。こうした中で、オーストラリアも利下げサイクルに程なく入ると予想されてきたのだが、3カ月連続のインフレの上昇により、足元では利上げ見通しが浮上しているのである。

(オーストラリア 政策金利)

下のチャートは、5月中旬時点のオーストラリアの先行きの政策金利見通しだ。年内に1回の利下げが60%程度織り込まれていた。

(5月中旬のオーストラリア政策金利見通し)

それが直近のCPI発表後には、以下のような状況に変化した。年内に1回程度の再利上げを70%程度織り込んでいるのである。

(オーストラリア 政策金利織り込み)

利上げ停止→利下げサイクル」という流れではなく、「利上げ停止→再利上げ」という構図は、市場が最も嫌がる状況であり、これが米国でも起こることは最悪のシナリオだ。もちろん、これはオーストラリアの話であり、米国ではない。しかし、オーストラリアで起こるなら、米国でも起こり得る。そういう思惑が市場では働くのである。オーストラリアの10年金利はCPI後に大きく上昇して、世界の債券市場に少なからず不安を与えたのだ。しかし、週末の米国のPCEデフレーターが低下したことで、この不安は後退した。来週前半のEUのインフレ率の発表が落ち着いた内容であるならば、ひとまずオーストラリアの状況と他国の状況は切り離されるだろう。

(オーストラリア10年金利)

次に今週の米国の経済指標を確認しておこう。
新規失業保険の継続受給者は市場予想を上回った。景気後退等を心配するレベルではないものの、チャートでみると、やはりじりじり増加している。これは失業率に反映されてくる可能性が高いだろう。つまり、過去最低レベルの失業率がじりじり上がるということだ。水準としては過去最低だが、じりじり上がる。これを市場がどう判断するかは、まだ先のことだろう。

(失業保険継続受給者数)

米国の中古住宅販売件数の前月比が▲2.1%と落ち込んだ。

(中古住宅販売仮契約 前月比)

中古住宅販売仮契約指数は、過去最低の水準まで落ち込んでいる。既存住宅市場は在庫不足により、低迷が継続している。

(中古住宅販売仮契約)

住宅取得可能の容易さを示す指標も、過去最低水準から回復していない。これはトランプ氏が大統領になった場合に問題視する項目だ。トランプ氏は、「国民が住宅を手に入れやすくすることが大事」と言い続けている。現在の米国の住宅市場は歪んでいる。この歪みの解消には、米金利を大幅に低下させる必要がある。トランプ氏が大統領になった場合には、FRBには相応の圧力が加わることは間違いないだろう。

(住宅取得可能指数)

(2)米国株式市場

米国株式市場が好調だ。半年が経過したので、前半の状況を整理してこう。

上記のようなアノマリーがあるのだが、年初から6月末までに、S&P500は14.5%上昇した。過去最高値を31回も更新するなど、極めて好調だ。但し、上記のアノマリーでは、上昇した17回の平均上昇率は16%であるので、ここから年後半の上昇率はあまり派手な展開にはならないのかもしれない。

今年の前半の特徴は、S&P500が14.7%上昇しているのに対して、ラッセル2000は1%しか上昇しておらず、この差が13.7%もあることだ。このままの状況で年末に向かえば、4年連続でS&P500がラッセル2000のパフォーマンスを上回ることになる。これは珍しいことだ。

次にS&P500と米国債のパフォーマンスを確認しよう。今年も今のところ、S&P500のパフォーマンスは米国債を大きく上回っている。下の表のように過去21年間において、S&P500が米国債のパフォーマンスを上回った年は16回ある。その内で15%以上も差が開いた年は黄色の網掛けで6回ある。この状況を鑑みると、米国債だけのポートフォリオは分が悪く、米国株を主体に米国債を組み合わせることがベターと言えるだろう。

今日は早朝からゴルフで、レポートが書けなかった・・・
ひとまず、今回は大統領選テレビ討論会と米長期金利の上昇を中心にお届けした。来週は重要な経済指標が相次ぐ。イスラエルとヒズボラの状況も目を離せない。米国株はセクターローテーションをしながら底堅い展開が継続している。日本株は消去法的に上昇しているが、4万円アッパーをしっかり超えていくには材料不足だ。来週は円金利が一段と上昇するリスクもある。私は日本株の指数取引の上値追いには慎重な立場を取っているが、さてどういう展開になるか?来週に備えて、週末はパワーを溜めましょう!!






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