【Commons Papers 02】 「アーバン・コモンズ・トランジッションの進展」 ミッシェル・バウエンス

『The Co-Cities Open Book』では、2015年にボローニャで開催されたコモンズ研究の国際会議「The City as a Commons」で発表されたアカデミックペーパー(英語)を公開している。本稿は、その中から「アーバン・コモンズ・トランジッションの進展(Michel Bauwens/ミッシェル・バウエンス)」を取り上げ、都市コモンズの研究・実践に向けて、市民都市研究会が和訳し共有するものである。


【本稿の研究会まとめ】このアカデミックペーパーでは、世界のアーバン・コモンズのケーススタディから、コモンズプロジェクトの課題や進展についてとりまとめ分析している。コモンズプロジェクトを円滑に進めていくために必要な視点や姿勢はこれまでの世界各地の実践の中で明らかになってきており、また、世界中にコモンズプロジェクトは生息している。しかしながら、コモンズプロジェクトは、決して、”言説の中では覇権を握っていない”状況である。市民や官の機関などから認知・理解され、地域資源の共同管理をより進めていく上では、引き続きの進展が必要であるというコモンズの現在地を教えてくれる。

アーバン・コモンズ・トランジッションの進展

Michel Bauwens
ミッシェル・バウエンス

このエッセイの目的は、このプロジェクトのために集めた40のアーバン・コモンズの経験 のケーススタディから何を学ぶことができるを要約することです【1】。

まず、方法論的な注意点を説明した後、ケーススタディを2つのグループに分けて分析しま す。最初のグループは、「グローバル・サウス/Global South」における9つの経験に関するものです。 これは、この地域の20の都市から選ばれた9つの都市で、強い欠乏が見られる 地域にあります。したがって、オーストラリア、ニュージーランド、そしてソウルの都市 は、この最初のカテゴリーに選ばれたケースと同じような欠乏の強さを示していないの で、「グローバル・ノース/Global North」のカテゴリーで扱います。

これらのプロジェクトで活躍するアクティビストやオーガナイザーに実施した広範な質問に 基づき、私たちは調査結果を次のようなグリッドで整理しました。

〇 地理的次元: プロジェクトが行われている場所
〇 キャッチメントエリア(ブロック/近隣/地区/都市レベル): 行政的なものも含め対象となる地域の範囲
〇 都市の集合ガバナンス: プロジェクトはどのように管理されているか、どのような利害関係者や参加者がガバナンスに関与しているか
〇 実現可能な都市: 市、地域、国の機関がどの程度プロジェクトを支援していか
〇 プーリズム: プロジェクトによって生み出されたり保護されたりする共有資源とは何か
〇 プロセス: プロジェクトで使用されている参加型の方法論はどのようなものか。

第1部: Global Southにおけるアーバン・コモンズ・プロジェクト

ここでは、9つのナラティブを分析した際に見られる共通点と相違点について、いくつか の重要な結論を示します。

結論1: 国と地方行政の問題ある役割

9つのケーススタディから得られた最初の結論の1つは、政府機関との協力、特に国レベル、またそれに限らず様々な公的機関との協力は、少数の例外を除き、ほぼすべてのプロジェクトで問題があるということです。

補完的なクレジット・コモンズに基づく通貨を使って地域経済の流れを活性化しようとし ているバーグリビエ/Bergrivierのプロジェクトでは、腐敗した新自由主義的な方向性を持つと見られている中央当局からの明確な不信感と拒絶反応が見られます。しかし、このプロジェク トは市当局から積極的かつ寛大な支援を得られたという点で例外的です。このプロジェク トのリーダーであり、ケーススタディの著者でもあるWill Ruddickは、組織レベルでは困 難であっても、無関心で敵対的な政府機関の中にあっても、変化をもたらし、ある程度の 協力関係を築くことができる「あいだ」となる人物が常に存在することを強調しています。ダカールのKer Thiosaneプロジェクトのリーダーは、貧しい地域の活性化というプロジェ クトの成功が明らかであるにもかかわらず、当局が無関心であったことを言及してい ます。ここで問題となっているのは、政府関係者が「共有化の論理/the logic of commoning(コモニング)」を見て理解することができないことです。特にそれが、政府、企業、古典的なNGO の領域外で起こっている場合にはなおさらて理解することができない。コロンビアのメデジンにおける文化プロジェクト・プラトヘドロの協力者たちは、市や地方政府は「都市の共同化/urban commoning(コモニング)」に対して日和見主義的なので頼りにならないと語っている。

