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来週の相場見通し(9/11~9/15)①

1.はじめに

今週のテーマは「視界不良」である。米国経済の動向に市場の関心が一段と高まっている。米国労働市場では、ようやく鈍化の兆候が出てきており、市場の関心は高い。そして、米国経済は好調な個人消費が牽引してきたが、先行きについては懸念事項が多い。9月FOMCでは、FRBの利上げ見送りが優勢になっている。米国では議会が再び混乱しており、10月より政府閉鎖の可能性が高まっている。また全米自動車労働組合と、米国自動車ビック3の労使交渉は難航しており、9/14以降に大規模なストライキに投入する可能性もある。政治も産業界も視界不良である。9/14は欧州ではECB理事会が開催されるが、この会合も視界不良であり、市場では意見が分かれている。日本では9/14に前回の入札が歴史的な不調に終わった20年債の入札を控える。これも波乱要因だ。また、岸田政権が内閣改造を発表しそうだ。外交日程の都合上、来週か9月の最終週が目されているが、直近の報道では来週13日頃にも発表されそうだ。この内閣改造人事で、岸田政権は支持率を回復させることができるのだろうか?中国では、注目された碧桂園のドル建て債の利払いが今週無事に行われ、デフォルトを回避したが、来週以降も様々な支払いを迎えることから、試練を迎える。サウジアラビアとロシアの原油自主減産の延長により、原油価格が上昇している。様々な視界不良が各市場で散見される状況だ。今週も幅広く、市場を眺めて、状況を整理していこう。今回は前半と後半で整理する。

2.米国の視界不良

① 米国政治

今週はウオールストリートに掲載されていた記事に驚愕した。同紙が8月に実施した世論調査はサンプル数が少ないのだが、結果はバイデン大統領や民主党にとって恐ろしいものだった。下の図のように、7割を超える人々がバイデン大統領は再選を目指すには高齢過ぎると回答しているほか、現時点における精神面での大統領の適正も6割の人が「No」と回答しているのだ。

(バイデン大統領への評価)

更に、個別の政策への支持、不支持が下のグラフである。いずれの項目も不支持が支持を上回っているが、特に経済、国境の安全保障において支持は30%台と低い。ちなみに、経済と国境管理はいつも大統領選での主要な議題になる項目だ。

(バイデン政権の政策への支持、不支持)

更に、この調査で興味深いのは、バイデン氏とトランプ氏の戦いになった場合には、支持率は46%対46%で大接戦になることだ。これまでは、バイデン大統領なら、共和党からトランプ氏が出てきた場合には有利というのが、民主党内でバイデン大統領が支持されている主要因であったはずだが、その状況が変化しているようだ。また、そこに環境保護派やリバタリアンなどの第三勢力の候補が加わった3つ巴の戦いになる場合には、トランプ氏が40%、バイデン氏が39%となり、バイデン大統領に不利になるとの結果が示された。僅差とはいえ、これはなかなか興味深いものがある。このような状況のなかで、民主党は本当にバイデン大統領で2024年の大統領選挙を戦うのだろうか?米国の大統領選において、現職大統領が再選を目指すなかで、同じ党の他の候補が立候補して現職と指名候補を争うケースは稀だが、ないわけではない。
1976年には、ジェラルド・フォード大統領の再選に対して、同じ共和党のロナルド・レーガンが挑戦したし、1980年には民主党のジミー・カーター大統領の再選に対して、あのケネディ(JFK)の末弟であるテッド・ケネディ上院議員が立候補して挑戦したこともある。また、1992年には共和党のブッシュ(パパ)は、パトリック・ブキャナンから挑戦を受けた。いずれも挑戦者は、結局指名争いで負けて、大統領選には進めていないが、現職の再選に挑戦すること自体は、珍しいがタブーではない。特に、今回の世論調査が示すように、明らかに国民がバイデン大統領の再選を望んでいないのであれば、勇気のある挑戦者が出てきても良いと思うのだが、どうだろうか?
また、もう一つの可能性は、バイデン大統領が再選を自ら辞退するケースだ。これは「勇退」として評価されるだろう。現段階では、既に出馬を表明した後であり、そのような兆候は全くないのだが、バイデン大統領が疲労困憊でお疲れなことは間違いない。このような世論調査を目にして、妻や娘さんに諭されて、再選を辞退する可能性はゼロではないだろう。その場合、24年の大統領選は一気にこれまで違う展開で加速することになる。もちろん、米国株には中期的にポジティブとなるだろう。私は、まだどこかで、そんな展開を期待しているのだ・・・

