いつも優しい椅子たち

 腰掛けられるものは全て「椅子」なのかもしれない。床も「椅子」?手すりも「椅子」?机も見方によっては。階段もかな?どうだろう。しかし、かれらは座られるのを待っていないような気がする。

 椅子は私たちの特殊な姿勢を支える専門家だ。色々な形や色、素材、模様で私たちの要望にこたえ、たのしませてくれる。

 椅子はたくさんの場所に生息している。僕は椅子の写真をよく撮るけど、たのしそうな子もいれば、すこし淋しそうな子もいる。

 洒落たカフェ等で働いている子は店員さんと同じようにせっせと働き(座らせ)、雰囲気もどこか朗らかで落ちついている。だけどショッピングモールの端とかにいる子はすこし淋しそう。座る人がくると、やっぱり嬉しそうだ。

公園とか屋外で働いている子もいるよね。雨の日も風の日も我慢強く脚でたち、座る人たちのドラマにそっと腰をかす。ストイックに役に徹する俳優さんみたいだ。色んな場所で活躍しているし、尊敬するなぁ。お客さんがいないときはやっばりすこし淋しそうだけど、自分ができることを精一杯やってやろうという気概と誇りも感じる。

 家庭で働いている子もいるよね。もう家族同然だ。食卓を囲んでいる姿はまるで喋っているみたいだ。書斎の椅子は「テストどうだった?」とか「私に座って、ちょっと休憩しない?」とか喋りかけてくる。長い時間座っているときは「重いぃぃぃ…ちょっと疲れてきたわ。」とか言ってくる。腰が痛くなるときは椅子が疲れたときなのかもな。部屋に帰ってきたときは「おかえり。」、部屋を出るときには「また、待ってるよ。」と。

 椅子と一緒にいる時間は相当に長い。でも、変わらずいつも助けてくれるし、安寧の場所をくれる。優しっ。

 僕は今、実家にいないけど、小さい頃にミートソースをぶっかけちゃったダイニングの椅子は…、一緒に勉強してくれた自室の椅子は…、寝落ちしてヨダレを垂らしても温かく見守ってくれた長椅子は…

 今も変わらず「おかえり、待っていたよ。」って言ってくれるかな。

        『いつも優しい椅子たち』
               詞 : 林 荘太

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