また、政府の干渉や支援さえも拒否するプロジェクトもあります。例えば、コチャバンバの Hacklabプロジェクトでは、地元政府との円滑で超党派的な関係を維持しようとしていますが、プロジェクトの自律性を維持するために、政府とは距離を置いています。ブラジルのサンパウロにあるMInha Sampaというキャンペーン団体も、市民主導キャ ンペーンが政府への要求に基づいていることが多いため、政府からの資金提供を積極的に拒否しています。トーゴのロメにあるWoelabプロジェクトは、寄付者に助けを求めるという考え方を積極的に拒否しています。それは、個人や集団の自律性を奪うポストコロニアリズムの一形態であると考えられているためです。プロジェクとの主催者は「政府からも市からも支援はな く、プロジェクトは完全に限界に達している」と述べています。

一方、ケニアのナイロビ近郊で行われているカルラ・フォレスト・プロジェクトでは、地元の協力体制の構築者として政府の役割が必要であることを強調しています。 2005年の森林法がマルチステークホルダー・ガバナンスを構築しており、市ベースの森林保全プログラム、郡の環境ポートフォリオ、ケニア森林局のすべてが関係しています。さらにポジティブなのは、都市部の農民の福祉に取り組んでいる Manzigira Institute の経験で、地方自治体が彼らの政策提言に耳を傾け、考慮してくれていることから良い反応を得ていると主張しています。

結論2: プロジェクトはそのアプローチにおいて「統合的/integrative」である

すべてではありませんが、ほとんどのプロジェクトが「統合的」 なものです。これは、1つまたは複数の側面に焦点を当てたワンイシュー・プロジェク トではなく、問題とそれを克服するために必要な方法の双方について、全体的/holisticなビジョンを持っているという意味です。

例えば、Cowen/Ziniades(Bergrivier)は次のように強調しています。「ボトムアップ のアプローチは、事前のキャパシティビルディングなしには機能しないと考えらる、そしてこれは、内面的なアプローチ(自己変革)と関係性の能力(グループワーク)、外部次元(友好的または非友好的な外部機関と自信をもって関わること)を調整する 「統合的」なアプローチによって行われる」と。コチャバンバのHacklabプロジェクトは、コミュニ ティの統合と集団的知性は、個人の情熱的な貢献とバランスよく統合されていることを強調しています。ダカールのKer ThiossaneとロメのWoelabは、ネットワーク技術の習得による現代性と、アフリカの共同の伝統とを融合させて再構築させることを強く意識しています。

メデジンのプラトヘドロでは、彼らが「ポスト教育学」と呼ぶ手法を用いています。従来の知識をほとんど学ばず、実際にやってみることで学び、「他の人と一緒にやってみる」というプロセスを、積極的な傾聴に基づいて行い、セルフワークと身体への根ざしを統合しています。

結論3: 市民社会の方向性は、より倫理的でローカルな経済への取り組みと結びついている

いくつかのプロジェクトでは、市民社会のエンパワーメントに焦点を当てながらも、生計を立てるための試みとの関連性が、繰り返しテーマとして取り上げられています。

バーグリビエ/Bergrivierとバングラペサ/Bangla-Pesaのプロジェクト(それぞれ南アフリカとケニア)は、それぞ れ若者とインフォーマルな商売人に焦点を当てていますが、プロジェクトの解決策の重要 な部分として、地域の経済的価値の流れに注目しています。ここでのツールは補完通貨で あり、中小企業ネットワークのメンバー間の積極的な協力がバングラペサプロジェクトの 成功には欠かせません。

ロメのWoelabは、アフリカの村落統治の伝統にヒントを得た手法を用いて、ラボに参加 するメンバーが共同で所有し統治する社会的企業のためのインキュベーターを設立してい ます。ケナのManzigira Instituteは、都市部の農民の経済的福祉に焦点を当て、それを実現するための条件を整えています。

強調しておきたいのは、コモンズに関するプロジェクトは市民集団による活動ですが、自分たちを伝統的なNGOとは考えていないということです。ただし、より伝統的なNGOから支援や時には資金提供を求めています。Ker Thiossaneによると、地元の住民や機関と集中的に対話しているがAfropixelsのような国際的ネットワークやNGOとも連携しており、海外からの資金調達にも成功しているといいます。メデジンのPlatohedro は、特に地元の美術館や文化機関との連携を重視しています。Minha Sampaは、自己組織化のためのツールキットを使って市民主導のキャンペーンを支援していますが、資金は国内の財団から調達しています。

結論4: コモンズは、物語や実践として存在しているが、言説の中では覇権を握っていない

すべてのプロジェクトやケーススタディでは、資源をプールし、さまざまな角度からcommoning(コモニング)を実践していますが、それを表現するために異なる種類の言語(・言葉・文脈)を使用しています。

