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「ワクワクチンチン」Tシャツについて

シティーハンターの高橋サフランです。

前回の記事。下北沢を散歩していたヤマダは、不意に“ワクワクチンチン”と書かれたTシャツを発見したそうで、ひどく動揺していました。
彼のビジネス脳からすれば、「ワクワクチンチン」の意図が全然わからない。誰をターゲットにしていて、いつどんな場面で着るためのTシャツなのか。はたまた採算は取れるのか……。

とまどった挙句ヤマダは、ただの下ネタにしか聞こえない「ワクワクチンチン」に、ある価値を見出します。ただの下ネタにしか聞こえない「ワクワクチンチン」というメッセージに隠れている本当のねらいは、ワクチン接種を促すことかもしれない、と思い至るのです。おもしろい見解だと思います。



では僕の考える「ワクワクチンチン」の本質とはなんでしょう。
高橋からのアンサーです。

「ワクワクチンチン」にはワクチン接種を促すというマジメな意図なんか1ミリもありません。ヤマダが最初に感じたように、ただの下ネタ。それ以上でもそれ以下でもありません。メッセージ性なんていう大それたものもなければ、ねらいやゴールの設定なんてものもなく、ただ言いたかっただけということに尽きます。ビジネスライクに深く考えても時間の無駄でしょう。

かくいう僕自身、以前ツイッターで「ワクワクチンチン」とつぶやいたことがあります。ワクチン接種を前にワクワクしていたわけでもなければ、誰かにワクチン接種を勧めようとしたわけでもありません。ただ思いついたから、どうしても言いたくなった。(そもそも「ワクチン」という言葉の響きには遊び心をくすぐる魔力があると思うわけです。)
当然それを「ワクワクチンチン」として投下したところで、唐突すぎるし下ネタとしてもレベルが低い。それはわかってる。バズりはおろかひと笑いすら期待できない誰でも思いつく言葉遊びに過ぎない。そんな言葉をわざわざつぶやいて自分になんのメリットがあるのだろう……。
でも言いたくなってしまったんだからしょうがない。言ってスッキリするしかなかったのです。


ただ、ツイッターでつぶやくのとTシャツを作るのとではワケがちがいますよね。ただ言いたかっただけとはいえ、Tシャツにはお金も時間も、人の手も必要です。
だからその点、誰でも思いつく下ネタを、わざわざTシャツとして完成させた「ワクワクチンチン」Tシャツの作り手は本当にすごいと思います。それがたとえ「当たったらラッキー」程度のビジネスライクな思考からくるものだとしても、僕には到底マネできません。

実際ヤマダが下北で発見した「ワクワクチンチン」Tシャツは、増殖している「ワクワクチンチン」Tシャツのうちのほんの一例に過ぎません。

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ネットで「ワクワクチンチン Tシャツ」と調べれば、派生系もあるにせよ、バリエーション豊かな”ワクワクチンチン”Tシャツがたくさん出てきます。

また余談ですが、この現象は何もネタ系Tシャツ好きな日本人にかぎったことでもないようです。今回の「ワクチン」ネタでいえば、僕の知るかぎり欧米ではだいぶ前に「VACCINATED(ワクチン接種済みを意味する)」というメッセージTシャツが流行していました。
日本語の「ワクワクチンチン」が有するゴロの良さも下ネタ感も含まれていないのに“VACCINATED”Tシャツが流行した背景には、さまざまな出自さまざまな価値観の人たちが共生する社会ならではの、日本よりいくらかピリピリとした理由から皮肉まじりに生まれたのでないかと想像しますが、ここでは深入りしないでおきます。


話をもどすと、つまりここ日本では、誰でも思いつくような発想であっても言葉にしたがるし、Tシャツにしたがる。
たいていは本心売れたいバズりたいという下心を持ち合わせているだろうけど、あえてネタっぽくおちゃらけて見せることでビジネスの臭いを感じさせないように仕上げています。
当然自分以外にも「ワクワクチンチン」をTシャツ化するヤツがいるのはわかっている。だからせめて誰よりも早く商品化して、一番に、本家になるのが望ましいのです。

そこで思い出されるのが新元号「令和」が発表されたあとのお祭り感スピーディーな作品展開です。
当時の菅官房長官が新元号を発表するまでの前後の時期は、新元号の予想や賛否も含めて、日本中が不思議なお祭りムードとなりました。(今思い返すと懐かしくて平和でしたね。)
そして新元号「令和」が発表されると、まずはゴールデンボンバーが“令和”という新曲のMVを公開しました。「令和」という曲で誰よりも速くリリースすることが肝心なように思われたようです。もちろん後続もいただろうけど、僕が音楽部門での「令和」として印象に残っているのは唯一ゴールデンボンバーのみ。
他方Tシャツ部門では、「#FR2」がゴールデンボンバーと同じように「令和」を先取りしました。フロントに“令和最初の男”とプリントされたそのTシャツ。「#FR2」のキャラクターであるうさぎの刺繍にくわえて、バックにプリントされた“The First Man.”の言葉がブランドの世界観を担保していることもあって、安っぽくネタっぽくなり過ぎずに、ほど良くブランドを体現できているように思います。やはり「最初」は強いようです。



要は言いたいことだけ言うTシャツを作るにも競合が多いわけで、それをビジネスとしてやっていく場合にはなおさら、みんなが乗っかりたくなるお祭り感やスピーディーな作品展開を視野に入れる必要があるように思います。



最後。ちなみに僕がワクチン接種を本当に促したいのであれば、Tシャツにはしないでしょう。あの袖は医者にとって看護師にとってきっとジャマでしかない。
だからノースリーブやタンクトップでの「ワクワクチンチン」か、あるいはそれでもTシャツにするなら左袖の然るべき箇所に五百円玉サイズの穴を施したデザインのTシャツにするでしょう。

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