② 米国政府閉鎖

米国の予算年度は10月から翌年9月末であり、9月は来年予算を可決することが最大の仕事となるが、連邦政府の12項目の予算のうち、まだ可決された項目は1つもないという状況だ。例年は12月頃までの暫定予算を組むが、足元では両党の対立が激しい他、共和党内でも強硬派と保守派が対立しており、暫定予算も簡単には成立しない。共和党の強硬派は、最優先事項としてバイデン大統領に対する「弾劾審議」を求めており、これが認められないと予算協議には応じない姿勢を貫いている。しかも、今年は「オムニバス」が使えない。オムニバスとは、12の連邦予算を個別に可決することは大変なので、1つの大型法案にパッケージ化して、全部まとめて可決させる方法だ。慣習的にオムニバスで予算を成立させることが多いのだが、今年は使えない。マッカーシー下院議長が今年の1月に議長に就任する際に、共和党議員の保守派から強烈な抵抗で、なんと15回もの採決の結果、なんとか就任した経緯があった。あの際にマッカーシー氏は、下院議長に就任するために、保守派に対して複数の妥協をしたのだが、その中の1つに「12の歳出法案をパッケージ化せず、個別に取り扱う」という約束がある。このために、12の予算法をすべて個別に可決させる必要があるのだ。しかし、9月に議会で審議できる日数は少なく、このままでは暫定予算を組めずに、10月より政府閉鎖に陥るリスクがある。

ところで、今年の6月には債務上限問題で市場は揺れたが、債務上限問題と政府閉鎖は全く異なる。債務上限とは、議会で定めた法定債務上限に累積債務が到達してしまうと、議会で法定債務上限を引き上げたり、一時的に凍結をしないと、政府は新たな借り入れができず、手元の現金だけでやりくりする必要が出てくる。その間に米国債の利払いや満期が到来すると、政府はその支払いができずに、国債が債務不履行に陥る可能性が出てくる。これは脅威だ。
これに対して、政府閉鎖とは基本的には政府が予算案を成立できずに、新年度が開始しているにも拘わらず、新しい年度の予算が承認されていない場合に起こる。政府は緊急性、重要性の低い政府の業務を一時的に停止することで、コストを抑制するのだ。典型的なのは、国立公園が閉鎖されたり、政府職員が自宅待機になり、雇用統計などの重要な経済指標の公表が予定通り行われなかったりする。ちなみに13年の政府閉鎖の際は、10月4日に出るはずの雇用統計が、22日に遅延して公表された。
そして、重要なポイントは、債務上限問題で米国債がデフォルトに陥ったことは一度もないのだが、この政府閉鎖は頻繁に発生するということだ。つまり、市場は政府閉鎖については、慣れている。政府閉鎖という響きは、おどろおどろしいのだが、市場にとっては、それほどの大きなリスクではないのだ。下の表は、過去の政府閉鎖の状況と閉鎖期間中と、再開から1ヶ月後のS&P500の騰落率である。

(政府閉鎖時の株価の動向)

まず、見ての通り、政府閉鎖とは基本的に短い。これまでの最長記録はトランプ政権で発生した約1カ月超である。6回の平均は閉鎖機関は14日、その間の騰落率は+3%上昇、再開から1ヶ月後には+3%上昇である。要するに、株式市場においては、あまり直接的なリスク要因ではない。

下の表は、政府閉鎖中のドル円相場の変化であるが、こちらも、何か目立った動きが確認できるわけではないようだ。

(政府閉鎖中のドル円相場動向)

但し、政府閉鎖はリスクにならないわけではない。それは、今年の10月~12月は市場にとっても、FRBにとっても米国経済の真の姿を確認するための重要な時期であるからだ。FRBにとっては、利上げの最終コーナーにある。市場においても、ようやく労働市場に鈍化の兆しが出てきたとこであるほか、10月以降は学生ローンの返済も再開され、個人消費の動向は再注目テーマだ。そんな大事な局面で、政府閉鎖により、重要な経済指標が公表されなかったり、あるいは公表遅延でデータの連続性が失われたり、政府閉鎖にによる間接的な特殊要因でデータが影響を受けたりすると、市場は何を信じていいか分からなくなる。まさに視界不良となる。通常時は、それほどリスクではない政府閉鎖であるが、今年はタイミング的に場合によっては、市場を視界不良の深い霧に包みこんでしまうかもしれないのである。