コーウェン・ジナイデス・バーグリビエのプロジェクトは、コモンズの言語を明確に使用していますが、それを地域の交換システムの構築に焦点を当てて組み合わせています。 WoelabとKer Thiossaneは、アフリカの伝統的な協力と統治の形態を新しい文脈で復活させることに焦点を当てており、非常に強い「ネオ・トラディショナル」の展望を持っているか。しかし、Platohedroでさえ、両方のコミュニティだけでなく、アンデスとその周辺地域の進歩的な政府連合によって使用されている「buen vivir/buen conocer」の物語の言説 に固定されている。「Buen Vivir」がアンデスの先住民の文化的伝統に強く根ざしているのに対し、「buen conocer」はより最近になってエクアドルのFLOKプロジェクトから輸入されたもので、ナレッジコモンズを作るための具体的な取り組みです。「Minha Sampa」は、より市民権・人権の伝統に根ざした異色の存在です。

結論5: ネットワーク技術の重要な役割

ケニアと南アフリカのウィル・ラディックのプロジェクトは、補完的な通貨システムの使 用を中心としていますが、まだアナログです。Cochabamba、Ker Thiossane、Woelab のプロジェクトは、デジタル・ネットワーク文化に重点を置いていますが、その中でもコチャバンバにしかない特定の技術(ワイヤレス・ネットワーク)に強く結びついていま す。ここで挙げた他の2つは、ファビング/fabbingやメイカームーブメントの哲学に近いもので す。Platohedroは、芸術的・文化的な実践に根ざしており、P2Pを中心とした「Do It With Others(他の人と一緒にやろう)」という理念を持っています。Minha Sampa は、政治的キャンペーンを促進するためのオンラインツールキットに焦点を当てています。

例外として、Karura ForestとManzingiraの実験では、デジタル文化との明確な関連性は見られないようです。

第2部: グローバル(Global North)に展開するアーバン・コモンズ・プロジェクト

結論1: ”パートナー都市/partner city”アプローチによる洗練されたアーバン・コモンズ政策の存在

グローバル・ノース/Global Northのコモンズプロジェクトとグローバル・サウス/Global Southのコモンズプロジェクトを比較した結果、西欧・ 北半球の多くの都市が、参加型であり共有型であるコモンズ指向の政策へと洗練された方向に進んでいることがわかりました。よく知られているイタリア・ボローニャの「都市コモンズの保護と再生のためのボ ローニャ規定」以外では、本報告書のケーススタディでは取り上げていませんが、市民主導のシェアリングエコノミーの創出を中心としたソウルの事例、共同ペースを通じてスタートアップ企業をコミュニティに組み込むことを指向するミラノの事例、市長と副市長が直接コモンズに関するプログラムを支援するアテネの事例、「コモンズを基盤とした共同経済」を担当する役人を配置した指名しコモンズに触発された政治連合のあるバルセロナの事例などがあります。エディンバラは公式に「協同組合政策」を掲げており、この枠組みの中ですでに17のコミュ ニティ主導の協同組合が作られています。ナポリでは、ここでは取り上げていませんが、 コモンズのためのコミッショナーが存在します。このような公共政策は、規制や制度が 複雑に絡み合い、財政的な支援やその他の形態の支援を受け、複数年の観点を持ち、複数のステークホルダーによるガバナンスを行い、市民や協同組合の取り組みを開花させています。また、OikosのDirk Holemans氏がベルギーのゲントでの経験から明確に述べて いるように、枠組みに基づいた資金調達競争(ミラノなどではいまだによく行われている)から、より長期的な公共サービスや政策の共同制作にしていくことが重要であり、また市民との協力や市民からの意見に依存するため、オープンエンド/開放型にしていくことも重要です。

結論2: 草の根都市コモナーズ(grassroots urban commoners)の綿密かつ長期的な統合戦略

驚くべきことに、市当局からの支援がほとんどない都市で活動する統合 的な市民共同体の精巧さがあります。これらのプロジェクトは、同様に複数年の観点を持ち、複数のス テークホルダーを有し、そして統合的なものです。ここでの重要な事例は、フランス北部のリール市で、「コモンズ議会(Assembly of the Commons)」を設立したことです(フランスの他の都市の9つの同様のイニシアチブとリンクしています)。また、共同運営の コワーキングスペースやメイカースペースなどの「オープンソースのサードスペース」を活用して、コラボレーション文化の構築に取り組んでいます(リールのMutualab/Coroutine、メルボルンのFootscray makerspaceなど)。リールはこの点で模範的であり、コモンズ議会はこれらの相互作用に対処するために洗練された社会憲章を策定している。メルボルンでは、オース トラリア全体でコモンズ移行連合を設立することで、市民の政治性をさらに高めていま す。ウィスコンシン州マディソンの相互扶助ネットワークは、他の16の都市とつながって おり、交換と支援のメカニズムの洗練されたメカニズムを開発しています。

結論3: 社会的持続性と生態的持続性の両立

The Footscray makerspaceでは、特にメルボルン西部の貧しい地域に住む移民や難民 の人々と協力し、元のものよりも価値を高めてリサイクルすることに結びつけています。スウェーデンのマルメの 廃棄物管理プロジェクトも同様に、移民の人々を統合することに重点を置いています。 ウィスコンシン州マディソンのM.A.N.は、最初のプロジェクトとして、市内の最貧地区にあるフードデザートエリアのための食の協同組合を作っています。ゲントのOikosは、 社会的および生態的観点から、都市の現実の2つの側面を同時に解決するプロジェ クトを探しています。ジョージア州サバンナのEmergent Structuresプロジェクトは、特に建設・解体廃棄物の再利用に焦点を当てています。これらのプロジェクトは、生態系の 問題は貧しい人々に偏って影響を与えているが、その問題を解決することで、地域経済、 雇用、技術、収入を生み出すという経済的且つ社会的な機会も生まれるという洞察に基づいています。

結論4: 水平主義的期待と制度的ガバナンスの緊張関係

水平主義的な願望と制度化を必要とする垂直なニーズの間にある「適切な/right」ガバナンスモデル を適応させようと苦心しているプロジェクトはかなり多く、特に、それらのプロジェクトは公的支援をあまり受けずに機能しているものが多い。最も洗練された試みは、一連の社会的憲章を策定したリールの「コモンズ議会」であろう。マルメのAnna Seravalliは、ユーザーベースのガバナンスが文化的な排除メカニズムを自己強化してしまうため(オタクがより多様な人々ではなく、他のオタクを引き寄せる)、ユーザーベースのガバナンスを放棄しなければなら なかったと明確に報告しています。ほとんどのプロジェクトは、オストロムがすでに 述べているように、ポリセントリックなガバナンスモデルに移行しています。ボトムアップであれ、トップダウンであれ、すべてのプロジェクトはかなり大胆な参加型プロセスを当然のこととして取り入れており、これは公務員を含む深い文化的シフトを示している。

結論5: 経済発展のためのツールとしてのコモンズ

エディンバラの市議会は、活気ある「協同組合経済」の活性化を目指しています。ソウル やミラノでは、「シェアリング」や「コラボレーション」による経済の創出に力を入れて います。バルセロナのファブシティは、ファブリケーションラボを中心に、50年以内に食料と工業生産の50%をその都市とそのバイオリージョン(生態学的な周辺地域)に回帰させるという野心的な目標を掲げている。オハイオ州クリーブランドのエバーグリーン協同組合モデルは、病院や大学など の「アンカー機関」の購買力を利用して、不利な状況にある都心部に地元の協同組合を基盤とした繁栄する地域経済を作ることを目的としており、すでに食品やランドリーサービ スなどで多くの協同組合を作ることに成功しています。

アメリカジョージア州のサバンナのプロジェクトは、建設・解体廃棄物のリサイクルを中心に経済を創出するという意欲的な試みです。ニューヨークの「596エーカー」は、公共スペースから不動産投資協同組合を通じた地域運営の商業ゾーンの創出へと移行しており、the Santaporo wireless commonsは、地域の農家が経済機能に不可欠な農業情報にアクセスできるよう支援することを目指しています。

これらのコモンズプロジェクトの事例に共通しているのは、コモンズやシェアリング、コラボレーションが単に 「やるといいこと/nice thing to do」としてではなく、新しくて活気のある地域経済の創造に欠かせないものであると考えられていることです。

【1】この寄稿文は、Co-Cities研究プロジェクト(www. commoning.city)の中で、Michel Bauwensと LabGovチームが共同で、Vasilis Niarosの支援を受けながら行った作業の結果です。本論文では、Co-City データベースのために収集された最初の30件のケーススタディのデータを分析しています。この寄稿文の一 部は、Michel BauwensとVasilis NiarosによるP2P財団の出版物に掲載されています(タイトルは 「Changing Societies through Urban Commons Transition」)。
Changing Societies through Urban Commons Transition, http:/commonstransition.org/ wp-content/uploads/2017/12/Bau-wens-Niar-os-Urban-Commons-Transitions.pdf.