③ 米国経済

(ISM関連)
ISMの項目における価格や入荷遅延等の項目が、ボトムから反発して、比較的大きく上昇している。水準的に頃前のレベル付近であり、今のところ懸念はないものの、市場は今後のデータを少し気にしている。インフレの社会への浸透、すなわち高インフレの常態化を示すようだと、ちょっと厄介だ。

(個人消費)
米国経済の好調さの大きな要因として、個人消費の堅調さが挙げられるが、その要因として、①労働市場の好調さ、②コロナ禍の余剰貯蓄、③インフレの鈍化傾向、④コロナ後に借り換えが進んだ低金利の住宅ローン、⑤個人の家計純資産の急回復等が指摘される。しかし、これらの内、①~③については既に変化が生じている。①の労働市場については鈍化傾向が見えてきた。②のコロナ禍の余剰貯蓄は7-9月にも枯渇すると予測されている。実際に米国の貯蓄率は3.5%まで低下している。③について、全体のインフレは鈍化傾向だが、個人消費に影響しやすいガソリン価格は上昇している。更に学生ローンの債務返済が10月より再開すること等を鑑みると、個人消費が急速に落ち込む展開はリスク要因であり、市場の関心は高い。来週の小売売上高は注目されるだろう。
一方で④と⑤は個人消費を支えている。以前にも取り上げたが、コロナ禍の金利急低下で米国住宅ローン金利は一時2%台まで低下した。その際に多くの住宅ローン保有者が、この低金利に借り換えを行っている。米国は30年、固定金利が9割を占めるため、この時の金利急低下で借り換えを行った人々は、大きな恩恵を受けているのだ。
⑤については、今週に直近の家計の純資産データが公表された、下のチャートは、FRBが公表する四半期ベースの米国家計の純資産の増減の変化を示したものだ。純資産の総額ではなく、四半期の増減である。今年の4-6月期は5.5兆ドル増加した。株高や不動産価格の上昇が主要因のようだが、大きな伸びとなり、これで累計の家計純資産は154兆3千億ドルと過去最高を更新したと報告されている。とんでもない規模である。

(米国家計純資産四半期変化 単位:10億㌦)

このように市場では先行き、個人消費が落ち込むと予想しているものの、実際のデータを確認するまでは何と言えない。要するに視界不良なのだ。

(ベージュブック)
今回のベージュブックは、市場では注目された。労働市場と物価、商業用不動産について、各連銀の報告を整理したのが次の表である。

◆ 労働市場
労働市場については、総論として「多くの企業が賃金の伸びについて、下半期はこれまでとは違うだろうとの見方を示した」と報告されている。セントルイス連銀、カンザスシティ連銀、ダラス連銀以外は、雇用や賃金上昇圧力の鈍化を報告しているようだ。

◆ 物価
物価については、まちまちであるようだ。

◆ 商業用不動産
引き続き、オフィス関連の低迷が多く指摘されているほか、銀行の貸出態度の厳格化も確認されるものの、総じて見ると、3月の金融不安後に懸念されていたような商業用不動産の劣化から、米国経済全体が落ち込むような状況にはなっていない。

現在、FRBなどの当局が盛んに説明していることの1つは、「タイムラグ」である。先般は、シカゴ連銀の2人のエコノミストが、FRBの昨年来からのFF金利引き上げは、既に十分であり、これからタイムラグが顕在化して、インフレを抑制するという趣旨の研究を報告している。パウエル議長なども、既に金利水準は抑制的であり、その効果が経済にじわじわ出ているというスタンスを取っている。ここで言う金利水準は「実質金利」であるのだが、米国の実質金利が自然利子率を上回ったのは、昨年の秋以降である。その影響が出てくるのを、FRBは待っているのである。そうしたタイムラグが重要な中で、ベージュブックはやや抽象的ではあるものの、速報性が高いため、タイムラグを見極めるうえでは、今後は一段と注目が集まる経済データとなるだろう。

④ ストライキ

まずは米国のストライキの状況を確認しておこう。下のグラフであるが、今年は足元までの状況だが、かなりのペースでストライキや労働抗議が発生している。

そうした中で、市場は来週の14日に期限を迎える全米自動車労働組合(UAW)とフォードやGMなどのビッグ3との労使交渉を注目している。UAWの会長であるショーン・フェインの要求は、かなり強烈だ。完全週32時間労働の実現、閉鎖工場の従業員に対する補償の継続EVへの以降に伴う雇用の確保、46%の賃上げ、生活費調整と確定給付年金の復活、段階的賃金制度の廃止などだ。そして、このUAWの交渉が厄介なのは、米国政府も米国自動車業界も、「EVシフト」という大きな流れの中にあることだ。今年は配送最大手のUPSとチームスターズの労使交渉が大きな話題になった。結果として、組合側のチームスターズは大勝利となったわけだが、その背景は会社側にとってドライバーが必要なこと、そして組合が要求する運転手の暑さ対策などは必要な措置であったからだ。チームスターズの交渉も強烈だったが、基本的には「儲かった利益を還元せよ」という交渉である。しかし、自動車業界の場合は、EVシフトやロボット投資、自動化技術導入により、ガソリン車を製造していた時の従来の労働者を必要としていない。こうした状況が労使交渉を難航させている。バイデン政権も相当気にしており、8月末にはエネルギー省がEVへの移行に向けて、生産工場の改修や労働者の再雇用や訓練に155億ドルの支援を行うとして、会社側の負担を軽減する措置を発表しているが、ストライキを回避できるかはまだ分からない。
ハリウッドのストライキもまだ継続している。9月上旬には終了すると見込まれていたが、年末まで継続するかもしれない。こうしたストライキなどは、労働市場データにも影響する。視界不良要因としては、ストライキは無視できないと思われる。

⑤ 米中対立加速

今週は米中対立で2つの重要な動きがあった。1つの大きな話題は、中国政府がiPhoneの使用について、政府、地方政府や国有企業での使用を制限したことだ。これを受けて、アップル株やクアルコムなどのアップルのサプライヤーの株価が大きく下落した。

(AAPL株価)
(クアルコム株価)

この問題であるが、もともと中国の共産党政府は、暗黙の了解で自主的に国内のファーウエイ、OPPO、シャオミーを使用しているはずだ。何を理由に国賊扱いされるか分からない国であり、自分を守るためには、愛国を示すことは当然だろう。そんな中で、中国の共産党政府は、このタイミングでiPhoneの使用宣言を発表したのだ。しかもレモンド商務長官が訪中して、色々な議論をした直後である。真相は分からないが、中国は7/3にゲルマニウムとガリウムを国家安全保障を理由として輸出制限を開始した。あのときに、私はこれから中国が米国の半導体制限等に対する報復を徐々に開始する第一歩ではないかと考えてきたが、今回の件もその延長戦ではないかと思われる。最近の中国は国内では内需不振、不動産問題、そして外交ではBRICSの成功、習近平主席のG20欠席、習近平氏の健康問題の噂、北朝鮮とロシア、中国の軍事的な動向など、視界不良のネタがごろごろしている。こちらは、また別途取り上げよう。

さて、もう一つは、ファーウエイの新スマホであるMate Pro60に中国のファウンドリーであるSMICが製造した7ナノのチップが搭載されているというニュースである。米国は中国が14ナノより先端の半導体を製造できないように様々な輸出規制を敷いてきたことから、早速ファーウエイの新製品の調査を開始するようだ。心配なのは追われる米国の過剰反応である、早速、中国特別委員会のギャラガー委員長は、「最先端半導体だけでなく、旧い技術も含めた全てについてファーウエイとSMICへの輸出を禁止すべき」と騒いでいる。他の強硬な議員も、輸出規制の抜け穴を塞ぐべく、関係国にも要請することを主張している。日本やオランダは、まさに当事者となるということだ。もちろん、中国政府も黙ってはいないだろう。米中対立の行方は、ますます視界不良になってきている。

⑥ 米国長期金利

今週は予想通り、レイバーデー以降、起債が相次いだことで、米金利は上昇基調となった。米国の起債は、週前半までに集中して、そこでひとまず終了と予想されている。要するに13日のCPI前までに起債が集中すると目されているとうことだ。そこに定例入札が加わる。来週は11日の3年債、12日に10年債、13日に30年債の米国債の入札が行われる。需給面では、今月としては最大の試練を迎えることになりそうだ。但し、CPIについては、上振れた場合の金利上昇よりも、予想以上に鈍化した場合の金利低下の幅は大きいと目されている。週前半の一連の需給イベントを消化し、CPIが鈍化したうえ、小売売上高が減速するようであれば、週後半は比較的大きく金利低下が進む可能性は十分あるだろう。

後半に続く・・・

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